上 下
480 / 984

四百八十話 そういう殺し方?

しおりを挟む
「ん~~~……まぁ、君たちなら大丈夫か?」

「何がだ? もしかしてあれか、そのトーナメント……実は年齢偽って参加する奴がいるのか?」

「そんな事は多分ないと思うよ。ただ、そのトーナメントは冒険者だけじゃなくて騎士も参加するんだ」

「騎士か……なるほどな。普通の冒険者たちからすれば、まず気に入らない相手だよな」

冒険者たち側の気持ちを堂々と代弁する貴族の令息。

そんな人物に対して、奇妙な何かを見る眼を向けるオルフェン。

「おいおい、なんだよその眼」

「いや、えっと…………君は貴族の令息、なんだよね?」

「あぁ、そうだぞ。一応侯爵家三男だ」

あまり貴族に対して興味がないオルフェンだが、爵位の序列ぐらいは把握してる。

「アラッドは珍しいタイプの貴族だから、あまり変に考えない方が良いと思うよ。考えるだけ時間の無駄だからね」

「はっはっは!!!! 確かにそうだな。ぶっちゃけ、同じ貴族の令息から見ても、信じられねぇって思う連中は多いだろうな。せっかく得た大金で屋敷の庭に孤児院を移すなんて、俺ぐらいしかやらないだろ」

「ッ!!!???」

全く聞いたことがなかった情報を耳にし、普段からあまり表情に変化がないオルフェンが……面白いほど目を見開き、驚き固まる。

二人は失礼だと思い、笑い出すのを必死で堪えた。

「えっ…………そ、そんな事、やってるの?」

「ま、まぁな。色々とやりたい事をやってたら金が貯まってな。その金を貯め続けとくのは勿体ないから……生きたいって意志が強い連中たちに、他の子供たちより行きたくてもその道が選べない奴らの為に、父さんから庭の面積分を支払って場所を移したんだよ」

「世の中、そういう所に目を付けてパーシブル侯爵やアラッドに嫌がらせしようって輩がいるもんね」

スティームの言葉通り、世の中にはそういった残念な輩が中々消えない。

「……なんか、凄いね」

孤児院出身のオルフェンにとって、アラッドは全てがとにかく凄いと感じた

本心は読めないが、その眼からは適当の娯楽、遊びでやってるようには思えない。
本気で、頑張りたくても頑張れる環境がない子供たちの為に動いているように思えた。

その日の夜、アラッドたちは三人で夕食を食べ、そのままバーへ直行。

「はは、意外と強いんだな。オルフェン」

「アラッド君こそ強いね。やっぱり貴族は皆強いの?」

「貴族が好んで吞む酒はワインだからな。皆は強くないと思うぜ。現に、スティームはリタイアしてるしな」

呑み始め、アラッドはあまり強くなさそうに思えたオルフェンに気を使い、アルコール度数が高くないカクテルを勧めていた。

しかし、一番最初に潰れたのはオルフェンではなく、スティームだった。

「あんまりお酒は好きじゃなかったけど、悪くないね」

「スティームは、騒いで飲むのがそこまで好きじゃないってだけなのかもな」

数時間程ゆったりとした会話を楽しんだ後、アラッドはスティームを担ぎながらオルフェンを宿まで見送り、自分たちの宿に帰宅。

翌日はスティームが二日酔いに若干苦しめられながらも、いつも通り一対三の稽古や改善点などの話し合いを行っていた。

「アラッド様ですね」

「ん?」

「少しお時間宜しいでしょうか」

酒場で夕食を食べ終えて出来たアラッドに声をかけてきたのは……一人の老人、一人の騎士らしき人物。

「……良いですよ。クロ、お前は先にスティームと一緒に帰ってろ」

「…………ワゥ!!!」

本当は主人に付いていたい。
しかし、直ぐに主人が万が一の……最悪の結果を予想しているのだと把握し、スティームと一緒に宿へ戻ることに同意。

「アラッド、日を跨ぐまでには帰ってきなよ」

「おぅ、解ってる」

完全にスティームたちと別れ、アラッドは一人となり……声をかけてきた二人組に付いて行く。

到着した場所は隠れ家的なバー。
そこの個室に入り、アラッドがカクテルを頼むか否かを考えている間に、老人が一つの木箱を取り出した。

「こちらを収めください」

蓋が開けられ、その中には……大量の白金貨がぎっちりと詰められていた。

冒険者ではなく、貴族であってもその金額に余裕で目が眩む。
アラッドもほんの少しだけ驚きはしたが、次のアクションは……言われた通りぎっしりと白金貨が詰まった木箱を受け取るのではなく、大爆笑。

「だっはっはっはっはっはっは!!!!!!!」

「「ッ!!??」」

完全防音機能が付与されている為、アラッドの爆笑が外に零れることはない。

ただ、老人と騎士からすれば何事なのだと、構えずにはいられない。

「はー、はー、はー…………なんだよあんたら、そうやって俺を笑い殺す算段だったのか?」

断じてそんな訳はない。
大量の白金貨を渡すのは、人前では言えない頼みを聞いてもらう為。

彼らはアラッドを笑い殺そうとする暗殺者たちではない。

アラッドもそれは理解している。
理解しているのだが……思わずそんなあり得ない可能性が頭に浮かんでしまい、爆笑を堪え切れなかった。

「あんたらな……俺を金でどうにか出来るって、本当に思ってるのか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...