558 / 985
五百五十七話 まだ、残っている
しおりを挟む
「お見事、良い膝蹴りだったな」
「偶々だよ。今回の戦いは、よく相手の動きが見えていたからね」
ガルシアやレオナと比べて動きが遅く、速さに眼が慣れているから……という事だけが快勝した理由ではなかった。
「そういう感覚も実力の内だ。それじゃ、さくっと解体しよう」
頭蓋骨が粉砕されたオーガの解体を始めて数分、血の匂いに誘われた三体のグレートウルフが近寄ってくる。
(三体か……同じウルフ系のモンスターだから、クロの強さをより深く感じ取れると思うんだけど……さて、どするかな)
アラッドとスティームが解体中であるため、見張りはクロとファルが行っている。
「ワフ」
「……グルル」
ファルは見張りの続き、クロが対処と役割を決め……Aランクモンスター、デルドウルフのクロが一歩前に出る。
「「「っ!!!」」」
クロとしては……まだ自分、もしくは主人や主人の友人に手を出していない個体であれば、正直手を出したくないという思いはある。
アラッドの考えている通り、グレートウルフは自分よりも目の前の巨狼の方が格上だろ解っていたが……数の有利に酔い、生き残れた未来を捨てた。
「ワフゥ~~」
「お疲れ様、クロ。ありがとな」
結果として、三体のグレートウルフを倒すのにかかった時間は一分にも満たない。
ついでにグレートウルフの解体も済ませてしまい、更に先へと進む。
「…………」
「どうした、クロ」
数時間後、急にクロが脚を止めてその場の匂いを何度も何度も嗅ぎ始めた。
「……ワゥ!!」
「モンスターの襲撃、じゃないよな。もしかして、前と同じで……不自然に匂いが消えてるのか?」
「ワゥ!!」
「アラッド、前と同じっていうのは?」
「あれだよ、クソ魔術師が死体を使ってバカなことをやらかそうとしてたって話はしただろ」
「あぁ~~、あれか。アラッドがドラゴンゾンビを一人で倒したっていう」
本人としてはあまりそこを強く評価しないでほしいところだが、事件の内容を知っている者であれば、アラッドの一番の功績はそこだと断言する。
「まぁ、それだ。その時、クソ魔術師のアジトに続く部分だけが、変に匂いとかがなくなっていたんだ」
「つまり、ここに木竜が消えた何かが残ってるっていうこと?」
「そう思いたいんだが……この辺りは、木竜が住処にしていたところから、随分と離れてるだろ。それを考えると、絶対に手掛かりがあるとは断言出来ないな」
とはいえ、不自然に匂いが消えているというのは、明らかに人為的な仕業なのは間違いない。
(何かしらのマジックアイテムを使ったか、もしくはそういったスキルがあってもおかしくはない。おかしくはないんだが、何故匂いを消したのか……普通に考えれば、追われたくない事情があるから、だよな)
冒険者が凶悪なモンスターから逃げる為に、そういったアイテム、スキルを使用するという可能性は捨てきれないが……木竜が消えたという現状から、二人の中でその線はかなり薄かった。
「もしかしなくても、木竜を殺した、もしくは消した人たちがまだサンディラの樹海に残っている、ということだよね」
「そうなるな……ったく、嫌がらせにしては手の込んだ嫌がらせだ……もう少し探索して、他に手掛かりが見つからなかったら帰ろう」
それからは速足でサンディラの樹海を探索するも、同じく不自然に匂いが消されている場所は発見出来なかった。
「こちらが買取金額になります」
「どうも」
アルティーバに帰還後、討伐して解体した素材を売却。
その後、アラッドは今回得た手掛かりになるかもしれない情報を伝える為に、緑焔のクランハウスへと向かった。
「……ハウスっていうか、屋敷と言っても問題無いレベルの建物だな」
「それだけ大きな組織ってことだね。それで……本当に行くの?」
「事が事だからな、早めに伝えておいた方が良いだろ」
アラッドは一切躊躇することなく、緑焔のクランハウスの門へと向かう。
「待て、お前。ここが緑焔のクランハウスだと、解って……」
「えぇ、勿論解っています。ただ、緑焔のクランマスターであるハリスさんにお伝えしたい事があって」
「そ、そうか……す、少し待っていてくれ」
アラッド、そしてスティームという高ランクの従魔を従える二人のパーティーがアルティーバに訪れている。
これは先日の同じCランク冒険者の誘いを断った一件もあって、その正しい外見も広まっていた。
アラッドとスティームは見た目通り青年と言えば青年であり、視る眼がない者であれば侮ってもおかしくないが……見た目に強さがモロに出ているクロやファルを目の前にして、バカな態度を取るほど愚かではない。
「待たせたな。マスターが待つ部屋へと案内しよう」
「ありがとうございます。それで……クロとファルは、どこで待機させていた方が良いですか」
「むっ、そうだな。まずはそちらの方に案内しよう」
緑焔のメンバーにも従魔を従えるテイマーがいるため、敷地内に従魔用のスペースがある。
そこにクロとファルを待機させ……二人はトップクラスのクランハウスへと足を踏み入れる。
「偶々だよ。今回の戦いは、よく相手の動きが見えていたからね」
ガルシアやレオナと比べて動きが遅く、速さに眼が慣れているから……という事だけが快勝した理由ではなかった。
「そういう感覚も実力の内だ。それじゃ、さくっと解体しよう」
頭蓋骨が粉砕されたオーガの解体を始めて数分、血の匂いに誘われた三体のグレートウルフが近寄ってくる。
(三体か……同じウルフ系のモンスターだから、クロの強さをより深く感じ取れると思うんだけど……さて、どするかな)
アラッドとスティームが解体中であるため、見張りはクロとファルが行っている。
「ワフ」
「……グルル」
ファルは見張りの続き、クロが対処と役割を決め……Aランクモンスター、デルドウルフのクロが一歩前に出る。
「「「っ!!!」」」
クロとしては……まだ自分、もしくは主人や主人の友人に手を出していない個体であれば、正直手を出したくないという思いはある。
アラッドの考えている通り、グレートウルフは自分よりも目の前の巨狼の方が格上だろ解っていたが……数の有利に酔い、生き残れた未来を捨てた。
