558 / 1,044
五百五十七話 まだ、残っている
しおりを挟む
「お見事、良い膝蹴りだったな」
「偶々だよ。今回の戦いは、よく相手の動きが見えていたからね」
ガルシアやレオナと比べて動きが遅く、速さに眼が慣れているから……という事だけが快勝した理由ではなかった。
「そういう感覚も実力の内だ。それじゃ、さくっと解体しよう」
頭蓋骨が粉砕されたオーガの解体を始めて数分、血の匂いに誘われた三体のグレートウルフが近寄ってくる。
(三体か……同じウルフ系のモンスターだから、クロの強さをより深く感じ取れると思うんだけど……さて、どするかな)
アラッドとスティームが解体中であるため、見張りはクロとファルが行っている。
「ワフ」
「……グルル」
ファルは見張りの続き、クロが対処と役割を決め……Aランクモンスター、デルドウルフのクロが一歩前に出る。
「「「っ!!!」」」
クロとしては……まだ自分、もしくは主人や主人の友人に手を出していない個体であれば、正直手を出したくないという思いはある。
アラッドの考えている通り、グレートウルフは自分よりも目の前の巨狼の方が格上だろ解っていたが……数の有利に酔い、生き残れた未来を捨てた。
「ワフゥ~~」
「お疲れ様、クロ。ありがとな」
結果として、三体のグレートウルフを倒すのにかかった時間は一分にも満たない。
ついでにグレートウルフの解体も済ませてしまい、更に先へと進む。
「…………」
「どうした、クロ」
数時間後、急にクロが脚を止めてその場の匂いを何度も何度も嗅ぎ始めた。
「……ワゥ!!」
「モンスターの襲撃、じゃないよな。もしかして、前と同じで……不自然に匂いが消えてるのか?」
「ワゥ!!」
「アラッド、前と同じっていうのは?」
「あれだよ、クソ魔術師が死体を使ってバカなことをやらかそうとしてたって話はしただろ」
「あぁ~~、あれか。アラッドがドラゴンゾンビを一人で倒したっていう」
本人としてはあまりそこを強く評価しないでほしいところだが、事件の内容を知っている者であれば、アラッドの一番の功績はそこだと断言する。
「まぁ、それだ。その時、クソ魔術師のアジトに続く部分だけが、変に匂いとかがなくなっていたんだ」
「つまり、ここに木竜が消えた何かが残ってるっていうこと?」
「そう思いたいんだが……この辺りは、木竜が住処にしていたところから、随分と離れてるだろ。それを考えると、絶対に手掛かりがあるとは断言出来ないな」
とはいえ、不自然に匂いが消えているというのは、明らかに人為的な仕業なのは間違いない。
(何かしらのマジックアイテムを使ったか、もしくはそういったスキルがあってもおかしくはない。おかしくはないんだが、何故匂いを消したのか……普通に考えれば、追われたくない事情があるから、だよな)
冒険者が凶悪なモンスターから逃げる為に、そういったアイテム、スキルを使用するという可能性は捨てきれないが……木竜が消えたという現状から、二人の中でその線はかなり薄かった。
「もしかしなくても、木竜を殺した、もしくは消した人たちがまだサンディラの樹海に残っている、ということだよね」
「そうなるな……ったく、嫌がらせにしては手の込んだ嫌がらせだ……もう少し探索して、他に手掛かりが見つからなかったら帰ろう」
それからは速足でサンディラの樹海を探索するも、同じく不自然に匂いが消されている場所は発見出来なかった。
「こちらが買取金額になります」
「どうも」
アルティーバに帰還後、討伐して解体した素材を売却。
その後、アラッドは今回得た手掛かりになるかもしれない情報を伝える為に、緑焔のクランハウスへと向かった。
「……ハウスっていうか、屋敷と言っても問題無いレベルの建物だな」
「それだけ大きな組織ってことだね。それで……本当に行くの?」
「事が事だからな、早めに伝えておいた方が良いだろ」
アラッドは一切躊躇することなく、緑焔のクランハウスの門へと向かう。
「待て、お前。ここが緑焔のクランハウスだと、解って……」
「えぇ、勿論解っています。ただ、緑焔のクランマスターであるハリスさんにお伝えしたい事があって」
「そ、そうか……す、少し待っていてくれ」
アラッド、そしてスティームという高ランクの従魔を従える二人のパーティーがアルティーバに訪れている。
これは先日の同じCランク冒険者の誘いを断った一件もあって、その正しい外見も広まっていた。
アラッドとスティームは見た目通り青年と言えば青年であり、視る眼がない者であれば侮ってもおかしくないが……見た目に強さがモロに出ているクロやファルを目の前にして、バカな態度を取るほど愚かではない。
「待たせたな。マスターが待つ部屋へと案内しよう」
「ありがとうございます。それで……クロとファルは、どこで待機させていた方が良いですか」
「むっ、そうだな。まずはそちらの方に案内しよう」
緑焔のメンバーにも従魔を従えるテイマーがいるため、敷地内に従魔用のスペースがある。
そこにクロとファルを待機させ……二人はトップクラスのクランハウスへと足を踏み入れる。
