503 / 1,012
五百二話 認識の違い
しおりを挟む
(俺から見て、一回戦と準決勝も本気じゃないようには見えなかった……そうなんだよ。あの時本気だったのは間違いないが、次の試合でその本気が更新されたというか……いや、無理があるか)
一回戦や準決勝と比べて、決勝戦のスティームは明らかに本気の度合いが違った。
圧倒的な集中力からくる読みを発揮し、最後の最後には赤雷を発現。
スティームはあそこで初めて赤雷を発現したのだが、他の参加者たちからすれば、そんな知ったことではない。
圧倒的な切り札があるのに、自分との試合では使わなかった。
つまりそういう事なのだろう!!!!! というのがレイピア使いの心の内。
ぶっちゃけな話、アバックもそういった気持ちがなかった訳ではないが、それでも彼のメンタルは一味違った。
「……まっ、あれだ。スティーム……今回の一件、そこまでお前が気にする必要はない」
「いや、でも……本当に、そうなのかな」
クスリを使用してしまったことが世間にバレ、親元に報告される。
同じ貴族の令息であるからこそ、その後の対応……周りからの反応を考えてしまい、スティームはいつも以上に冷静さがなかった。
「…………スティーム。俺がある物語を読んで……改めてその通りだなって思った言葉がある。戦争しか知らない子供と、平和しか知らない子供の価値観は違う」
「…………」
ぶっ飛び過ぎてて理解が追い付かない。
追い付かないが、それでも友の言葉を聞き逃さない様に集中する。
「ちょっと極端過ぎるかもしれないが、それだけあのレイピア使いが受けた衝撃……そしてそれを外側から見ていた俺としては、捉え方が違う」
「捉え方が、違う…………それは、アラッドが強いからという事かな?」
「強さ、立場、それらの要素諸々関係してるかもしれないな。でもな……同じスティームに負けた相手であっても、アバックの奴はどうだ? ぶっちゃけ、あの人からすればお前よりも俺が憎い筈だ。自分が手に入れ筈だった雷槍を俺が手に入れたんだからな」
アラッドがいきなりトーナメントに参加すると決めた事で、アバックの実家としてはプランが大幅に崩れた。
そしてアラッドとしては賄賂を受け取るという手段もあったのだが……それは面白くないという、非常に私情を優先した答えを出した。
それでもアラッドがアバックに恨まれる理由はないに等しいのだが……アバックの立場を考えれば、一理ぐらいはなくもないと多くの者が一応納得出来る。
「でもどうだ? あいつはエレインと一緒に俺たちの元へ来て和気あいあいと話して、仕事で戻るまで数回だけだが、軽くて手合わせもしてきた……別に俺だから意見が違うって訳じゃない」
「それはそう……だね。一番は、やっぱり心の強さということなんだね」
「おいおい、何今更解かった様な顔してるんだ」
「えっ?」
意地悪で、どこかスティームを褒める様な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「お前がどんな状況でも諦めずに、集中力を研ぎらせずに攻め続けてきたからこそ……俺を焦らせるまで追い込んだんだろ」
「ッ!!」
スティームが赤雷を発現した瞬間、アラッドは本気で焦った。
その焦りは理性をぶち壊し、本能に呼びかけ……結果、使うと決めていなかった狂化を使用した。
「あれはお前の何が何でも俺に勝つという心の強さが魅せた結果だ……違うか?」
「いや、それは……まぁ、そうかな。正直、狂化を使わせたいと思ってた。後、欲を言えば渦雷を使わせたかった」
「はっはっは!!! そこまで本気を出してたら、終わり方は……命こそ奪ってないと思うが、腕や脚の一本は飛んでたかもしれないな」
昼過ぎの穏やかな空気に似合わない発言に、周囲の客たちはギョッとした顔になる。
「……レイピア使いからすれば、俺は当然としてスティームも理不尽な存在に見えたんだろうな。それこそ、堕ちでもしないと倒せないと」
「それは、誇っても良いことなのかな」
「向こうがそれだけこっちの実力を評価してるんだ。一応誇っても良いとは思うぞ。ただ今回の一件は、色んな意味で向こうのメンタルが脆かった。そもそもな……今回の一件を忘れて、また冒険者としての道を進めば良かったんだ。別に俺やスティームを殺せなかったからといって、あの人の人生が不幸になる訳じゃないんだ」
あれこれ考えてるうちに……レイピア使いに対してやや辛辣になり始めたアラッド。
「というか、そこはあんまりメンタル云々関係無いように思えてきたな……ただ、あの人の嫉妬とかそういう感情が爆発しただけなんじゃないかって思えてきた」
「そ、そんなことはないと思うけどな。あ、ほら。精神に作用するマジックアイテムを使われたかもしれないでしょ」
「むっ……確かにその可能性は否定出来ないな。けど、それなら……うちの弟の方が、メンタルはよっぽど強いな」
おそらく同じ関係者に誘われたであろうにも関わらず、鋼の精神で誘惑を弾き飛ばし、己の道を突き進む男、ドラング。
そんな自分に対しては辛辣な弟を思い出し、攻めて嫌われるならあぁいう感じが良いよなということについて会話内容が変わったアラッドとスティームだった。
一回戦や準決勝と比べて、決勝戦のスティームは明らかに本気の度合いが違った。
圧倒的な集中力からくる読みを発揮し、最後の最後には赤雷を発現。
スティームはあそこで初めて赤雷を発現したのだが、他の参加者たちからすれば、そんな知ったことではない。
