スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
535 / 1,058

五百三十四話 それだけは教える

しおりを挟む
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!! アラッド様の初めての相手って、どんな人だった!!!」

野郎だけの酒盛りから戻って来たガルシアにダッシュで駆け寄るレオナ。

「……強く、芯のある女性だった。これだけは教えておこう」

「いや、それぐらい私たちでも予想出来るって! もっとこう、詳しい事を教えてよ!!」

「言っておくが、俺たちもそこまで詳しいことを教えてもらった訳ではない。それに……お前たちが予想したという事実よりも、アラッド様が実際に強く、芯のある女性だと口にした事実の方が重要だろ」

予想はどこまでいっても予想。

実際に本人の口から出たという事実と比べれば、希望的観測でしかない。

そんなガルシアの言い分にエレナは納得した表情を浮かべるものの、やはりもう少し詳しい情報が欲しかった。

「というか、そんなに調べようとしたところで、何かをどうこう出来る訳ではないだろ」

「解ってないな~、お兄ちゃん。そういうの関係無く、アラッド様の初めての相手という超凄い存在は知りたくなるものだよ」

「……そうだな。その気持ちは解らなくもない」

アラッドはこれまで知り合ってきた女性たちのそそられる者こそいたが、実際にその気が起きることはなかった。

童貞を捨てた年齢を考えれば、ありふれたタイミングではあるかもしれないが、それでもその男がアラッドとなれば……寧ろやや遅いと思う者が多い。

「ただ、強さに限れば通常状態のスティーム様よりも強いらしい」

「へぇ~~、それは確かに強いね」

「性格に関しては……やや男前より、といったところか」

教えられる情報は本当にここまでだと判断し、アルコールを摂取した体が睡眠を求め、そのままベッドに倒れるように寝た。

「……ねぇ、エレナ。どこで知り合った人だと思う?」

「そう、ですね……おそらくですが、二つ目の街であるマジリストンで知り合った女性でしょう」

「二つ目の街か~。ちょっと早くない?」

「そうかもしれませんね。しかし、アラッド様が初めての相手として選んだということは、それだけ素晴らしい方なのでしょう」

そうとしか思えない気持ちと、そう思いたい気持ちが半々。

素晴らしい方なのだと思うのであれば調べる必要はないだろ、とツッコまれるかもしれないが、それはそれでこれはこれという問題だった。


「っし、それじゃ行くか」

「アラッド、実家に帰って来たんだからもう少し休まないのかい?」

「何言ってんだ。実家に帰ってきてから、ぶっちゃけちゃんとした休息日だったか?」

「…………うん、そうだね。僕が間違ってたよ」

アラッドが実家に戻ってきてから数日間、スティームは大体朝から夕食前までガルシアやエレナたちと模擬戦などを繰り返すか、子供たちの遊び相手となっていた。

朝昼晩、どの時間に出される料理も美味しく、レベルが高い相手との模擬戦は非常に為になり、子供たちの相手をするのは疲れるが癒されもする。

ただ……それらの内容を振り返ってみると、確かに休息日とは言い難い。

「実家に帰って来たからって、冒険者として働かないのもな……なんか引きこもりみたいだろ」

「そんな事はないと思うけど……まぁ、他の冒険者たちからすれば、あまり良く思われないかもしれにね」

「そういう事だ」

朝食を食べ終えた後、二人はクロとファルと共に冒険者ギルドへと向かう。

道中、多くの人に声を掛けられながら進み、ようやく到着。
ギルド内へ入ると、まだ朝の渋滞時間が終わってないこともあってか、多くの視線が二人に集まる。

「おっ、やっぱり帰ってきてたんだな」

「久しぶりに見たが……また一回り強くなった気がするな」

「ん~~~……なんか、色気? が出てきたように見えない?」

「解かる! なんか、昔からそういう感じがあったけど、色っぽさが増したっていうか」

幼い頃から森の中で倒したモンスターの素材をギルドで売っていたため、昔から拠点にしている冒険者たちにとって、アラッドは歳の離れた弟の様な存在だった。

そんな弟が友人を連れてきたとなれば、歓迎しない理由はない。
というか、彼らとしてはやっとアラッドが自分たちと同じ道に、現場にきたということで一緒に酒を呑みたかった。

だが……バカというのはどこにでもいる。

最初にギルド内に入ってきたアラッドへ声を掛けたのは、アラッドのことを幼いころから知っているベテラン……ではなく、ここ最近やって来た若手の中でも有望な冒険者だった。

「あんたがアラッド、であってるか?」

「あぁ、そうだな。俺がアラッドで合ってるよ」

「ふ~~~~ん……あれだな。こう言っちゃ不味いんだろうけど、やっぱりあんたが噂通りの実力を持つ人物には思えねぇな」

有望なバカがそう言い終えた瞬間、アラッドを知っているベテラン組……よりも先にギルド職員たちの顔が凍り付いた。

冒険者ギルドが貴族という権力者に屈するのはナンセンスだが、色々と面倒もあるので、決して対立はしたくない。
だからこそ、バカなアホがアラッドに変な絡み方をしてほしくなかった。

ただ……まだこの時はアラッドの表情がある意味凍り付くことはなく、それはそれで面白いと思い……薄っすらと口端が上がっていた。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...