「偶々だよ。今回の戦いは、よく相手の動きが見えていたからね」
ガルシアやレオナと比べて動きが遅く、速さに眼が慣れているから……という事だけが快勝した理由ではなかった。
「そういう感覚も実力の内だ。それじゃ、さくっと解体しよう」
頭蓋骨が粉砕されたオーガの解体を始めて数分、血の匂いに誘われた三体のグレートウルフが近寄ってくる。
(三体か……同じウルフ系のモンスターだから、クロの強さをより深く感じ取れると思うんだけど……さて、どするかな)
アラッドとスティームが解体中であるため、見張りはクロとファルが行っている。
「ワフ」
「……グルル」
ファルは見張りの続き、クロが対処と役割を決め……Aランクモンスター、デルドウルフのクロが一歩前に出る。
「「「っ!!!」」」
クロとしては……まだ自分、もしくは主人や主人の友人に手を出していない個体であれば、正直手を出したくないという思いはある。
アラッドの考えている通り、グレートウルフは自分よりも目の前の巨狼の方が格上だろ解っていたが……数の有利に酔い、生き残れた未来を捨てた。
「ワフゥ~~」
「お疲れ様、クロ。ありがとな」
結果として、三体のグレートウルフを倒すのにかかった時間は一分にも満たない。
ついでにグレートウルフの解体も済ませてしまい、更に先へと進む。
「…………」
「どうした、クロ」
数時間後、急にクロが脚を止めてその場の匂いを何度も何度も嗅ぎ始めた。
「……ワゥ!!」
「モンスターの襲撃、じゃないよな。もしかして、前と同じで……不自然に匂いが消えてるのか?」
「ワゥ!!」
「アラッド、前と同じっていうのは?」
「あれだよ、クソ魔術師が死体を使ってバカなことをやらかそうとしてたって話はしただろ」
「あぁ~~、あれか。アラッドがドラゴンゾンビを一人で倒したっていう」
本人としてはあまりそこを強く評価しないでほしいところだが、事件の内容を知っている者であれば、アラッドの一番の功績はそこだと断言する。
「まぁ、それだ。その時、クソ魔術師のアジトに続く部分だけが、変に匂いとかがなくなっていたんだ」
「つまり、ここに木竜が消えた何かが残ってるっていうこと?」
「そう思いたいんだが……この辺りは、木竜が住処にしていたところから、随分と離れてるだろ。それを考えると、絶対に手掛かりがあるとは断言出来ないな」
とはいえ、不自然に匂いが消えているというのは、明らかに人為的な仕業なのは間違いない。
(何かしらのマジックアイテムを使ったか、もしくはそういったスキルがあってもおかしくはない。おかしくはないんだが、何故匂いを消したのか……普通に考えれば、追われたくない事情があるから、だよな)
冒険者が凶悪なモンスターから逃げる為に、そういったアイテム、スキルを使用するという可能性は捨てきれないが……木竜が消えたという現状から、二人の中でその線はかなり薄かった。
「もしかしなくても、木竜を殺した、もしくは消した人たちがまだサンディラの樹海に残っている、ということだよね」
「そうなるな……ったく、嫌がらせにしては手の込んだ嫌がらせだ……もう少し探索して、他に手掛かりが見つからなかったら帰ろう」
それからは速足でサンディラの樹海を探索するも、同じく不自然に匂いが消されている場所は発見出来なかった。
「こちらが買取金額になります」
「どうも」
アルティーバに帰還後、討伐して解体した素材を売却。
その後、アラッドは今回得た手掛かりになるかもしれない情報を伝える為に、緑焔のクランハウスへと向かった。
「……ハウスっていうか、屋敷と言っても問題無いレベルの建物だな」
「それだけ大きな組織ってことだね。それで……本当に行くの?」
「事が事だからな、早めに伝えておいた方が良いだろ」
アラッドは一切躊躇することなく、緑焔のクランハウスの門へと向かう。
「待て、お前。ここが緑焔のクランハウスだと、解って……」
「えぇ、勿論解っています。ただ、緑焔のクランマスターであるハリスさんにお伝えしたい事があって」
「そ、そうか……す、少し待っていてくれ」
アラッド、そしてスティームという高ランクの従魔を従える二人のパーティーがアルティーバに訪れている。
これは先日の同じCランク冒険者の誘いを断った一件もあって、その正しい外見も広まっていた。
アラッドとスティームは見た目通り青年と言えば青年であり、視る眼がない者であれば侮ってもおかしくないが……見た目に強さがモロに出ているクロやファルを目の前にして、バカな態度を取るほど愚かではない。
「待たせたな。マスターが待つ部屋へと案内しよう」
「ありがとうございます。それで……クロとファルは、どこで待機させていた方が良いですか」
「むっ、そうだな。まずはそちらの方に案内しよう」
緑焔のメンバーにも従魔を従えるテイマーがいるため、敷地内に従魔用のスペースがある。
そこにクロとファルを待機させ……二人はトップクラスのクランハウスへと足を踏み入れる。
160
お気に入りに追加
6,129
あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる