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五百二話 虐めでも拷問でもない
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「スティーム、こいつは……多分貴族の令息、だよな」
「そうだね。この国に令息だと、思うよ」
「そうなると……いきなり殺しに掛かってきたとはいえ、殺すのは……不味いよな」
「冒険者らしいけど、多分不味い事になると、予想出来るね」
「ガァアアアアアアッ!!! アアッ!!!!」
いきなり自分たちを殺しに掛かってきた同世代の冒険者であるレイピア使い攻撃を躱しながら、どう対応すべきかを話し合う二人。
それに対し、レイピア使いの青年は獣の様な声を上げながらレイピアを振るい続ける。
(普通に考えれば、俺らはお咎めなしで済む筈。でも……こいつが何処の家の奴かは知らないけど……やっぱり、殺しは不味いか……そうなると、意識を失わせてレドルスの憲兵に渡すのがベストだな)
考えは纏まった。
後は実行に移すのみ。
「あがっ!!??」
「スティーム、適当に浴びせてくれ」
「なるほどね、了解」
ヤクブツを使用した影響で身体能力が大幅に上がっており、技術力も失っていないという割と完璧な状態に近くはあるが……やや自我を失っている状態であるため、判断力が鈍っていた。
アラッドはその隙を突いて糸で脚を絡み取り、転倒させた。
そしてスティームの雷が流され、レイピア使いは電流に悶え苦しむ。
因みに、アラッドの拘束している糸はスレッドチェンジで途中部分から絶縁体に変えてあるため、アラッドまで電流で痺れることはない。
「アバババババババババっ!!!???」
死なない程度の電流を十数秒ほど流したが……まだ意識があったため、更に追加。
「アガガガガガガガガガガガガっ!!!???」
これは決して拷問ではなく、暴走するレイピア使いの青年を殺さない様に気絶させるための対策。
そう……二人が行っている行動は、決して虐めや拷問などではない。
「…………」
「ようやく気絶したな」
「みたいだね。ん~~~~……あまり彼の事を深く知ってる訳じゃないけど、クスリに手を出す様なタイプには見えなかったんだよね」
「そうだな、俺も同じ感想だ」
直接話したどころか、アラッドはレイピア使いの青年と戦ってすらいない。
肉体言語で会話していないのであれば、全く彼の事を知らないと言っても過言ではない。
それでも、パッと見た限りでは道を外れる様な人間には思えなかった。
(……そうだな。いつだって道を外れる人間は、常にその部分が表に出てるとは限らない)
何となく解かるものの、まだ彼の口から自分たちを襲った理由は聞けていない。
だが、そんな自分たちの感情を優先するよりも、レドルスの兵に引き渡した。
「この冒険者に襲われました」
「っ!!?? そ、それは……本当、なのですか?」
目の前にいるのは先日のトーナメントで激闘を繰り広げた優勝者と準優勝者。
そして二人の後ろには彼らの相棒である巨狼と大鷹がいる。
兵士は自身が戦闘者ということもあり……仮に自分が二人に恨みを持っていようとも、アラッドとスティームを襲おうという気が一切起きない。
「信じられないという気持ちは解ります。ただ、こっちとしても同じ気持ちです」
「そ、そうですよね……その、彼に変わった部分とかはありましたか?」
兵士たちの詰め所で現在お話し中であるため、一般人に話が伝わる事は……一応ないので、アラッドは隠さず伝えた。
「彼はクスリを使っていました。調べれば解かると思います」
「ッ、なるほど」
「……これは一応極秘の内容なのですが」
ペンで洋紙の上に、学園で起こった一件について書き記し、兵士に伝えた。
「そんな事が、あったのですね」
「症状としては、この件と殆ど同じかと。なので、自分の母校に連絡を取れば、何かしらの手掛かりを掴めるかもしれません」
手紙はその場で燃やし、伝えたい事は伝え終えた二人。
その後、二人はそれ以降体を動かす気にはならず、カフェで中途半端な満腹感を満たすことにした。
「…………」
「…………」
メニューを頼み終えた二人は、一言も喋らない。
それは今だけではなく、レイピア使いの青年を取り押さえてから殆どそんな状態だった。
「ねぇ、アラッド。その……僕は、彼に失礼な事をしてしまったかな」
二人の中で直接的な関りがあるのはスティーム。
何かあるとすれば、スティームが要因である可能性は高い。
「……スティームの行動によって、あのレイピア使いの青年が失礼と感じたか否か、それに関しては相手による内容だ」
「やっぱり、わざと武器を捨てて徒手格闘に持ち込んだから、かな」
「後のスティームの戦闘光景を見れば、失礼というか……自分は下に見られていた、と思うかもしれないな」
あのトーナメントでスティームの目的は決勝戦でアラッドと戦い、自分が怪物と隣に立ってもおかしくない冒険者だと示すこと。
それは人によっては一回戦、準決勝は勝って当然、全力で戦うまでもない……そう捉えられてもおかしくない。
勿論、アラッドはスティームが一回戦のレイピア使いの青年を、準決勝のアバックを下に見ているとは思っていない。
