上 下
524 / 1,023

五百二十三話 意識し続けるようでは……

しおりを挟む
「っと、その前にあれだな。俺の知り合いが二人に迷惑をかけてすまなかったな」

「別にドミトルさんが悪いわけではないと思いますけど」

「スティームの言う通りですよ。だって、ドミトルさんがあのクソイケメン優男先輩の人格形成を行ったわけではありませんよね」

「あいつは初めて会った時からあんな感じではあるが……それでも、謝っとかないとって思いがあってな」

ドミトルはエレムの従弟や兄代わりの人物などではなく、せいぜい兄貴分といった関係性であり、二人が言うようにわざわざドミトルがアラッドとスティームに謝る必要はない。

ただ……当人にしか解らない思い、責任感などがある。
二人が貴族の令息だから、という理由で謝ったのではない。

そういった自分たちには理解出来ない考えがあるという現実に納得し、それ以上何も言わなかった。

「分かりました。ドミトルさんからの謝罪は受け取ります」

「話が解かるようで助かるよ。にしても、二人ともあの雷獣より強い雷獣を倒したんだってな。何か秘策でもあったのか?」

「そういった手はありませんよ。とはいえ、俺も強敵にしか使わない奥の手を使いましたけど……正直なところ、俺の従魔のクロがいなければ本当に危なかったです」

仮にデルドウルフのクロがいなければ、雷獣がアラッドたちに興味を示さなかった可能性もあるが……クロがいなければ勝率が下がっていたのは間違いなかった。

「お前さんの従魔って言うと、あの大きい黒毛の狼か」

「頼りになる相棒です。まぁ、この先……あまり頼り過ぎない様に強くなりたいですけどね」

「僕も同じですね。これまで何度も従魔のファルに助けられてきたんで」

「……そうかそうか。二人ともルーキーらしからぬ……いや、ルーキーだからこその向上心の高さ、だな」

ドミトルはこれまでの冒険者生活の中で、何人かの令息と出会ってきた。

中には相手が冒険者と言う職業に就いている平民であっても、礼儀正しい態度を取る子もいた。
しかし、大半は子供のくせに態度がデカい連中ばかりだった為、雷獣の話題を振った際、もっと自慢気な態度で話すのだと予想していた。

だが、実際に話してみると二人は自分たちの功績を誇ることすらなく、もっと高みを目指すという心構えがすでに備わっていた。

(あいつらの前でこんなこと言えねぇが、格が違うな)

なんて事を考えながら、ドミトルは本題に入る。

「なぁ、アラッド君。あいつは……君たちが言うクソイケメン優男先輩は、どうすれば今より前に進めると思う。こんな事を後輩に……しかもエレムの奴と少し因縁がある君たちに聞くのは間違ってるのは解ってるけど、どうしても聞いてみたくてな」

ドミトル自身が口にした通り、アラッドは何故自分にそんなことを尋ねるのかと思った。

(俺、前世では学生のまま死んだから社会人経験ないし、こっちでも……仮に冒険者として活動を始めてからが社会人だとしても、まだ一年も経験していないんだが…………仕方ない、真剣に考えるか)

今日初めて出会い、話した先輩冒険者。
縁なんてこれっぽちもない人物ではあるが、アラッドは確信した。

ドミトルは……本当に良い先輩などと、直感的に感じ取った。
理由としては浅く薄いかもしれないが、アラッドはそんな第三者からの考えなど気にせず、カクテルをちびちびと呑みながら本気で考える。

「………………まず、第一に自分は自分、他人は他人だとハッキリ区切るところからがスタートだと思います」

「はぁ~~、やっぱりそこか~~~~。俺もこの前の夜、一応ちゃんと伝えたんだけど……あれだよな、二人の前で爆発しちゃったんだよな」

「かなり爆発してましたね。とにかく、そこをなんとかしないことには始まらないと思います。後、クソイケメン優男先輩が俺と強さを比べてるのかは知りませんが、仮に比べてるのであれば多分意味がないと思うんで、自分だけの強さと幸せを求めた方が良いと思います」

「……いやぁ~~~、本当に良いこと言うね」

「どうも」

お世辞ではない。

まさにそれがベストな回答だと思い、同時に本当に十五歳なのかと思ってしまう。

「今は凄い俺を、俺たちを意識してるかもしれませんけど、これから何度も何度も顔を合わせるわけではありません。正直なところ……意識するだけ無駄なんですよ」

冷たい言葉に思えるかもしれないが、エレムに元々しっかりとした目標があることを考えると、アラッドに対して何か思う、考え続けるのは本当に無意味な時間と言える。

ドラングの様にアラッドに対して強い対抗心を抱いている者であれば、それが原動力となって前に進む力となるが、エレムの場合はそうではない。

大前提として、エレムの目標は英雄になること。

そのストーリーの途中でライバルと思える存在ではあるかもしれないが、物語が終わるまで意識していては、なれるかもしれない可能性を完全に潰してしまうかもしれない。

「仮に俺の行動で……他人の行動で何か納得いかないことが起こるのであれば、それはクソイケメン優男先輩になんとか出来る力が足りなかった。それに尽きると思います」

英雄を目指す……それを迷惑だと否定する者はいないだろうが、中途半端な力で得られる程、その言葉は……称号は甘くない。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...