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五百二話 虐めでも拷問でもない
しおりを挟む扉を開けてボス部屋に入っても特に動きは無かった。異変が起こったのは全員が広間に入りきった頃。
ドシンと地面が揺れた。
次に広間の奥から巨大な四足歩行のナニカがのっしのっしと歩いてきた。初心者用ダンジョン地下五階のボスにしては禍々し過ぎるというか……。皆も同じ事を思っているのか、ピタリと動きが止まっている。
「あれは——!」
「知っているんですかっ、団長さん!?」
甲斐先生が締め上げる前に、団長は言い放った。
「皆逃げろ! 此奴はグレータービーストッ、魔王の居城近くに生息するという上級モンスターだ! 今の我々では到底敵わない!!」
団長のセリフが思いっきり説明セリフな所にツッコミ入れるべきなのか、これ!?
俺も逃げ出したのだが、いかんせん『すばやさ』が皆とは一回りは違う。あっという間に最後尾になってしまった。
――やばい、これは死ぬ!
焦っていたから色々な事が頭の中からから吹き飛んでいた。周りの注意すらも怠るほどに。そのせいで魔物なんかよりもよほど注意しないと行けない人物への警戒が薄れた。
「――さらばだ、旅人」
そんな団長の囁き声が聞こえた次の瞬間には、地面とキスするハメになっていた。足を引っ掛けられて転んだのだ。
そこで疑惑が確信に変わった。
——これは罠だ。『旅人』を抹殺するための。
遠くからクラスメートたちの声と扉の閉まる音が聞こえた。
*
「気配遮断をモノに出来てなかったらマジでアウトだったぞ、これ」
気付くのが遅過ぎたが、まあギリギリセーフだったので良しとする。……しっかし、閉じ込められてるのでやることがない。とりあえず魔物——団長はグレータービーストと呼んでたな、確か——でも観察するか。
その体躯は現状、俺ではどう足掻いても勝てそうに無いとわかる凶悪ないでたち。団長も言っていたがラスダン手前辺りに生息してそうな面構えだ。悔しいが勇者である早乙女でも今は敵わないだろう。
「『旅人』を始末するにしては過剰戦力以外の何者でもねーよ……」
どこの世界に、役立たずを始末するために勇者すら敵わない魔物をけしかける阿呆がいるのか。……ああ、この世界にいるな。ヤバいヤツ大杉であたまいたい。
そうしてしばらく。
扉に力一杯何度もドスンドスンと体当たりをする巨大なグレータービーストを見ていてふと思った。扉、頑丈過ぎねぇ? 開けた時は軽かったよな? 結構保つのな、まるで鍵がかかって……まさか、かんぬき常備!? 用意周到にも程があるだろぉぉぉ! どんだけ『旅人』を抹殺したかったんだよ!!
合法的に抹殺したかったんだろうなー……ウチのクラス仲良いし。事故に見せかけないと後が大変だもんなー。うんうん、納得——
「——できるかぁぁッ!!」
ハッと、反射でとっさに口を塞いだ。……グレータービーストさんは——素知らぬ顔で扉へのアタックを続けている。
「壊れスキルなのはありがたいが、心臓には悪いよな……気配遮断」
俺は割と繊細なのだ。いくら持続時間が無期限と言われても、目の前でこんな凶暴な魔物がドッスンバッタンやってる側に居続けられるほど神経太くない。早くどっか行って欲しい。
そんな願いが通じたのか——ピュィーという笛のような音が聞こえた。途端に大人しくなるグレータービースト。
「大人しくなった……?」
まあ、俺への罠である以上コイツ野生の魔物とは違うかも……という考えも頭を掠めてた訳だが、マジか。マジでラスダン手前の魔物を飼い慣らす技術があんのか、この国……。
ゾッとした。
そんな国に召喚されてしまった事も恐ろしいが、そんな国のために働かせられるクラスのみんなが心配でならない。だが、今の俺にはそれを打開する術は無い。せいぜい逃げ延びて帰る方法を探すか、援軍を集めるくらいだろうか?
俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
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