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五百四十五話 ブッキング、ではない?

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「ってな訳で、明日ちょっと盗賊団を討伐してくる」

「かしこまりました」

散歩に行ってくる、ぐらい軽い様子で盗賊団の討伐に向かうと伝えるアラッド。

普通であれば伝えられた者、従者などは止めようとするが、エリナは全く止めようとは思わなかった。

(おそらく、万雷と迅罰を思いっきり振るいにいくのでしょう。盗賊団などに同情する必要はありませんが………やはり、ほんの少しだけ可哀想と思ってしまいますね)

詳しく話を聞くと、どうやら普通の盗賊団ではない。
しかし、わざわざ二人がこの季節に倒しに行くと言うぐらいであるのを考えれば、それなりの戦力を持った盗賊団なのは明白。

それでも……エリナやガルシアたちは一切アラッドたちの心配をしていなかった。

「遠慮なくぶっ飛ばしてきなさい!!」

「大丈夫だとは思うが、あまり気を抜かないようにね」

アラッドの母であるアリサは元気良く二人に激励を送り、フールも心配の言葉はかけるものの、二人が盗賊たちに負けるとは一切考えていなかった。

そして翌日、寒さ対策万全の二人はそれぞれの従魔に乗り、噂の盗賊団の拠点から一番近い街へと向かう。

「これはこれは、アラッド様でしたか。ここには何用で?」

治めている領主こそ違うが、大元がフールということもあって、全くアラッドが訪れたことがない街であっても、アラッドのことを知っている者はチラホラといる。

「いや、ちょっと噂の盗賊団を倒そうと思って」

「ほぅ! それはそれは、本当に有難い」

話を聞いた門兵の眼は……幻影が見えるほど輝いた。

盗賊退治は基本的に冒険者が行うのだが、未だに討伐出来ておらず、中には帰ってこなかった者もいる。

ビーストテイマーと呼ばれる頭領がいることもあり、道行く馬車を襲う時などは盗賊とモンスターが一緒に襲い掛かってくる。
モンスター退治であれば商人の護衛を行っている冒険者としては望むところだが、そこに盗賊の攻撃も加わってくると話は変わる。

獣系モンスターの荒々しい攻撃に加えて、盗賊の厭らしい攻撃……冒険者たちも全く盗賊や、盗賊団に従うモンスターの数を減らせていない訳ではないが……人はともかく、モンスターは増やせてしまう。

(そうか、よくよく考えれば盗賊団みたいなクソ連中がそんな才能に目覚めたら、下手な組織よりも大きな戦力を持ってしまうよな)

まだ細かい事情までは知らないものの、アラッドは一つの考えをスティームと共有。

「遭遇したら、直ぐに殺そう。盗賊団、そいつらに従っているモンスターも関係無しに」

「……うん、そうだね」

それだけで、それだけでアラッドが自分に何を言いたいのか解かった。


「えっと、お二人もその……あの盗賊団の討伐に協力していただける、ということですか?」

「? 協力、とは」

冒険者ギルドで、噂の盗賊団の居場所に関して詳しく聞こうとした二人。

しかし、受付嬢に声を掛けたところ……首を捻る様な言葉が耳に入った。

「その、お二人も依頼を受けて……という訳ではなく?」

「そうですね。プライベートで決ました」

プライベートでモンスターの討伐に来た。
中々に理解し難い言葉ではあるが、表情を見るからに……嘘を言っている様には思えない。

(ほ、本当にプライベートであの盗賊団を討伐しようと、ここまで来たのですね…………ど、どうしましょうか)

受付嬢としては、ギルドから報酬を払うので二人には討伐隊に参加してほしい。

だが、アラッドがミノタウロスやドラゴンゾンビを一人で討伐し……二人とその従魔たちで雷獣を二体討伐したという情報は既に多くのギルドに伝えられている。

今回の盗賊団討伐の為に呼ばれた者たちは、決して弱くはない。
ベテラン冒険者も混ざっており、寧ろ今回はあの盗賊団にしては戦力が大き過ぎる輩たちを潰せると期待されていた。

そんな中、今注目の冒険者二人が参加してくれるとなれば、非常に嬉しい限り。
ただ……その二人の戦力が、あまりにも高い。

(こう思ってしまうのは彼らに失礼ですが、アラッドさんとスティームさんが参加するとなると……邪魔になってしまいますよね)

受付嬢の考えている通り、完全に邪魔になってしまう。

今回に至っては、二人はランク八という強力過ぎる武器を振るいに来ている。
どう考えても……邪魔になってしまうのは目に見えている。

「……も、申し訳ありません。少々お待ちして頂いてもよろしいでしょうか!」

「えぇ、大丈夫ですよ」

数分ほど受付前で待った結果……ギルドマスターの執務室へ案内されてしまった。

自己紹介もそこそこに、何故わざわざプライベートで来たのかを詳しく尋ねた。

(な、なるほど。新しく手に入れた武器を試す為に…………つまり使われている素材は、そういう事なのでしょう)

ギルドマスターはここ数年で代替わりをした、比較的若い元冒険者。
情報収集を欠かさないタイプであるため、当然アラッドたちがここ数か月でどんなモンスターを討伐したのか知っている。

ギルドのトップとしても、正直……わざわざプライベートで来たアラッドたちにお任せしたい。
しかし、そうは出来ない事情があり、管理職が受けるダメージがギルドマスターの胃を襲い始めた。
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