圧倒的な切り札があるのに、自分との試合では使わなかった。
つまりそういう事なのだろう!!!!! というのがレイピア使いの心の内。
ぶっちゃけな話、アバックもそういった気持ちがなかった訳ではないが、それでも彼のメンタルは一味違った。
「……まっ、あれだ。スティーム……今回の一件、そこまでお前が気にする必要はない」
「いや、でも……本当に、そうなのかな」
クスリを使用してしまったことが世間にバレ、親元に報告される。
同じ貴族の令息であるからこそ、その後の対応……周りからの反応を考えてしまい、スティームはいつも以上に冷静さがなかった。
「…………スティーム。俺がある物語を読んで……改めてその通りだなって思った言葉がある。戦争しか知らない子供と、平和しか知らない子供の価値観は違う」
「…………」
ぶっ飛び過ぎてて理解が追い付かない。
追い付かないが、それでも友の言葉を聞き逃さない様に集中する。
「ちょっと極端過ぎるかもしれないが、それだけあのレイピア使いが受けた衝撃……そしてそれを外側から見ていた俺としては、捉え方が違う」
「捉え方が、違う…………それは、アラッドが強いからという事かな?」
「強さ、立場、それらの要素諸々関係してるかもしれないな。でもな……同じスティームに負けた相手であっても、アバックの奴はどうだ? ぶっちゃけ、あの人からすればお前よりも俺が憎い筈だ。自分が手に入れ筈だった雷槍を俺が手に入れたんだからな」
アラッドがいきなりトーナメントに参加すると決めた事で、アバックの実家としてはプランが大幅に崩れた。
そしてアラッドとしては賄賂を受け取るという手段もあったのだが……それは面白くないという、非常に私情を優先した答えを出した。
それでもアラッドがアバックに恨まれる理由はないに等しいのだが……アバックの立場を考えれば、一理ぐらいはなくもないと多くの者が一応納得出来る。
「でもどうだ? あいつはエレインと一緒に俺たちの元へ来て和気あいあいと話して、仕事で戻るまで数回だけだが、軽くて手合わせもしてきた……別に俺だから意見が違うって訳じゃない」
「それはそう……だね。一番は、やっぱり心の強さということなんだね」
「おいおい、何今更解かった様な顔してるんだ」
「えっ?」
意地悪で、どこかスティームを褒める様な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「お前がどんな状況でも諦めずに、集中力を研ぎらせずに攻め続けてきたからこそ……俺を焦らせるまで追い込んだんだろ」
「ッ!!」
スティームが赤雷を発現した瞬間、アラッドは本気で焦った。
その焦りは理性をぶち壊し、本能に呼びかけ……結果、使うと決めていなかった狂化を使用した。
「あれはお前の何が何でも俺に勝つという心の強さが魅せた結果だ……違うか?」
「いや、それは……まぁ、そうかな。正直、狂化を使わせたいと思ってた。後、欲を言えば渦雷を使わせたかった」
「はっはっは!!! そこまで本気を出してたら、終わり方は……命こそ奪ってないと思うが、腕や脚の一本は飛んでたかもしれないな」
昼過ぎの穏やかな空気に似合わない発言に、周囲の客たちはギョッとした顔になる。
「……レイピア使いからすれば、俺は当然としてスティームも理不尽な存在に見えたんだろうな。それこそ、堕ちでもしないと倒せないと」
「それは、誇っても良いことなのかな」
「向こうがそれだけこっちの実力を評価してるんだ。一応誇っても良いとは思うぞ。ただ今回の一件は、色んな意味で向こうのメンタルが脆かった。そもそもな……今回の一件を忘れて、また冒険者としての道を進めば良かったんだ。別に俺やスティームを殺せなかったからといって、あの人の人生が不幸になる訳じゃないんだ」
あれこれ考えてるうちに……レイピア使いに対してやや辛辣になり始めたアラッド。
「というか、そこはあんまりメンタル云々関係無いように思えてきたな……ただ、あの人の嫉妬とかそういう感情が爆発しただけなんじゃないかって思えてきた」
「そ、そんなことはないと思うけどな。あ、ほら。精神に作用するマジックアイテムを使われたかもしれないでしょ」
「むっ……確かにその可能性は否定出来ないな。けど、それなら……うちの弟の方が、メンタルはよっぽど強いな」
おそらく同じ関係者に誘われたであろうにも関わらず、鋼の精神で誘惑を弾き飛ばし、己の道を突き進む男、ドラング。
そんな自分に対しては辛辣な弟を思い出し、攻めて嫌われるならあぁいう感じが良いよなということについて会話内容が変わったアラッドとスティームだった。
159
お気に入りに追加
6,106
あなたにおすすめの小説
言祝ぎの聖女
しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。
『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。
だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。
誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。
恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる