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五百二十一話 互いに誇らない
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感情が追い付かないとはまさにこの事。
自分たちが後一歩のところまで追い詰めた雷獣を、若い二人が後から掻っ攫った。
それだけでも色々と感情が爆発。
アラッドが告げられた言葉により、更にぐちゃぐちゃになる。
そんな大混乱な状態のところに……とんでもない爆弾が落とされた。
雷獣がもう一体いた?
言ってる意味が解らない。
もしそれが本当だったとしたら。
討伐に参加した者たちの感情は様々だった。
ただ……エレムも含めて討伐に参加した冒険者たち全員が立ち上がり、アラッドたちの後に付いて行く。
「あ、あああああアラッドさん。ら、雷獣がもう一体いたとは……ほ、本当なんですか?」
「信じられないのも無理はありませんよ。俺たちも、そいつがいきなり目の前に現れるまで、雷獣は一体しかいないと思ってましたから」
アラッドたちの中で一番そういう感覚が鋭いクロでさえ、遠く……アラッドたちよりも遠く離れた場所で戦いを観ていた雷獣の気配に気付いていなかった。
「正直……あいつが俺たちに近づく直前、攻撃を仕掛けてこなかったのは幸いでしたよ」
自分たちを攻撃するつもりであれば、発する圧から気付いていたかもしれない。
その可能性は非常に高いが……所詮たられ場の話。
結局は本当に直前になるまで、その迫りくる気配に気付けていなかった。
仮に攻撃を放っていたとしたら、直撃は避けられていたとしても、余波までは躱せなかったのは間違いない。
「血を溜める用意をしてもらっても良いですか」
「かしこまりました」
ささっと準備が整えられ、多くの冒険者やギルド専属の解体士、ギルド職員たちが見守る中……アラッドは雷獣の死体を二つ取り出した。
「そっちが、俺たちが討伐した雷獣です」
「っ……で、デカい」
誰かが零した言葉の通り、アラッドたちが討伐した雷獣はエレムたちが途中まで戦っていた雷獣と比べて一回り以上体が大きい。
体が大きければ、その分攻撃も当たりやすくなるものだが……雷獣クラスとなれば単純に全てのステータスが向上する。
的が大きくなろうとも、その分速く動けるので全くマイナスにならない。
「狂化を使って、とっておきの武器を使いましたけど……正直、何度も戦いの最中に驚かされましたよ」
「そ、そうなんですか? アラッドさんは前回、同じAランクのモンスターを倒したと聞きましたけど」
「確かにギリギリまで追い込むことで、倒すことが出来ました。ただ、やっぱり相性ってのは殺し合う上でとても重要な要素なんだと、改めて思い知らされましたよ」
ドラゴンゾンビと戦った時とは状況が違う。
それは確かに一つの言い訳になるが……既に言い訳だと解ってるからこそ、アラッドはそれを口に出すことはなかった。
「それに、ドラゴンゾンビはクソ屑魔術師に呼び出された……言ってしまえば、殆ど経験も思考もない強大な力を持つただの怪物です。それに対して、いきなり現れたもう一体の雷獣はドラゴンゾンビが持っていなかった強さを確かに持っていました……今回の戦いで、俺はまだ一人でAランクという怪物を一人で倒せるほど強くはないと痛感しました」
持っている物を全て使えば、Aランクという超強敵が相手でも勝てる。
確かにそう思っていた部分があった。
自分をギリギリまで追い込み、正直なところ相棒のお陰で堕ちずに済んだ辛勝ではあるものの、確かに勝つことは出来た。
だが、今回の一戦でその勝利は幻想だったと……身に染みて解った。
(なんで……なんで、そんな事を堂々と言えるんだよ……ふざけんなよ)
この場で一番強いであろう男が……自分はまだまだ弱いと言い切った。
己のキャリアの中で、一番の功績であろう内容を幻なのだと断言した。
討伐隊のメンバーの中には、本当にもう一体更に強い雷獣がいたのだとしても、アラッドたちが取っていた行動が許せない者が何人かいた。
エレムもその中の一人だったが……アラッドの言葉を耳にし、自然とそういった感情よりも恥ずかしさ、情けさが勝り始めた。
「それに、こいつに最後の一撃を叩きこんだのはスティームですしね」
「アラッド~~、頼むから変に持ち上げないでよ」
「何言ってんだ。最後にがっつり雷獣の体を抉って止めを刺したのはお前だろ」
「それはそうだけどさ~。それはクロとファルが懸命に動いて雷獣の動きを制限して、アラッドが渾身の一撃を囮にしてくれたからじゃん」
この男もまた、自分の功績を功績と思っていない。
確かにスティームが働いたのは最後の一瞬ではあるものの、アラッドたちが生み出した雷獣の隙を見逃さず捉えるのもまた一つの技量。
「それにほら、抉った後によく見たら拳がぐちゃぐちゃだったじゃん」
「それでも、スティームの矛が雷獣を貫いたことに変わりはないだろ。もっと誇れっての」
「ったく、褒め殺すのが上手いんだから」
自分の力があったから強敵に打ち勝ったのだと自慢しない。
世間一般的に見て、BランクやAランクモンスターは悪質な災害と同じ存在。
その考えはエレムたちにとっても変わらない。
アラッドとスティームから見ても強敵、超強敵であることに変わりはないが……結果を素直に受け入れ、どちらも下手に誇ることはなかった。
自分たちが後一歩のところまで追い詰めた雷獣を、若い二人が後から掻っ攫った。
それだけでも色々と感情が爆発。
アラッドが告げられた言葉により、更にぐちゃぐちゃになる。
そんな大混乱な状態のところに……とんでもない爆弾が落とされた。
雷獣がもう一体いた?
