上 下
557 / 984

五百五十六話 悩まないのが俺ら

しおりを挟む
「ところで、一応クランマスターとして聞いておかないと駄目なんだけど、二人ともうちのクランに所属する気はあるかい?」

「すいません、ありません」

「嬉しい誘いですが、申し訳ありません」

食事中、ふと思い出したかのように伝えられた勧誘。

Aランクの冒険者に直接勧誘されるということはとても名誉な事であり、アルティーバで活動している冒険者であれば、大半は断れない。
それは勿論脅しが効いているからという理由ではなく、ハリスというクランマスターに……冒険者に強い憧れを持っているからである。

「ふふ、やっぱりそうだよね。君たちでなければ、少しは悩んでくれてもいいのにと思うけど……寧ろ、君たちの場合はその回答が自然だね」

勿論、ハリスとしては自身のクラン、緑焔に二人が加入してくれたら心底嬉しい。

だが……二人が誰かの下に付くタイプには到底思えず、仮に……本当に緑焔に加入したとしても、まず既に加入しているメンバーとの衝突が容易に想像出来てしまう。

「でも、二人はこれから何度も勧誘を受けると思うよ」

「……多分ですけど、騎士団からは勧誘されないと思います。以前、学園のトーナメントで優勝した際に誘いを受けましたが、その時に断っているので」

「へぇ~~~、そんな事があったんだ。そうだねぇ、騎士団としてもアラッド君みたいな即戦力は是非とも欲しいところだろうね」

「個人的に、ギーラス兄さんが騎士として活動しているんで、個人的にきっぱりと諦めていて欲しいと思います」

「ギーラス……ギーラスというと、風竜を一人で倒したという君のお兄さんか」

風竜を……亜竜ではない、正真正銘の属性持ちドラゴンをソロで倒した……ドラゴンスレイヤー。
討伐者であるギーラスの名は貴族界隈、騎士界隈だけではなく、冒険者界隈にも広がっていた。

「確か、黒炎を使って倒したらしいね……何故騎士という道を、と問うのは不躾というか、愚問だよね」

「そうですね。ギーラス兄さんは長男として、望んで当主になろうとしているので。騎士の道に進むのは至極当の流れですね」

「そうだよねぇ……でも、風竜をソロで倒すぐらいの実力を持っている人なら、どこかで共闘する機会もあるだろう……その時が楽しみだよ」

急な三人での朝食は無事に終了し、もし……緑焔のメンバーが迷惑を掛けるようなことがあれば、直ぐに伝えてくれた別れ際に伝えられた。

「ハリスさんみたいな人がトップなら、その下に付く人たちが僕らに変に迷惑を掛けることはないと思うけどな」

「さぁ……どうだろうな。ただ、ハリスさんの強さにだけ惹かれてる、もしくは惚れてる奴がいるかもしれないだろ」

「…………もしかして、嫉妬で変な絡まれ方をされるかもしれないって事?」

「……はっはっは!!! そうかもな……嫉妬かぁ。どういった嫉妬なのかは分からないけど、可能性としてはあるだろうな」

アラッドは楽し気な笑みを浮かべ、スティームはやや渋いを顔をしながらも二人は予定通りサンディラの樹海へと向かう。

先日まで探索した場所までサクッと走り、そこからはゆったりと……何かおかしな部分はないかと神経を尖らせながら歩く。

「それにしても、木竜を消す……別の空間に転移? させるなんて、いったいどんなマジックアイテムを使ったんだろうね」

「マジックアイテムは可能性の塊だからな。とはいえ、最低でもランク五……俺たちのリンに造ってもらった武器と同じぐらいのランクかもしれない」

「ら、ランク八のマジックアイテムか……うん、だとしたら納得出来るね」

「そう、納得は出来る。問題は、いつ、別次元に飛ばされたかもしれない木竜が戻ってくるか、だ……誰がやる?」

「ゴォォオオオアアアアアアアアッ!!!!」

二人の会話内容などが解るわけもなく、一体のオーガが大剣を振り回しながら襲撃。

「僕がやるよ」

「そうか……それじゃ、頼んだぞ」

「うん」

Cランク冒険者の中でも、上位に位置する冒険者であれば、同じCランクのモンスターを単独で倒すことは不可能ではない。

しかし……それはメインの武器を使っての話。

(ふふ、スティームの奴も……随分無茶をするようになってきたな)

スティームは高い身体能力とリーチが長い武器を扱うオーガを相手に、なんと素手で挑んでいた。

「シッ!!!!」

「っ!? ガァアアアッ!!!!」

(ガルシアさんや、レオナさんと比べれば……遅い!!!!)

スティームも決して身体能力が全体的に高いタイプではなく、パワーはアラッドより完全に劣っている。

それでも……アラッドの実家で休養中にも実戦訓練を行う機会があり、そこで一から体技を鍛えていた。

(赤雷ばかりに、頼っていられない!!!!!!)

雷は使うものの、オーガとの戦闘で赤雷を使うつもりは一切ない。

一撃で肉を、骨を砕けないのであれば何度でも拳を、脚を振るう。

「ガっ!!?? ギ、ァアアアアアアアッ!!!!!」

「遅い、よ」

半身で……最低限の動きで上段斬りを躱し、地面に刃がめり込んだ瞬間を見逃さず、引き抜くより前に刃を……手を踏み台して駆ける。

「うぉおおらあああああっ!!!!!!」

(わぉ……あれ、踏み台にしたのが手だけど、最後顔面に膝をぶち込んだから、流れ的にシャイニングウィザードになるのか?)

見事な体勢で叩きこまれ膝蹴りは頭蓋骨だけではなく、そのまま脳を破壊した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...