473 / 1,043
四百七十三話 完全な上位互換
しおりを挟む
「よろしくお願いします」
「おぅ、よろしく」
今までの挑戦者たちとは違い、丁寧に挨拶をする挑戦者に少々驚きながらも応える。
(……この感じ、スティームに似ているか)
鑑定で中身は覗いていない。
しかし……これまで戦ってきた九人とは違う何かを感じる。
「アラッド、オルフェン。解っているとは思うが、クリーンな戦いを心掛けるように」
「はい」
「分かってます」
両者とも審判の言葉に答えるが、アラッドはおそらく言われた通りにはならないだろうと思っていた。
(前の九人みたいに、俺に対して殺気に近い感情はない……いや、心の奥底に秘めているだけか?)
いくら年齢不相応な実力を有しているアラッドであっても、読心術までは出来ない。
「それでは……始めぇええええええええッ!!!!!」
審判は十回戦の中で、一番気合の入った声で試合開始を宣言。
審判だけではなく観客、実況も非常に熱が入っている。
何故なら……アラッドに挑む挑戦者たちの中で、一番オルフェンが怪物に勝てる相手だと予想されている。
しかし、そんなジャイアントキリングを期待されているオルフェンは、試合開始直後に抜剣はするものの、今までの挑戦者の様に勢い良く駆け出すことはなかった。
これまでの試合は全て観ており、歳が近い者たちがどの様に転がされ、あしらわれたのか観てきた。
(……今更怯んだところで、仕方ないよね)
とはいえ、折角このような舞台で絶対強者である怪物と戦える機会を得た。
その好機を噛みしめ……オルフェンは初っ端から覚悟を決めて斬りかかった。
(対人の剣技であるものの……やけに死角を突いたり、体勢を崩そうとするテクニックが高いな)
相変わらず素手で戦うアラッドだが、その表情には……十連戦の中で、初めて感心の色が浮かんでいた。
これまで挑んできた挑戦者たちも頭が冷えていれば実行出来たかもしれないが、そもそも最初から頭がクールに働いている時点で、十人目の挑戦者であるオルフェンの評価は爆上がり中。
(暗殺とかが得意ならもっと違う動きになるんだが、どう見ても対面した相手の体勢を崩したりする技術が高い……もしかして、独学で戦い方を学んだタイプか?)
見た目は顔こそ悪くないのだが、黒髪は中途半端に伸びているボサボサヘアー。
師と呼べる人物がいれば、基本的に少しだけ身だしなみに注意しろと伝える。
だが、お世辞にもオルフェンは身だしなみに気を使っている様には見えない。
「その動き、どこで学んだ?」
「……実戦で、学んだんだよ」
対戦相手の問いに、静かに答える。
オルフェンは何かを隠すために適当に答えたのではなく、口にした言葉は紛れもない事実。
「そうか。良い動きだな」
「ッ!?」
今まであまり他人に褒められたことがなかった動き。
それを……貴族の令息が、正真正銘の強者が褒めてくれた。
その事実に、オルフェンの瞳は確かに揺れた。
「気に入った。剣を交えようか」
言葉通り、本当にオルフェン強さや動きを認めたアラッドは亜空間から愛剣、鋼鉄の剛剣・改を取り出し、抜剣。
『つ、ついに!! ついにアラッドがロングソードを抜剣んんんんんんッ!!!!!!!!』
戦いに詳しくない者たちであっても、これまでの戦いを観ていれば……それが何を意味するのか解る。
アラッドという絶対強者が、オルフェンという挑戦者の実力を認めた。
それを理解した観客たちのテンションは……文字通り大爆発。
対して、これまでアラッドに挑んで一度も抜剣させられなかった九人は、揃って苛立ちの表情を浮かべる。
攻撃方法が素手からロングソードに変わったことで、アラッドのリーチは大きく変化。
開始数十秒ほどはその変化に戸惑うものだが……オルフェンは自身の動きを褒められたことに驚きはしたものの、ロングソードを使い始めて変化した動くに戸惑うことはなかった。
(相手の体勢を崩す、死角を狙う技術に注目しがちだが、身体能力……腕力も中々あるな)