言ってる意味が解らない。
もしそれが本当だったとしたら。
討伐に参加した者たちの感情は様々だった。
ただ……エレムも含めて討伐に参加した冒険者たち全員が立ち上がり、アラッドたちの後に付いて行く。
「あ、あああああアラッドさん。ら、雷獣がもう一体いたとは……ほ、本当なんですか?」
「信じられないのも無理はありませんよ。俺たちも、そいつがいきなり目の前に現れるまで、雷獣は一体しかいないと思ってましたから」
アラッドたちの中で一番そういう感覚が鋭いクロでさえ、遠く……アラッドたちよりも遠く離れた場所で戦いを観ていた雷獣の気配に気付いていなかった。
「正直……あいつが俺たちに近づく直前、攻撃を仕掛けてこなかったのは幸いでしたよ」
自分たちを攻撃するつもりであれば、発する圧から気付いていたかもしれない。
その可能性は非常に高いが……所詮たられ場の話。
結局は本当に直前になるまで、その迫りくる気配に気付けていなかった。
仮に攻撃を放っていたとしたら、直撃は避けられていたとしても、余波までは躱せなかったのは間違いない。
「血を溜める用意をしてもらっても良いですか」
「かしこまりました」
ささっと準備が整えられ、多くの冒険者やギルド専属の解体士、ギルド職員たちが見守る中……アラッドは雷獣の死体を二つ取り出した。
「そっちが、俺たちが討伐した雷獣です」
「っ……で、デカい」
誰かが零した言葉の通り、アラッドたちが討伐した雷獣はエレムたちが途中まで戦っていた雷獣と比べて一回り以上体が大きい。
体が大きければ、その分攻撃も当たりやすくなるものだが……雷獣クラスとなれば単純に全てのステータスが向上する。
的が大きくなろうとも、その分速く動けるので全くマイナスにならない。
「狂化を使って、とっておきの武器を使いましたけど……正直、何度も戦いの最中に驚かされましたよ」
「そ、そうなんですか? アラッドさんは前回、同じAランクのモンスターを倒したと聞きましたけど」
「確かにギリギリまで追い込むことで、倒すことが出来ました。ただ、やっぱり相性ってのは殺し合う上でとても重要な要素なんだと、改めて思い知らされましたよ」
ドラゴンゾンビと戦った時とは状況が違う。
それは確かに一つの言い訳になるが……既に言い訳だと解ってるからこそ、アラッドはそれを口に出すことはなかった。
「それに、ドラゴンゾンビはクソ屑魔術師に呼び出された……言ってしまえば、殆ど経験も思考もない強大な力を持つただの怪物です。それに対して、いきなり現れたもう一体の雷獣はドラゴンゾンビが持っていなかった強さを確かに持っていました……今回の戦いで、俺はまだ一人でAランクという怪物を一人で倒せるほど強くはないと痛感しました」
持っている物を全て使えば、Aランクという超強敵が相手でも勝てる。
確かにそう思っていた部分があった。
自分をギリギリまで追い込み、正直なところ相棒のお陰で堕ちずに済んだ辛勝ではあるものの、確かに勝つことは出来た。
だが、今回の一戦でその勝利は幻想だったと……身に染みて解った。
(なんで……なんで、そんな事を堂々と言えるんだよ……ふざけんなよ)
この場で一番強いであろう男が……自分はまだまだ弱いと言い切った。
己のキャリアの中で、一番の功績であろう内容を幻なのだと断言した。
討伐隊のメンバーの中には、本当にもう一体更に強い雷獣がいたのだとしても、アラッドたちが取っていた行動が許せない者が何人かいた。
エレムもその中の一人だったが……アラッドの言葉を耳にし、自然とそういった感情よりも恥ずかしさ、情けさが勝り始めた。
「それに、こいつに最後の一撃を叩きこんだのはスティームですしね」
「アラッド~~、頼むから変に持ち上げないでよ」
「何言ってんだ。最後にがっつり雷獣の体を抉って止めを刺したのはお前だろ」
「それはそうだけどさ~。それはクロとファルが懸命に動いて雷獣の動きを制限して、アラッドが渾身の一撃を囮にしてくれたからじゃん」
この男もまた、自分の功績を功績と思っていない。
確かにスティームが働いたのは最後の一瞬ではあるものの、アラッドたちが生み出した雷獣の隙を見逃さず捉えるのもまた一つの技量。
「それにほら、抉った後によく見たら拳がぐちゃぐちゃだったじゃん」
「それでも、スティームの矛が雷獣を貫いたことに変わりはないだろ。もっと誇れっての」
「ったく、褒め殺すのが上手いんだから」
自分の力があったから強敵に打ち勝ったのだと自慢しない。
世間一般的に見て、BランクやAランクモンスターは悪質な災害と同じ存在。
その考えはエレムたちにとっても変わらない。
アラッドとスティームから見ても強敵、超強敵であることに変わりはないが……結果を素直に受け入れ、どちらも下手に誇ることはなかった。
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