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四百七十五話 無理に抑えるのはNG

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『け、決着ッ!!!!!! 遂に、遂に激闘を制したのは……アラッドだあああああああああ!!!!!!』

風火を纏った剛剣を完全に受け止めた直後、鳩尾に蹴りを食らい、ほんの一瞬ではあるが動きが停止。
その隙に拳で顎を刈られ、オルフェンの意識は完全に落ちた。

アラッドは医療班にオルフェンを預け、ゆっくりとリングから降りた。

「お疲れ様、アラッド」

「おぅ……しっかし、まさか獣心を持ってて、更に解放出来るとはな」

糸、攻撃魔法、狂化を使わないという縛りの上で戦ったこともあり、アラッドはそれなりに消耗していた。

「彼が獣心を解放出来ると解ってて、全てを出し切る様に仕向けたんじゃなかったのかい?」

「何かしらの力を隠してるように感じただけだ。それが獣心の解放とは予想してなかった」

狂化を覚えたばかりの自分にどこか似ていた。
そんな過去の経験があったからこそ、アラッドはオルフェンが何か力を隠してると見抜いた。

「でも、彼は獣人族じゃない……よね?」

「そうだな。見た目には完全に現れてなかった。でもあれは完全に獣心を解放した状態だ」

「僕もそうだと思うけど、随分と言い切るんだな」

「俺の友人……いや、家族か。身内にそれを使える奴がいるからな」

幸運なことに、アラッドが幼い頃にオークションで落札した虎人族の兄妹のガルシアとレオナは、共に獣心の解放を行える。

それを使用した際の戦いっぷりも観た頃がある為、アラッドはオルフェンが隠していた手札は、自信を持って獣心の解放だと断言出来る。

「それは何と言うか、本当に色々と凄いね。けど……やっぱりそれでも、彼は獣人族ではないんだよね」

「だな。でも、何分の一かは知らないけど、血は入ってるんだろ」

「……それだと、逆になるほどとはならないんだけど」

体内にある血が、遺伝子に何分の一か、獣人のものが入っている。
その可能性があると聞かされても……まだスティームは納得出来ない。

「だろうな。けどな、世の中には隔世遺伝ってのがあるんだ?」

「か、覚醒?」

「多分頭に浮かんでる字が違うと思う」

それはそれでカッコイイと思いながらも訂正する。

「えっとな、祖父母の血とか見た目が親の代をすっ飛ばして、孫に現れることがあるんだ」

「…………なるほど。確かに、そういう事は偶に……本当に偶にだけどあるね」

過去の記憶を掘り返し、それらしき話や実際の光景が頭の中に浮かび、ようやく表情に納得の色が浮かぶ。

「もう見た目には完全に現れなくなってるみたいだが、それでも獣の心である獣心だけはキッチリ引き継がれてた……ってところだと、俺は推測してる」

「推測、ねぇ……けど、確信に近いんでしょ」

「一応な。今回の一件で、解放の仕方に慣れてくれたら良いんだけどな」

狂化と獣心の解放は、使用する当初は……どちらも力を持て余すという部分が非常に似ている。
その際、なんとか自身の狂気に飲まれない様に、獣の心を暴走させないようにしようと考えながら発動するのは……実はNGに近い。

世の中にはそんなNG行動をしながらも制御してしまう化け物がいるが、基本的にはよろしくない。
この制御に関しては、アラッドも化け物側ではなかった。

「……なんというか、アラッドって結構お節介好きだよね」

「そうか? 別にそんなことは……ないと思うぞ、多分」

「とりあえず好きじゃないフローレンス・カルロストが相手でも、自分が彼女のどこが良くないかを伝えたんでしょ。そういうところを考えれば、十分お節介好きだと思うけどね」

もっともな例えを言われてしまい、完全に言い訳出来ない状況に追い込まれた。

「まっ、アラッドは見た目以上に歳を取ってる部分があるから、そういう親切心は人一倍強いのかもね」

「あぁ~~~……そうかもしれないな」

「そこは否定しないんだね」

前世の年齢に今世の年齢が殆ど追い付いたとはいえ、まだまだ物事を俯瞰して視る余裕はある。
更に言えば、実力に関しても余裕があるので、まだまだアドバイスなどをする心のゆとりがあった。

「何にしても、お客さんは随分盛り上がってたよ」

「そりゃ良かった」

「けどさ、五人目の挑戦者は……報告しなくても良いのかい?」

「事前に強化ポーションを使ってた奴か。俺としては、あれはあれでどうしても……何が何でも俺に勝ちたいって執念の一部だって捉えてる」

ちょっと良いこと言ってる風な感じではあるが、結局のところ実力に余裕があるからこその言葉である。

「ヤバい系のクスリを使ってるなら、ちょっとそれは違うだろってなるけどな」

「お祭りだから許せる部分があるってことだね」

「そういう事だ。まっ、戦いを観ていたギルドの職員からは厳重注意されてるかもだけどな」

アラッドの言葉通り、もう十回戦全てが終わったこともあり、観戦の邪魔をすることなく説教が出来る。
五人目の挑戦者はダッシュで逃げようとしたが、職員の両脇には彼にとって先輩にあたる人物がおり、速攻で捕獲され、長い長い説教タイムが始まった。
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