スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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五百六十四話 重ねるしかない

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「ねぇ、アラッド」

「なんだよ、スティーム」

夕食を奢って貰った二人。
最初こそ重苦しい空気だったものの、面倒な件について決着が着いてからは以前と同じく冒険者同士の明るい会話で盛り上がった。

「本当にあのエルフたちを緑焔から追放してもらわなくて良かったな」

ギルの時とは違うため、冒険者ギルドから追放する事は出来ないが、あのエルフたちがアラッドたちに絡んだ理不尽な理由を考えれば……事前にハリスが考えていたように、彼らを緑焔から追放することもできた。

しかし、アラッドはそこまでは……というよりも、それはしなくて良いと断言した。

「言っただろ。逆恨みが怖いってな」

「逆恨みか……そうなるのは予想出来なくはないけど、それでもそういった罰がないと、あいつらが増々調子に乗るんじゃないの?」

確かにあのエルフやハーフエルフたちは弓を使ったアラッドに負けた。

その事実は彼らのプライドをボコボコにへし折ったが……ハリスや緑焔の幹部たちが何かしらの罰を与えなければ、自分たちの考え方が間違っていることに気付くことはなく、やはり自分たちの思考は正しいのだと助長してしまうかもしれない。

「あいつらはハリスさんたちがどういった罰を下そうとも、考え方を変えることはない。残念なことに、本当にそういうタイプなんだろう」

「……拷問みたいな罰を受けても、その考えが変わることはないと」

「変わらないだろうな……もしかしたら、その痛みは乗り越えなければならない試練なのかもしれない! って変に自己納得? するかもしれない」

「…………まさに狂信者だね」

「だろ。逆に何故自分たちがそういった罰が受けるのかって考え始めると、結局ハリスさんではなく気軽に近づいた俺たちが悪いってなる」

理不尽極まりない思考ではあるが、それが狂信者というもの。

「もう、次そういう絡まれ方をした時点でぶん殴っても良い気がしてきた」

「できることなら、そのまま頭蓋骨を粉砕したいよな。とはいえ、それがあいつらの中で常識みたいになってるから……もし、本当にあいつらを正しい方向へ導くなら、洗脳するしかないだろうな」

「っ!!??」

まさかの友人の口から零れた言葉を聞き、驚愕の色が顔に浮かぶ。

(えっ……えっ!!!??? せ、せせせ洗脳!? じょ、冗談……じゃない、みたいだね)

全く冗談ではなく、真剣に考えた結果、出てきたアラッドなりの考えである。

「言っとくけど、冗談じゃないからな? あぁいう考えって言うのは、生まれてきた地域とか……そういう理由があるから、ここでの常識は自分の常識と違うんだなって納得出来るタイプじゃない」

「……そっか。人にはそれぞれの考え方があるんだなって内容に至れるのであれば、そもそもあんな馬鹿な考えは身に付かない、か」

「おそらくな。ハリスさんが同族に対してそういう事を行ってないというのを考えると、自発的に常識が変わった流れの筈。そう考えると、増々普通のやり方では一般的な常識的思考に戻すのは不可能だ」

とはいえ、アラッドはその方法をハリスに伝えるつもりはない。

彼等にいったいどんな過去があり、ハリスにどれだけの恩があるのかは知らないが……それでも、そういった考えに至り、実行してしまっている時点で根がどうなのか知れるというもの。

「……そうだな。次絡んできたら、あいつらの耳を引き千切ってやるべきか」

「ほほぅ……何故そういう攻撃を?」

普段のスティームであれば、それは止めておいた方が良いのではとツッコムが、彼らの行動に同じくイラつきを感じていたため、ツッコムことなく理由を尋ねた。

「だってさ、耳を千切ったら……エルフって分からなくないか?」

「そう、だね……なるほど、理に適ってるかも」

理に適ってるかもではない。

やってることは、エルフの逆鱗に触れてもおかしくない内容である。

「けどアラッド、エルフが特徴的な部分って他にもあるよ」

「それもそうだな……なら、耳を千切って消して……その後は髪の毛を全部引き千切るか」

「…………ぶはっ!!!!!!!」

その光景を思わず想像してしまい、盛大に吹き出すスティーム。
アラッドも自分で言っておきながら脳内でイメージを浮かべ、同じく吹き出し……まだ宿に着いていないというのに大きな声で笑ってしまった。

「お、お腹が、痛い……や、やり過ぎかも、しれないけど。お、面白過ぎる、よ」

「だ、だよな。違った耳がなくなって……つるっぱげの、エルフ……いや、もしかしてつるっぱげよりちょっと髪を残して坊主の方が良いか?」

「ぶはっ!!!!!!!」

本日二度目の大爆笑。

結局二人は宿に戻るまで笑いを堪えることが出来ず、偶にすれ違う人たちから変な眼で見られていたが……アラッドとスティームはそれを気にする余裕は一ミリもなかった。

だが、そんな大爆笑をした翌日……これまでと同じくサンディラの樹海で探索と調査をしていた二人に、中々笑えない強敵が襲来。
ここで先日脳裏に浮かんだ欠陥エルフを思い浮かべた場合……もしかしたら深手を負うか死んでいたかもしれないが、そんな余計な事を思い出すこともなく完璧に集中して対応を始めた。
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