上 下
504 / 992

五百三話 利用されてる?

しおりを挟む
レイピア使いの青年に襲われてから数日後、アラッドとスティームは重要参考人として、ルドルスの騎士団に呼ばれた。

「どうだ、口に合うかな」

「……はい。正直、ちょっとびっくりするほど美味しいです」

「はは、それは良かったよ」

重要参考人とはいえ、騎士団の者たちにとって……二人は適当に扱える人物ではないため、テーブルの上に紅茶とお菓子が置かれていた。

「それで、俺たちはここに呼び出したという事は、あのレイピア使いにクスリを渡した人物……組織が解ったんですか?」

「まだ明確には解っていないけど、候補は絞れてきてるんだ」

候補の組織名を聞き、アラッドの表情が歪む。
スティームも聞き覚えがある組織が少しあったため、まさかの組織名に驚く。

「……結構、ヤバい感じかな?」

「ヤバいと言うか……いや、とりあえずヤバいだろうな。それでめんどくさいことになると思う」

「鋭いね。今回の事に関しては既に国に報告してる。狙われてるのが未来ある若者たちであれば、国もそれなりの力をこの件に貸してくれると思うからね」

国が全力で調査に当たらないのには、戦力は避けるのが今回の一件だけではないから、という単純な理由。

「アラッド、面倒というのは……そういう事、なのかな」

「あまり考えたくはないことだけど、有名どころの裏組織だと、お偉いさんが関わっててもおかしくないからな」

アラッドの言葉を否定出来ず、騎士も苦い顔になる。

当然のことながら、貴族は敵対関係が強い相手に対して堂々と攻め込む様な真似をするのはアウト。
それ故に裏の人間などを雇ってあれこれ暗躍することが多い。

「騎士として、あまり推奨出来るやり方ではないんだけどね」

「堂々とぶん殴ることが出来ないからこそ、ですよね。まぁそもそもバカな真似をしなければ良いって話なんですけど…………全員がそういう考え方を出来たら、騎士団の存在意義が薄れますよね」

「はっはっは! 確かにそうだね。でも、そうなれば僕たちもモンスターの討伐などに集中出来るね」

他愛もない会話を行いながらも、互いに得た情報を共有し合う。

「やっぱり俺たち……いや、俺が狙われるようになりますかね」

「そうだねぇ、正直なところ……僕はあのクスリをバラまこうとしてる連中は、君を利用しようとしてるんじゃないかと思ってるんだ」

「??????」

騎士の予想を聞き……頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

「ほら、アラッド君はとんでもなく強いだろ。あのトーナメント、仕事があって観れなかったけど、実際に観ていた知人からは観戦したことを一生自慢出来ると言ってた」

「そ、そうですか」

ややオーバーな感想であっても、そう感じてくれた人がいると思うと、やはり嬉しいものがある。
ついでに対戦相手だったスティームも釣られて照れる。

「でも、確かアラッド君が学生時代の時、襲ってきた人物はアラッド君の力に嫉妬していたんだよね」

「……後でそういう話を聞きました」

「嫉妬というのは、人を闇に突き落とす一つの要素だ。僕たちみたいな大人であればある程度仕方ないって気持ちで、そういう醜い部分を抑えられるけど……若い子供たちはそうもいかない」

必ずしも大人は子供より優れているとは限らない?

確かに実力といった点に限れば、アラッドは大抵の大人より強い。
だが、全ての点において勝っている訳ではない。
逆も然りではあるものの、心の強さ……制御力に関しては、全体的に大人の方が上手と言える。

「えっと、つまりアラッドに敗れた若い人たちを利用して、将来有望な人を潰そうとしてる、ということですか?」

「その可能性が高いという話だね。今回のケースはちょっと特殊だったかもしれないけど、一応アラッド君も関わってる訳だしね」

「…………」

先日、勝手に闇落ちする者たちを面倒な存在だと思っていたが、自分が利用されているかもしれないと告げられ……色々と複雑な思いが湧き上がる。

(俺が悪い、のか? 確かにギルみたいな奴を追放まで追い込んでしまったことはあるけど……けども、それは元々俺に絡まなければ良い話ではないのか!?)

絡まれて喧嘩を売られれば、ついつい買ってしまうアラッドではあるが、買うも買わないもそれはアラッドの自由。
ぶっちゃけた話、そこまでアラッドが気にする必要はない。

だが、結局問題に大きく関わっているということもあり、完全に頭から離れることはない。

「……そもそも俺に絡むなよって考えは、傲慢というか我儘が過ぎるんですかね」

「いやいやいや、そんな事はないよ。原因を辿ればそういう話なんだ。決してアラッド君が悪い訳じゃない」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると少し楽になります……でも、だからといってそういった人がいなくなるとは限りませんよね」

アラッド的には自身にバカ絡みしてくる人物は、前世のバカ〇ターの様な存在だと考えている。

そんな事をすれば破滅という未来しか待っていない、今後の長い長い人生を全て潰しかねないよう行動を平気で行う。
そいつらは自分たちと別の人種、故に消えることはないと思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...