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五百五十五話 優先すべき思い

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「えっと……つまり、どちらにしろ最悪の未来しか待っていない、ってこと?」

「今のところ、そうだろうな。ジバルの領主が戦力を集めたのは正しい判断だ。結果によっては、俺たちが木竜を討伐しなければならない」

ドラゴンの討伐。

それは冒険者にとって一番燃え上がる討伐内容ではあるものの、大抵の戦闘者たちは対峙した瞬間、その絶望的な差に屈してしまう。

「ふふ、戦る気も自信も満々だね」

「戦る気は十分あります。ただ、自信は三割から四割ってところですよ。万全な……原石のカットが終わった正真正銘のAランクモンスターがどれだけ恐ろしいか、身に染みて解ってるので」

「……僕の記憶が正しければ、アラッド君は一人でAランクのモンスターを倒したことがある筈なのだが」

「ハリスさんもそれを知ってるんですね。ただ、あれは偶々です。Aランクモンスターは偶々で倒せる敵ではないと仰りたい気持ちは解りますが、それでもあれは偶然が重なった結果です」

他者が……実力者がどれだけその功績を褒め称えようとも、アラッドはこれからもドラゴンゾンビとの一戦を誇る気はなかった。

「ふっふっふ……まさに求道者だね。それでも、僕には君たちなら……僕や仲間たちも加えて、木竜を抑えられる自信があるよ」

「個人的に、自分も抑えられる可能性はそれなりにあると思っています」

さっきまで口にしていた内容とは、逆の内容……と思うのが普通だが、ハリスはそこをツッコまず、冷静に話の続きを聞く。

「理性が強い個体であれば、自分を殺せる実力を持つ存在を目の前にすれば、破壊衝動に身を委ねるのを思い留まってくれるかもしれません」

「簡単に言ってしまうと、暴れるなら殺すぞと脅す、ということで合ってるかな」

「その通りです。ハリスさんたちの力をお借りできるのであれば、尚更実行出来る可能性が高くなるかと」

最大強化に加えて渦雷と迅罰の二刀流。
万雷に赤雷を纏い、一撃必雷を下す準備万端。
そこに加えてAランクとBランクのモンスターが野性と殺意を全開放。

そしてAランク冒険者たちであるハリスたちも加われば……バカでなくとも、自分が狩られる側であると本能が理解する。

(逆にドラゴンのプライドを刺激する可能性はあるけど……僕としても、アラッド君たちがその方向で考えてくれているのは素直に嬉しい)

ハリスは直接アラッドとスティームと対面する前に、それなりに情報を集めていた。

結果、スティームは話せば十分納得し、自分たちの考えに賛同してくれそうといったイメージ。
しかし……アラッドは、自分たちと意見が違えば、決して己の意見を変えない……悪い言い方をすれば、頑固者。
加えてアラッドは非常に好戦的な性格であり、強者との戦闘を拒まない。

対峙することになれば、この上なく厄介な存在だった。

「ふふ……嬉しいね。そこまで僕と同じ考えを持っているなんてね」

「多分ですけど、木竜を討伐してしまうと……主にジルバの領主が困りますよね」

「うん、そうだね。もしかしたらという可能性ではあるけど領主としても、ギルドとしても仮に木竜が生きているのであれば、殺さない方向で話を進めたい」

「では、その方向で進めても良さそうですね」

「本当に、君たちが協力してくれて助かるよ……でも、良いのかい? 君は、強者との戦いを心の底から楽しむタイプの冒険者だろ」

後から考えを覆すタイプには見えない。

だが、木竜を討伐するのではなく、脅迫してでも暴れさせないというのを第一選択にするのは、彼の本意ではない。
個人的には今の考えのままでいてくれるのは有難いが、それでも真意は知っておきたい。

「そうですね…………戦ってみたい、という気持ちは確かにあります。しかし、そんな我儘を貫き通そうとすれば、実家に迷惑をかけてしまうのは目に見えています」

「ふむ……そうだね。君は侯爵家の令息だったね」

忘れていた訳ではない。
寧ろここまで自分と考えが被っており、良い意味で冒険者らしくない思考と、戦いたいという本能を抑えられる理性を持っている。

「時として、そういった考えよりも優先しないといけないプライドはあります。ただ……今回、木竜という目的を優先しても後悔しかないのは目に見えています」

「…………君の様な息子がいて、侯爵様は本当に幸せだね」

「息子たちが何度も死線に飛び込んでいますから、案外幸せとは思っておらず、心配の連続で心労状態かもしれませんよ」

「ふ、ふっふっふ……はっはっは!!! そうだね。確かに……君みたいなデンジャラスな子供がいたら、心臓が休まる日は来ないかもしれないね」

息子であるアラッドがそんな冗談を言うのであれば、侯爵であるフールが特に心労で毎日が辛い状態でないのは直ぐには解る。

しかし……もしも自分の息子がアラッドの様な存在であればとイメージすると……とにかく驚かされる日々だけは想像出来てしまった。

「アラッド君、スティーム君。また後日改めて、僕の仲間たちに会って貰えるかな」

「えぇ、勿論大丈夫ですよ」

「アラッドと同じく」

「ありがとう」

話が一区切りつき、丁度良いタイミングで頼んでいた朝食が運ばれて来た。
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