「ワフゥ~~」
「お疲れ様、クロ。ありがとな」
結果として、三体のグレートウルフを倒すのにかかった時間は一分にも満たない。
ついでにグレートウルフの解体も済ませてしまい、更に先へと進む。
「…………」
「どうした、クロ」
数時間後、急にクロが脚を止めてその場の匂いを何度も何度も嗅ぎ始めた。
「……ワゥ!!」
「モンスターの襲撃、じゃないよな。もしかして、前と同じで……不自然に匂いが消えてるのか?」
「ワゥ!!」
「アラッド、前と同じっていうのは?」
「あれだよ、クソ魔術師が死体を使ってバカなことをやらかそうとしてたって話はしただろ」
「あぁ~~、あれか。アラッドがドラゴンゾンビを一人で倒したっていう」
本人としてはあまりそこを強く評価しないでほしいところだが、事件の内容を知っている者であれば、アラッドの一番の功績はそこだと断言する。
「まぁ、それだ。その時、クソ魔術師のアジトに続く部分だけが、変に匂いとかがなくなっていたんだ」
「つまり、ここに木竜が消えた何かが残ってるっていうこと?」
「そう思いたいんだが……この辺りは、木竜が住処にしていたところから、随分と離れてるだろ。それを考えると、絶対に手掛かりがあるとは断言出来ないな」
とはいえ、不自然に匂いが消えているというのは、明らかに人為的な仕業なのは間違いない。
(何かしらのマジックアイテムを使ったか、もしくはそういったスキルがあってもおかしくはない。おかしくはないんだが、何故匂いを消したのか……普通に考えれば、追われたくない事情があるから、だよな)
冒険者が凶悪なモンスターから逃げる為に、そういったアイテム、スキルを使用するという可能性は捨てきれないが……木竜が消えたという現状から、二人の中でその線はかなり薄かった。
「もしかしなくても、木竜を殺した、もしくは消した人たちがまだサンディラの樹海に残っている、ということだよね」
「そうなるな……ったく、嫌がらせにしては手の込んだ嫌がらせだ……もう少し探索して、他に手掛かりが見つからなかったら帰ろう」
それからは速足でサンディラの樹海を探索するも、同じく不自然に匂いが消されている場所は発見出来なかった。
「こちらが買取金額になります」
「どうも」
アルティーバに帰還後、討伐して解体した素材を売却。
その後、アラッドは今回得た手掛かりになるかもしれない情報を伝える為に、緑焔のクランハウスへと向かった。
「……ハウスっていうか、屋敷と言っても問題無いレベルの建物だな」
「それだけ大きな組織ってことだね。それで……本当に行くの?」
「事が事だからな、早めに伝えておいた方が良いだろ」
アラッドは一切躊躇することなく、緑焔のクランハウスの門へと向かう。
「待て、お前。ここが緑焔のクランハウスだと、解って……」
「えぇ、勿論解っています。ただ、緑焔のクランマスターであるハリスさんにお伝えしたい事があって」
「そ、そうか……す、少し待っていてくれ」
アラッド、そしてスティームという高ランクの従魔を従える二人のパーティーがアルティーバに訪れている。
これは先日の同じCランク冒険者の誘いを断った一件もあって、その正しい外見も広まっていた。
アラッドとスティームは見た目通り青年と言えば青年であり、視る眼がない者であれば侮ってもおかしくないが……見た目に強さがモロに出ているクロやファルを目の前にして、バカな態度を取るほど愚かではない。
「待たせたな。マスターが待つ部屋へと案内しよう」
「ありがとうございます。それで……クロとファルは、どこで待機させていた方が良いですか」
「むっ、そうだな。まずはそちらの方に案内しよう」
緑焔のメンバーにも従魔を従えるテイマーがいるため、敷地内に従魔用のスペースがある。
そこにクロとファルを待機させ……二人はトップクラスのクランハウスへと足を踏み入れる。
148
お気に入りに追加
6,083
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する
あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。
俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて
まるでない、凡愚で普通の人種だった。
そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。
だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が
勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。
自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の
関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に
衝撃な展開が舞い込んできた。
そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。
※小説家になろう様にも掲載しています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス
優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました
お父さんは村の村長みたいな立場みたい
お母さんは病弱で家から出れないほど
二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます
ーーーーー
この作品は大変楽しく書けていましたが
49話で終わりとすることにいたしました
完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい
そんな欲求に屈してしまいましたすみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる