スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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四百九十七話 十分こっち側

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「一応言っておくけど、多分……赤雷を纏ったスティームなら、俺の糸でどうこう出来ないぞ?」

「そう、なの?」

「……いや、出来るのか? でもそれはまだやったことないからな……うん、とりあえず今のところは無理だと思う」

糸を体内に侵入させ、操るマリオネットというスキルがあるが、赤雷を全身に纏われれば、まず間違いなく糸が焼かれて消滅する。

「そうだな。まだ糸の性質を変えたマリオネットを使ったことはなかったよな……」

「つまり、アラッドはまだまだこれから強くなるってことだね」

「まだまだ強くなるつもりだけど、今考えてるのは……うん、出来たとしてもよっぽど上手く相手に動きを読んで動かないと無理だな」

マリオネットは伸ばした糸が相手の体内に侵入し、初めて操るという効果を発揮する。

その作業はかなり器用さが必要であり、相手のスピードが一定以上の早さになると、そもそも糸を体に侵入出来ない可能性が高い。

「というか、俺の糸はタイマン勝負より一対多数での戦い向け……もしくは暗殺とかに向いてる武器だ」

「でも、フローレンスさんとの戦いでは、それすら利用しなければならない戦いだったんだろう」

「そうだな……最後の一手はフローレンスが中途半端な手を使ったというのもあるが、糸があったからこそ勝利を手繰り寄せられた勝利と言えるな」

本人の口からそういう話を聞けば、再度嫉妬心が燃え上がるというもの。

「……スティーム。フローレンスは俺と戦いで光の精霊を呼んだんだ」

「ちゃんと覚えてるよ。それでアラッドもクロを呼んだんでしょ」

「うん、まぁ……そうだな」

お前は今回、相棒であるファルを呼ばなかっただろ、というアラッドのフォローは全くフォローになっていない。

(……駄目だ。気分が沈んでるって訳じゃないけど、あまりにも下に向き過ぎてる。これ以上あれこれ言ったところで、何かが変わる訳じゃないんだ)

少々愚痴を吐き過ぎたと思い、一つ深呼吸をし……気持ちを切り替える。

「ごめん、ちょっとナイーブになり過ぎてた。とにかくあれだね、これからもっともっと頑張って、強靭な体を持たないと駄目だってことだね」

「ま、まぁそういうことだな」

元々鍛えていなかったわけではないため、脱げばスティームは普通に細マッチョである。

(これ以上肉体をメインに鍛えると……細マッチョを越えてゴリマッチョにならないか?)

そこら辺は特にアラッドが心配するところではないのだが、それでもゴリマッチョになってしまったスティームを想像すると……どうもしっくりこない。

(鍛えてレベルを上げて身体能力、魔力総量を高める。それは大前提というか、それも真面目に行うんだけど……やっぱりアラッドやフローレンスさんみたいなスキルが欲しいね)

アラッドが変なイメージを浮かべてるのに対し、スティームは自身が手に入れた諸刃の剣を堅実な剣に変えるための手段、方法を考えていった。

「ねぇ、アラッド。アラッドは……クロがトロールに殺されかけた時に、強化を会得したんだよね」

「そうだな。こぅ……あれが目の前が真っ赤になるって感覚なんだろうな。そこから先、進化したクロが声をかけてくれるまで、殆ど意識がなかった」

「そっか…………」

「スティーム、もしかして狂化を会得しようと考えてるのか? 悪いことは言わないから、基本的に止めといた方が良いぞ」

自分のアイデンティティが奪われるから、といった焦りからくるアドバイスではない。

実際問題として、狂化は余程狂った人物でなければ、まず会得は不可能。
アラッドは通常のケースとは違い、元から狂っている……他人とは違った部分があったため、会得することが出来た。
習得の早さもそういった事情があったため、即座にある程度ものにすることが出来た。

「解ってるよ。狂化は出来ないというか、合わないというか……何か、違う気がするんだよね。でも、これから先……もっと強くなるなら、アラッドみたいな狂化。もしくはフローレンスさんみたいなセイクリッド・ヘラビルドだっけ? そういうスキルを習得しないと駄目だと思うんだ」

「……まぁ、間違ってはいないと言うか、一つの手段ではあるな」

「そうでしょ」

口にしたスティーム本人も解っている。

特別な強化スキルは基本的に狙って習得出来るものではない。

アラッドは強烈な憎しみ、怒りによって会得。
フローレンスさんは純粋な慈愛と己を力を疑わない自信、誰かを守ろうとする意志が要因となって会得。

全員が同じ道を辿ろうとしたからといって、基本的に会得出来るような代物ではない。
会得出来たとしても、コントロール、持続出来るかは本人の努力次第。

(普通に鍛えるだけじゃ駄目だよね。もっとこう……僕という存在を造り替えるつもりで挑戦しないと……そこに辿り着ける気がしない)

考え込みながら料理を口に入れる友の顔を見て、アラッドは再度確信を持ち、心の内を読んだ。

(ふふ。心配するな、スティーム。どう見てもお前は……こっち側の人間だ)


高級料理を食べ終えた二人は当然の様にバーへ向かい、再びスティームがアラッドを背負って宿へ戻ることになった。
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