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五百十四話 偶然で済ませるのが一番
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「物語が違うからこそ、僕が常識だと思っていることは、彼にとって常識ではない……そういう事、なんですね」
「もっと簡単な言い方も出来るが、お前にとってはそれがしっくりくるだろうな。アラッド君は貴族の令息ではあるけど、今は一人の冒険者だ。色々と自己責任という世界で生きてるんだ」
「……ですが、確か彼は騎士の爵位を持っていますよね」
これは幸いとばかり反論……という訳ではないが、ふと思い出した。
エレムが口にした内容に、確かにそうだったと思い出し、表情を困らせるドミトル。
「あれは……ほら、確か親御さんの為に? ちょっと無茶して手に入れたって話だろ」
「騎士という爵位は、そんなに軽い扱いなんですか」
あぁ言えばこう言う、といった屁理屈ではない。
正しい志を貫き通そうとしているエレムにとっては重要な問題だった。
「……爵位を持っている。それは明確にアラッド君がアルバース王国の戦力だって証明するものでもある。ってのが俺の考えだ。お偉いさんたちがどこまで考えてるのかは知らねぇけどな」
「…………」
先輩の言葉だけを聞けば、アラッドは圧倒的な特別扱いをされている。
そういう風にしか聞こえない。
「アラッド君は確かボロボロになりながらではあるが、ソロでAランクのモンスターを倒してしまったんだろ? そういうのを考えれば、ナイスな判断と言えるのかもしれないな」
「ドミトルはその話、本当だと信じてるんですか?」
「……逆に聞くがエレム、お前アラッド君の圧を受けたんだろ。その時の感覚を思い出しても、絶対にあり得ないと断言するのか?」
「正直な話……そうでもしないと、心が、折れる……気がして」
カクテルに涙が入ってしまうのを気にする余裕はなかった。
(……まさに劇薬ってやつだな。超絶スーパールーキーの出現ってのも、色々考えものか)
もう十年以上冒険者として活動し続け、ベテランの領域に入っているドミトルと、まだまだこれからがピークであるエレムではアラッドに対する感想……捉え方が違う。
「もう俺はこの世界に十年以上いるからな……誰かと自分を比べるってのが、時に心を燃やして背中を押してくれることがあるのは知ってる。でもな、無理に比べ過ぎると自分を見失いそうになるんだよ」
ドミトルは冒険者として十分成功してる部類に入るのだが……それでも、その世代の一番にはなれなかった。
だからこそ、今エレムが抱えている辛さも解る。
「もっと頑張らないと、どうすれば追いつけるのか、あいつにあって俺にないものは何なんだ……冒険者として色々と考えることは重用だが、考え過ぎると抜け出せない負のループってやつにハマっちまう」
「抜け出せないん、ですか」
「そうだな……そいつの事を意識し続ける限り、本当に中々抜け出せない。だからこそ、仲間や俺みたいな先輩が伝えなきゃならねぇんだよ。アラッド君はアラッド君で、エレムはエレムだ」
そもそもな話、下手に比べる必要などない。
「お前の物語の目標は、英雄になることだろ」
「はい」
幼い頃からの目標は依然として変わらない。
「別にアラッド君はその目標を邪魔しに来た陰気な奴じゃないんだ。今回は本当に偶々偶然ってやつだ」
「……そういう言葉で、済ませてしまうべきなのでしょうか」
「そういう言葉で済ませるのが一番だな。自分の力ではどうしようも出来ない……どれだけ備えていたとしても遭遇してしまう偶然ってのはあるんだ。考えてみろ、確かアラッド君はほんの少しの間だけ学園に通って、トーナメントに出たんだろ」
「そうみたいですね」
「校内戦ってやつで全勝して、トーナメントでも最後の試合……決勝戦以外の試合はほぼ余裕って感じで勝ったらしいじゃねぇか。同年代の学生、そのトーナメントが最後の三年生からすれば、クソふざけんなって怒鳴り散らかしたいだろうな……でも、それはアラッド君の気まぐれ? が偶然起こった結果だろ」
「な、なるほど」
学園に通っていなかったエレムにはトーナメントなどあまり縁がないイベントではあるが、最後の最後に怪物が超個人的な理由で出場してきたとなれば、その偶然を呪いたくなるのも致し方ない。
しかし、偶然は偶然なのだ。
「だから、世の中そういう理不尽もあるんだって受け入れるしかねぇし、自分と考えが相容れねぇ連中がいるってのも受け入れるしかない」
「受け入れなければ、前には進めない……そういう事ですね」
「そういう事だ。あれよこれよと上手いトークでバトルに持ち込まれて、ぶん殴ってこないだけ根は普通よりだと思うぜ? 強い奴が全員性格良いとは限らねぇんだからよ」
「……そうですね。彼とは考えが相容れないかもしれないけど、確かに先に彼を刺激したのは僕でした。その事実は……都合良く忘れてはダメですね」
「そうそう、ようやくいつものお前らしくなってきたな。ほらっ、もっと呑め呑め!」
「今日はドミトルさんの財布の中が空になるまで呑みます」