だが……付き合いが殆どない者たちからすれば、現実は残酷だった。
「そうだね。この国に令息だと、思うよ」
「そうなると……いきなり殺しに掛かってきたとはいえ、殺すのは……不味いよな」
「冒険者らしいけど、多分不味い事になると、予想出来るね」
「ガァアアアアアアッ!!! アアッ!!!!」
いきなり自分たちを殺しに掛かってきた同世代の冒険者であるレイピア使い攻撃を躱しながら、どう対応すべきかを話し合う二人。
それに対し、レイピア使いの青年は獣の様な声を上げながらレイピアを振るい続ける。
(普通に考えれば、俺らはお咎めなしで済む筈。でも……こいつが何処の家の奴かは知らないけど……やっぱり、殺しは不味いか……そうなると、意識を失わせてレドルスの憲兵に渡すのがベストだな)
考えは纏まった。
後は実行に移すのみ。
「あがっ!!??」
「スティーム、適当に浴びせてくれ」
「なるほどね、了解」
ヤクブツを使用した影響で身体能力が大幅に上がっており、技術力も失っていないという割と完璧な状態に近くはあるが……やや自我を失っている状態であるため、判断力が鈍っていた。
アラッドはその隙を突いて糸で脚を絡み取り、転倒させた。
そしてスティームの雷が流され、レイピア使いは電流に悶え苦しむ。
因みに、アラッドの拘束している糸はスレッドチェンジで途中部分から絶縁体に変えてあるため、アラッドまで電流で痺れることはない。
「アバババババババババっ!!!???」
死なない程度の電流を十数秒ほど流したが……まだ意識があったため、更に追加。
「アガガガガガガガガガガガガっ!!!???」
これは決して拷問ではなく、暴走するレイピア使いの青年を殺さない様に気絶させるための対策。
そう……二人が行っている行動は、決して虐めや拷問などではない。
「…………」
「ようやく気絶したな」
「みたいだね。ん~~~~……あまり彼の事を深く知ってる訳じゃないけど、クスリに手を出す様なタイプには見えなかったんだよね」
「そうだな、俺も同じ感想だ」
直接話したどころか、アラッドはレイピア使いの青年と戦ってすらいない。
肉体言語で会話していないのであれば、全く彼の事を知らないと言っても過言ではない。
それでも、パッと見た限りでは道を外れる様な人間には思えなかった。
(……そうだな。いつだって道を外れる人間は、常にその部分が表に出てるとは限らない)
何となく解かるものの、まだ彼の口から自分たちを襲った理由は聞けていない。
だが、そんな自分たちの感情を優先するよりも、レドルスの兵に引き渡した。
「この冒険者に襲われました」
「っ!!?? そ、それは……本当、なのですか?」
目の前にいるのは先日のトーナメントで激闘を繰り広げた優勝者と準優勝者。
そして二人の後ろには彼らの相棒である巨狼と大鷹がいる。
兵士は自身が戦闘者ということもあり……仮に自分が二人に恨みを持っていようとも、アラッドとスティームを襲おうという気が一切起きない。
「信じられないという気持ちは解ります。ただ、こっちとしても同じ気持ちです」
「そ、そうですよね……その、彼に変わった部分とかはありましたか?」
兵士たちの詰め所で現在お話し中であるため、一般人に話が伝わる事は……一応ないので、アラッドは隠さず伝えた。
「彼はクスリを使っていました。調べれば解かると思います」
「ッ、なるほど」
「……これは一応極秘の内容なのですが」
ペンで洋紙の上に、学園で起こった一件について書き記し、兵士に伝えた。
「そんな事が、あったのですね」
「症状としては、この件と殆ど同じかと。なので、自分の母校に連絡を取れば、何かしらの手掛かりを掴めるかもしれません」
手紙はその場で燃やし、伝えたい事は伝え終えた二人。
その後、二人はそれ以降体を動かす気にはならず、カフェで中途半端な満腹感を満たすことにした。
「…………」
「…………」
メニューを頼み終えた二人は、一言も喋らない。
それは今だけではなく、レイピア使いの青年を取り押さえてから殆どそんな状態だった。
「ねぇ、アラッド。その……僕は、彼に失礼な事をしてしまったかな」
二人の中で直接的な関りがあるのはスティーム。
何かあるとすれば、スティームが要因である可能性は高い。
「……スティームの行動によって、あのレイピア使いの青年が失礼と感じたか否か、それに関しては相手による内容だ」
「やっぱり、わざと武器を捨てて徒手格闘に持ち込んだから、かな」
「後のスティームの戦闘光景を見れば、失礼というか……自分は下に見られていた、と思うかもしれないな」
あのトーナメントでスティームの目的は決勝戦でアラッドと戦い、自分が怪物と隣に立ってもおかしくない冒険者だと示すこと。
それは人によっては一回戦、準決勝は勝って当然、全力で戦うまでもない……そう捉えられてもおかしくない。
勿論、アラッドはスティームが一回戦のレイピア使いの青年を、準決勝のアバックを下に見ているとは思っていない。
だが……付き合いが殆どない者たちからすれば、現実は残酷だった。
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