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五百十九話 どんでん返し

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「はぁ~~、全然気付かなかったよ」

「怪我をしてるのに痛みを感じないって時は偶にあるからな」

「……でも、今の僕が赤雷を纏ってたとしても、あの雷獣を倒せたなら当然の結果と言えば結果だよね。今更だけど、僕の拳とスティームの拳ではこう……質が違うからね」

「痛いとは思うが、スティームも部位鍛錬ってのを続ければ、自然と硬くなっていくさ」

本職の武道家ほどがっつり行ってはいないが、ある程度体術で戦うことも想定しているアラッドはシャドーだけではなく、同時に部位鍛錬も行っていた。

「それじゃ、そろそろ街に戻るか」

「そうだね……って、やっぱりギルドにちゃんと説明しないと駄目だよね」

「大丈夫だって。そんなに心配するな。同業者たちは殴り掛かってくるかもしれないが、ギルド職員が止めに入ってくるはずだ」

「…………ごめん、全然心配が消えないよ」

とはいえ、もう挑み……そして倒してしまったのは仕方ない。
スティームも腹を決めて街へと戻る。

(……雰囲気が暗いな。あの正義マン兄ちゃんたちが戻ってたなら、また雷獣の討伐に失敗したって報告が広まっててもおかしくないか)

雷獣に周囲の人間を絶滅させる程の殺意があるのかは明確に解っていないが、一度目は一組のBランク冒険者たちが敗走に追い込まれ、二度目は複数のBランク冒険者パーティー、尖ったステータスを持つCランク冒険者などが力を合わせて挑んだ結果……再び敗走。

雷獣に殺意がある云々は置いておき、この結果に冒険者ギルドだけではなく、住民の雰囲気までも暗くなっていた。

(普通なら、雷獣を倒した僕たちは凱旋する感じで祝福されるんだろうけど、ある程度どういう状況だったのか広がっていれば、罵声が飛んできてもおかしくないだろうね)

再びそういう言葉が飛んでくるであろうと覚悟し、ふんどしを締め直し……冒険者ギルドの中へと入る。

(……お通夜かよ、ってツッコみたい)

しかし、ツッコみたい気持ちをグッと堪える。
雷獣対エレムたちの戦いを途中からしか観ていなかったため、もしかしたら本当に誰か雷獣の一撃で死んでいるかもしれないため、流石にそういった内容のツッコミは控えた。

「報告したいことがあるんですけど良いですか」

「あ、はい。どうぞ」

受付嬢たちもエレムたちから報告を受け取っていたため、明らかに雰囲気が沈んでいた。

それでも、仕事をしなければという気持ちだけはあった。

「雷獣を討伐した」

「………………はっ!?」

一応侯爵家の令息であるアラッドに対して、少々無礼な反応ではあるものの……今の受付嬢にそんな事を気にする余裕は全くなかった。

「え、はっ……えっ!!!??? ど、どどどどどどういうことですかっ!!!!????」

「その言葉の通りです。俺たちが、雷獣を討伐しました」

「……え、ええええええええええええ!!!!????」

驚くなという方が無理な話である。
目の前でどんでん返し的な話をされては、誰であっても驚くなというのは無理な注文。

お通夜状態であった冒険者たちも同じく、一切驚きを隠せていなかった。

「そ、そそそそれは、本当なんです、か?」

「えぇ、本当ですよ。まっ、きっちりぶっ倒したのはスティームが良い一撃を入れたからなんですけどね」

「変に褒めないでくれよアラッド。アラッドやクロ、ファルが上手く抑えててくれたから最高の一撃を叩き込めただけだよ」

嘘を言っている様には思えない。
ギルド職員たちはそもそも彼らがこういった嘘を付くタイプではないと知っている。

「死体はちゃんとあるんで、解体場の方で見せますよ」

「あ、ありがとうございます」

死体を見るまでは、二人の言葉が本当だとは言えない。

それでも……ギルド職員たちはホッと一安心していた。
雷獣という脅威が討伐された。
今回投入した戦力で倒せなかったらどうしようという思いもあったため、アラッドたちが倒してくれたという事実に、心の底から安心した。

だが……ギルドに居る職員以外の者たちの反応は違う。
討伐隊が敗走に追い込まれてから、アラッドたちが雷獣を倒したと報告しに来るまで……それほど大した時間は経っていない。

そうなれば、当然一つの予想が頭に浮かんでしまう。

「少し、良いかな」

「……なんですか?」

討伐隊のメンバーを代表して声を掛けてきたのは当然、クソイケメン優男先輩ことエレム。

その拳は……微かに震えていた。

「君は……君たちはもしかして、僕達が雷獣と戦っているところを、観ていたのかい」

エレムたちが戻って来た時間と、アラッドたちが討伐報告をしに戻って来た時間。
その間を考えれば……自分たちが懸命に戦って弱らせ、あと一歩のところまで追い詰めた雷獣を、彼らがタイミングを見計らって戦い、倒したとしか思えない。

先日……ようやく自分は自分で、他は他と区切りを付けられた。
そして素直にアラッドの凄さを認め、受け入れた……だからこそ、その先の言葉は聞きたくない。

聞きたくないが……真実を確かめずにはいられなかった。
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