「はっはっは!! 上等だ。マスター、注文するぜ」
結局本当にドミトルの財布は空になってしまい、エレムは人が少ない場所で思いっきり吐くことになった。
「もっと簡単な言い方も出来るが、お前にとってはそれがしっくりくるだろうな。アラッド君は貴族の令息ではあるけど、今は一人の冒険者だ。色々と自己責任という世界で生きてるんだ」
「……ですが、確か彼は騎士の爵位を持っていますよね」
これは幸いとばかり反論……という訳ではないが、ふと思い出した。
エレムが口にした内容に、確かにそうだったと思い出し、表情を困らせるドミトル。
「あれは……ほら、確か親御さんの為に? ちょっと無茶して手に入れたって話だろ」
「騎士という爵位は、そんなに軽い扱いなんですか」
あぁ言えばこう言う、といった屁理屈ではない。
正しい志を貫き通そうとしているエレムにとっては重要な問題だった。
「……爵位を持っている。それは明確にアラッド君がアルバース王国の戦力だって証明するものでもある。ってのが俺の考えだ。お偉いさんたちがどこまで考えてるのかは知らねぇけどな」
「…………」
先輩の言葉だけを聞けば、アラッドは圧倒的な特別扱いをされている。
そういう風にしか聞こえない。
「アラッド君は確かボロボロになりながらではあるが、ソロでAランクのモンスターを倒してしまったんだろ? そういうのを考えれば、ナイスな判断と言えるのかもしれないな」
「ドミトルはその話、本当だと信じてるんですか?」
「……逆に聞くがエレム、お前アラッド君の圧を受けたんだろ。その時の感覚を思い出しても、絶対にあり得ないと断言するのか?」
「正直な話……そうでもしないと、心が、折れる……気がして」
カクテルに涙が入ってしまうのを気にする余裕はなかった。
(……まさに劇薬ってやつだな。超絶スーパールーキーの出現ってのも、色々考えものか)
もう十年以上冒険者として活動し続け、ベテランの領域に入っているドミトルと、まだまだこれからがピークであるエレムではアラッドに対する感想……捉え方が違う。
「もう俺はこの世界に十年以上いるからな……誰かと自分を比べるってのが、時に心を燃やして背中を押してくれることがあるのは知ってる。でもな、無理に比べ過ぎると自分を見失いそうになるんだよ」
ドミトルは冒険者として十分成功してる部類に入るのだが……それでも、その世代の一番にはなれなかった。
だからこそ、今エレムが抱えている辛さも解る。
「もっと頑張らないと、どうすれば追いつけるのか、あいつにあって俺にないものは何なんだ……冒険者として色々と考えることは重用だが、考え過ぎると抜け出せない負のループってやつにハマっちまう」
「抜け出せないん、ですか」
「そうだな……そいつの事を意識し続ける限り、本当に中々抜け出せない。だからこそ、仲間や俺みたいな先輩が伝えなきゃならねぇんだよ。アラッド君はアラッド君で、エレムはエレムだ」
そもそもな話、下手に比べる必要などない。
「お前の物語の目標は、英雄になることだろ」
「はい」
幼い頃からの目標は依然として変わらない。
「別にアラッド君はその目標を邪魔しに来た陰気な奴じゃないんだ。今回は本当に偶々偶然ってやつだ」
「……そういう言葉で、済ませてしまうべきなのでしょうか」
「そういう言葉で済ませるのが一番だな。自分の力ではどうしようも出来ない……どれだけ備えていたとしても遭遇してしまう偶然ってのはあるんだ。考えてみろ、確かアラッド君はほんの少しの間だけ学園に通って、トーナメントに出たんだろ」
「そうみたいですね」
「校内戦ってやつで全勝して、トーナメントでも最後の試合……決勝戦以外の試合はほぼ余裕って感じで勝ったらしいじゃねぇか。同年代の学生、そのトーナメントが最後の三年生からすれば、クソふざけんなって怒鳴り散らかしたいだろうな……でも、それはアラッド君の気まぐれ? が偶然起こった結果だろ」
「な、なるほど」
学園に通っていなかったエレムにはトーナメントなどあまり縁がないイベントではあるが、最後の最後に怪物が超個人的な理由で出場してきたとなれば、その偶然を呪いたくなるのも致し方ない。
しかし、偶然は偶然なのだ。
「だから、世の中そういう理不尽もあるんだって受け入れるしかねぇし、自分と考えが相容れねぇ連中がいるってのも受け入れるしかない」
「受け入れなければ、前には進めない……そういう事ですね」
「そういう事だ。あれよこれよと上手いトークでバトルに持ち込まれて、ぶん殴ってこないだけ根は普通よりだと思うぜ? 強い奴が全員性格良いとは限らねぇんだからよ」
「……そうですね。彼とは考えが相容れないかもしれないけど、確かに先に彼を刺激したのは僕でした。その事実は……都合良く忘れてはダメですね」
「そうそう、ようやくいつものお前らしくなってきたな。ほらっ、もっと呑め呑め!」
「今日はドミトルさんの財布の中が空になるまで呑みます」
「はっはっは!! 上等だ。マスター、注文するぜ」
結局本当にドミトルの財布は空になってしまい、エレムは人が少ない場所で思いっきり吐くことになった。
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