上 下
561 / 1,023

五百六十話 眼を背けられない事実

しおりを挟む
「ぐっ……かはっ!!??」

「はぁ、はぁ……ふざ、ける、な」

「まだ、まだ、です」

「お前、如きに……!!!!」

訓練場に移動してから数分後……ハリスを慕うエルフやハーフエルフたちは全員地面に転がっていた。

(ふざけるな……ふざけるな!!! 私、たちが、弓を扱った戦い、で……負けるはずが、ない!!!!)

ズタズタのボロ雑巾にされても、まだメンタルは元気一杯な状態。
そこに関しては大したものだと褒めても良いかもしれないが……現実問題として、彼らは多数対一の勝負で負けた。

内容を見てもそれは接戦などではなく、惨敗。
しかも……相手の人間は鋼鉄と木材が混ざり合った非常に珍しい見た目ではあるものの、弓を使った。
自分たちエルフに、ハーフエルフに対して弓を使うという事は、言葉に出さずとも完全に喧嘩を売っている。

実際にアラッドは彼らの態度に対してイラつきを感じたからこそ、珍しく弓という武器を選んで戦った。

「いや、どう考えても俺の勝ちだろ。誰かしら一人でも立ってるならまだしも、全員地面に膝が付いてるんだぞ」

「まだ……意識は、失っておらん!!!!!」

根性を振り絞り、徐々に体を起こす。

改めて……その根性は素晴らしいと思える。
実戦であれば既に殺してしまっているが、先程までの戦闘で、彼らの心を折るには十分だった。

だが、アラッドと模擬戦を行ったエルフ、ハーフエルフたちの中で……誰一人として瞳の奥の炎は消えていない。

(凄い根性、メンタルなんだが……こんなところで発揮するなって話だ)

これはたかが模擬戦。
そう、たかが模擬戦なのである。

確かに彼らの方から面倒な絡み方をして、結果的に負けたとなればダサい……非常にダサい。

人族よりも遥かに長い寿命を持つ彼らにとっては、いつまで経っても消えることのない最悪の黒歴史となるだろう。
それでも……ここで素直に、とりあえず自分は目の前の人間よりも弱かったのだと認めれば、まだ格好が付くというもの。

しかし……この時点でまだ負けを認めないとなれば、それはもう……子供の駄々となんら変わらなくなってしまう。

「はぁ~~~~……ほれ」

「がばっ!!!???」

仕方ないといった表情で一発蹴りを放ち、腹にめり込ませ……ようやく立ち上がったエルフの一人が後方に飛ばされた。

「まだ負けてないとか言うなら、これぐらいの蹴りは躱せよ」

(……アラッド、本当にイライラしてるな~~~)

先程の蹴りは……魔力を纏っておらず、身体強化も使用していない。

しかし、素の状態で繰り出したほぼ全力の蹴り。
型などを整えておらず、ただのヤクザキックとはいえ、特殊な事情を持つアラッドの蹴りとなれば……基本的に防御力が低いエルフにとってはかなりきつい一撃となる。

ヤクザキックは肉を越えて腹を砕き……致命傷にはならずとも、内臓が少し損傷している。
放っておけば悪化は免れない。

「ま……だ……」

(アドレナリンが出てるからか、それとも強烈な怒りが止まらないからか……チッ、とにかくウザいな)

今回の戦いに……審判はいない。

ただ、戦闘内容は模擬戦、もしくは試合に留めると決めている。
決闘ではないため、万が一殺してしまっても問題無い……とはならない。

「ふぅ~~~、ハリスさんも可哀想な人だな」

「なっ!!! 貴様、いったいどういう意味だ!!!!!」

「言葉通りだ。自分を慕ってくれている奴らが、こんなにも弱いんだ。冒険者なんだから、自分の我儘を押し通そうするのは……まぁ、冒険者らしいと言えるかもしれない」

思想を押し付けられるのは違うと言いたいが、今は一旦置いておく。

「けどな……そんな自分の我儘を押し通そうと、他人と衝突するなら……お前ら、ちゃんと勝たないと駄目だろ」

「「「「「「ッ!!!!!」」」」」」

正論をぶつけても意味がないと判断したアラッドは、結果として現れた事実を突き付けた。

(多分、これが一番効くだろうな)

どれだけ正論を説いたところで、彼らは自分たちの考えを曲げることはない。
嫌な意味で堅く折れない芯を持っている。

ただ、全く攻撃できない面がないわけではなかった。

「結構我儘な考えを他人に押し付けようとしてるくせに、多数対一の勝負で勝てないって……お前らさ、そんなにハリスさんの事を尊敬してるのに、なんでそんな弱いんだよ」

「わ、私、たちは」

「いや、私たちはまだ負けてないとか、本当にただの言い訳にしかならないからな。これが模擬戦、試合だから俺はお前たちを殺してないだけで、生殺与奪の権は俺が握ってるんだ。それに、周りの同業者たちの顔を見ろ」

言われた通りにするのは癪……と言いたげな顔をしながらもぐるっと顔を動かすと……激しい怒りと恥ずかしさが同時にこみ上げてくる。

「弱いのに吼えるってのは、別に悪いとは思わない。ただな……事実を認めず、その場でキャンキャン吠えるのはただただダサくてみっともないだけだ」

ダサく、みっともない。
目麗しい彼らに使われることが殆どない言葉。

そんな言葉を浴びせられ、再度怒りがこみ上げるも……周囲の同業者たちが自分たちに向ける表情が、事実を物語っているのだと……まだ全てにおいて納得はしていないが、自分たちは目の前の男にはどう足掻いても勝てないのだと、それだけはようやっと理解出来た。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...