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五百三十一話 それだけではない

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「ぜ、全然見えなかった」

「ガルシアさん……結構本気、だったよな」

「俺たちが眼で追えない動きをしてたってことは、多分そうだと思う」

孤児院の将来戦闘職を希望している子供たちは日頃から眼を養っており、同性代の子供と比べて圧倒的に視る力や追う力が優れている。

そんな子供たちが、たった数秒間の間ではあるものの、目の前の戦闘光景を全く眼で追えなかった。
当然のことながら、ガルシアも模擬戦が始まった瞬間に強化系スキルを使用。
加えてアラッドの助言から警戒心を高めてはいたが……それだけでは足りなかった。

たった数秒間の間に数十手行われた攻防の内容は、先程までの模擬戦とは逆。
完全にガルシアが押されていた。

「ったく、あんまり油断するなって言っただろ」

「ッ! 申し訳ありません」

「そういうのはいいって言ってるだろ。ほら、さっさと立て」

自身の前で膝を地面に付き、頭を深く下げるガルシアへ立つように促す。

ガルシアは渋々といった表情で立つものの、顔には未だ公開の色が浮かんでいた。

「スティーム、反動はどうだ?」

「ん~~~~……四秒手前で止めたから、割と大丈夫だね」

「そうか……さて、お前らはこれで満足出来たか?」

エリナたちが何を考えていたのか本当に解からない程、主人は鈍感ではなかった。

「いえ、私たちの眼が節穴でした。スティーム様、無礼の視線を向けてしまい、大変申し訳ありませんでした」

奴隷たちの中でもリーダー的存在であるエリナが頭を下げた事で、他にもスティームがアラッドの隣に立っていることに対して不満を持っている者たちが一斉に頭を下げ始める。

「す、すいませんでした!!!」

「「「「「「「「「「すいませんでした!!!」」」」」」」」」」

何故エリナたちがスティームに対して頭を下げたのか、あまり深くは理解していない。
それでも、自分たちがエリナたちと同じ視線をスティームに向けているという自覚はしていたため、子供たちも揃ってスティームに頭を下げた。

「あ、頭を上げてください。全然気にしてないんで。あの本当に……俺なんて、赤雷を纏わなければまだまだ取り柄がないというか、本当に弱いんで」

「…………」

実際に赤雷を纏ったスティームと模擬戦を行ったガルシアはその謙虚な言葉を……直ぐには飲み込めなかった。

(確かに赤雷……それを纏った身体能力の向上には驚かされた。ただ、それだけじゃない……二回目の模擬戦が始まる瞬間、確かにスティーム様の何かが変わった……雰囲気が一変した、というべきか?)

戦闘時間はたった数秒ではあったが、その間に数十回の攻防が繰り返されたのだが、ガルシアは自身の動きの大半を読まれている様に感じた。

「スティームの説明だけだと納得がいかなさそうだな、ガルシア」

「い、いえ。そういう訳では…………申し訳ありません。正直なところ、心に大きな隙がありはしたが、それでも結果は完敗と言える内容だった。その要因が、赤雷だけだとは思えず」

「そうだろうな。多分だけど、さっきのスティームは俺とトーナメントの決勝で戦った時と近い感じになってたと思う。簡単に言うと、とんでもなく集中していた」

「確かに……そういう類の寒気だった」

「ってことはだ、一気にあの時に近い状態まで瞬時に集中力を高められる。それがスティームの強味の一つなのかもしれないな」

「そ、そうなのかな? あまり自覚はないんだけど」

謙遜しているわけではなく、本当にスティームはそこまで集中力の切り替えが上手いと思っておらず、無自覚的なものだった。

「何はともあれ、スティームが強いってのが分かったことで……次、スティームと戦りたい奴はいるか?」

「はい!! はいはいはい!!! 私が戦ります!!!」

真っ先に手を上げたのはガルシアの妹であるレオナ。

二度目の模擬戦では瞬殺されてしまった兄の仇を取ろう……という気などサラサラなく、ただただ純粋にスティームの強さを体感したかった。

「二人とも、模擬戦ってのを忘れない程度にしてくれよ」

それだけ言い残し、アラッドはアラッドで元気が有り余っている子供たちの相手を始める。


「はぁ、はぁ……あ、アラッド兄ちゃん。やっぱり強いよ~」

「はっはっは!! そりゃこれから伸び盛りに入るからな。お前らにはまだまだ負けられねぇよ」

戦闘職希望の子供たちを連続で相手をしながら一切汗をかかず、良い笑顔を浮かべる。

先日の冒険譚でアラッドがソロでは成体の雷獣を倒せる可能性は低い……そう発言していたのはしっかりと覚えているが、やはり子供たちの中で最強はアラッドであった。

「……なぁ、マスター。俺の気のせいだったらあれなんだけどよ、もしかして大人になったか?」

「っ!!??」

孤児院の子供たちの相手をする奴隷の中には、ガルシアたち以外にも優れた戦闘力を持つ奴隷がいる。

当然、男の奴隷たちは男性的な意味合いで大人になるという体験をした者ばかり。

昨日から聞きたくてうずうずしていたため、周囲に子供たちもいるため意味が解らない様に尋ねた。
結果……ビンゴだった。
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