上 下
535 / 984

五百三十四話 それだけは教える

しおりを挟む
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!! アラッド様の初めての相手って、どんな人だった!!!」

野郎だけの酒盛りから戻って来たガルシアにダッシュで駆け寄るレオナ。

「……強く、芯のある女性だった。これだけは教えておこう」

「いや、それぐらい私たちでも予想出来るって! もっとこう、詳しい事を教えてよ!!」

「言っておくが、俺たちもそこまで詳しいことを教えてもらった訳ではない。それに……お前たちが予想したという事実よりも、アラッド様が実際に強く、芯のある女性だと口にした事実の方が重要だろ」

予想はどこまでいっても予想。

実際に本人の口から出たという事実と比べれば、希望的観測でしかない。

そんなガルシアの言い分にエレナは納得した表情を浮かべるものの、やはりもう少し詳しい情報が欲しかった。

「というか、そんなに調べようとしたところで、何かをどうこう出来る訳ではないだろ」

「解ってないな~、お兄ちゃん。そういうの関係無く、アラッド様の初めての相手という超凄い存在は知りたくなるものだよ」

「……そうだな。その気持ちは解らなくもない」

アラッドはこれまで知り合ってきた女性たちのそそられる者こそいたが、実際にその気が起きることはなかった。

童貞を捨てた年齢を考えれば、ありふれたタイミングではあるかもしれないが、それでもその男がアラッドとなれば……寧ろやや遅いと思う者が多い。

「ただ、強さに限れば通常状態のスティーム様よりも強いらしい」

「へぇ~~、それは確かに強いね」

「性格に関しては……やや男前より、といったところか」

教えられる情報は本当にここまでだと判断し、アルコールを摂取した体が睡眠を求め、そのままベッドに倒れるように寝た。

「……ねぇ、エレナ。どこで知り合った人だと思う?」

「そう、ですね……おそらくですが、二つ目の街であるマジリストンで知り合った女性でしょう」

「二つ目の街か~。ちょっと早くない?」

「そうかもしれませんね。しかし、アラッド様が初めての相手として選んだということは、それだけ素晴らしい方なのでしょう」

そうとしか思えない気持ちと、そう思いたい気持ちが半々。

素晴らしい方なのだと思うのであれば調べる必要はないだろ、とツッコまれるかもしれないが、それはそれでこれはこれという問題だった。


「っし、それじゃ行くか」

「アラッド、実家に帰って来たんだからもう少し休まないのかい?」

「何言ってんだ。実家に帰ってきてから、ぶっちゃけちゃんとした休息日だったか?」

「…………うん、そうだね。僕が間違ってたよ」

アラッドが実家に戻ってきてから数日間、スティームは大体朝から夕食前までガルシアやエレナたちと模擬戦などを繰り返すか、子供たちの遊び相手となっていた。

朝昼晩、どの時間に出される料理も美味しく、レベルが高い相手との模擬戦は非常に為になり、子供たちの相手をするのは疲れるが癒されもする。

ただ……それらの内容を振り返ってみると、確かに休息日とは言い難い。

「実家に帰って来たからって、冒険者として働かないのもな……なんか引きこもりみたいだろ」

「そんな事はないと思うけど……まぁ、他の冒険者たちからすれば、あまり良く思われないかもしれにね」

「そういう事だ」

朝食を食べ終えた後、二人はクロとファルと共に冒険者ギルドへと向かう。

道中、多くの人に声を掛けられながら進み、ようやく到着。
ギルド内へ入ると、まだ朝の渋滞時間が終わってないこともあってか、多くの視線が二人に集まる。

「おっ、やっぱり帰ってきてたんだな」

「久しぶりに見たが……また一回り強くなった気がするな」

「ん~~~……なんか、色気? が出てきたように見えない?」

「解かる! なんか、昔からそういう感じがあったけど、色っぽさが増したっていうか」

幼い頃から森の中で倒したモンスターの素材をギルドで売っていたため、昔から拠点にしている冒険者たちにとって、アラッドは歳の離れた弟の様な存在だった。

そんな弟が友人を連れてきたとなれば、歓迎しない理由はない。
というか、彼らとしてはやっとアラッドが自分たちと同じ道に、現場にきたということで一緒に酒を呑みたかった。

だが……バカというのはどこにでもいる。

最初にギルド内に入ってきたアラッドへ声を掛けたのは、アラッドのことを幼いころから知っているベテラン……ではなく、ここ最近やって来た若手の中でも有望な冒険者だった。

「あんたがアラッド、であってるか?」

「あぁ、そうだな。俺がアラッドで合ってるよ」

「ふ~~~~ん……あれだな。こう言っちゃ不味いんだろうけど、やっぱりあんたが噂通りの実力を持つ人物には思えねぇな」

有望なバカがそう言い終えた瞬間、アラッドを知っているベテラン組……よりも先にギルド職員たちの顔が凍り付いた。

冒険者ギルドが貴族という権力者に屈するのはナンセンスだが、色々と面倒もあるので、決して対立はしたくない。
だからこそ、バカなアホがアラッドに変な絡み方をしてほしくなかった。

ただ……まだこの時はアラッドの表情がある意味凍り付くことはなく、それはそれで面白いと思い……薄っすらと口端が上がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...