年齢はアラッドより少し上であり、スティームと殆ど変わらない。
年齢と実力を考えれば、十分将来有望な冒険者。
他の挑戦者たちも将来有望と言える若手たちではあるが、そんな中でもオルフェンは頭一つか二つ抜けていた。
(同年代との戦闘が楽しいと感じるのは、ここ最近ではスティームぐらいだったが、やっぱり世の中広いってことだな)
襲い来る斬撃などの攻撃に対してただ反応するのではなく、徐々に襲い来る攻撃に対しての予測が必要になってくる。
糸や攻撃魔法、狂化を使えばまた話は変わるが、アラッドはオルフェンをスティームと同じく、油断すれば恐ろしい存在だと認識。
「クソ、あの野郎……やっぱり、俺より火の扱いが上手ぇ」
オルフェンは途中からロングソードに火を纏い、攻撃力を強化。
ときおり良いタイミングで斬撃刃を放ち、纏う火の形を変えて牽制。
完全に茶髪青年の上位互換。
アラッドも鋼鉄の剛剣・改に風を纏って対抗。
「ッ!!!???」
そして激戦が加速してから数分後、斬撃を受け止めるという選択肢を取らされ、リングの端ギリギリまで飛ばされたオルフェン。
まだ余力はあるものの……そこでオルフェンの眼から闘志が消えた。
「おぅ、よろしく」
今までの挑戦者たちとは違い、丁寧に挨拶をする挑戦者に少々驚きながらも応える。
(……この感じ、スティームに似ているか)
鑑定で中身は覗いていない。
しかし……これまで戦ってきた九人とは違う何かを感じる。
「アラッド、オルフェン。解っているとは思うが、クリーンな戦いを心掛けるように」
「はい」
「分かってます」
両者とも審判の言葉に答えるが、アラッドはおそらく言われた通りにはならないだろうと思っていた。
(前の九人みたいに、俺に対して殺気に近い感情はない……いや、心の奥底に秘めているだけか?)
いくら年齢不相応な実力を有しているアラッドであっても、読心術までは出来ない。
「それでは……始めぇええええええええッ!!!!!」
審判は十回戦の中で、一番気合の入った声で試合開始を宣言。
審判だけではなく観客、実況も非常に熱が入っている。
何故なら……アラッドに挑む挑戦者たちの中で、一番オルフェンが怪物に勝てる相手だと予想されている。
しかし、そんなジャイアントキリングを期待されているオルフェンは、試合開始直後に抜剣はするものの、今までの挑戦者の様に勢い良く駆け出すことはなかった。
これまでの試合は全て観ており、歳が近い者たちがどの様に転がされ、あしらわれたのか観てきた。
(……今更怯んだところで、仕方ないよね)
とはいえ、折角このような舞台で絶対強者である怪物と戦える機会を得た。
その好機を噛みしめ……オルフェンは初っ端から覚悟を決めて斬りかかった。
(対人の剣技であるものの……やけに死角を突いたり、体勢を崩そうとするテクニックが高いな)
相変わらず素手で戦うアラッドだが、その表情には……十連戦の中で、初めて感心の色が浮かんでいた。
これまで挑んできた挑戦者たちも頭が冷えていれば実行出来たかもしれないが、そもそも最初から頭がクールに働いている時点で、十人目の挑戦者であるオルフェンの評価は爆上がり中。
(暗殺とかが得意ならもっと違う動きになるんだが、どう見ても対面した相手の体勢を崩したりする技術が高い……もしかして、独学で戦い方を学んだタイプか?)
見た目は顔こそ悪くないのだが、黒髪は中途半端に伸びているボサボサヘアー。
師と呼べる人物がいれば、基本的に少しだけ身だしなみに注意しろと伝える。
だが、お世辞にもオルフェンは身だしなみに気を使っている様には見えない。
「その動き、どこで学んだ?」
「……実戦で、学んだんだよ」
対戦相手の問いに、静かに答える。
オルフェンは何かを隠すために適当に答えたのではなく、口にした言葉は紛れもない事実。
「そうか。良い動きだな」
「ッ!?」
今まであまり他人に褒められたことがなかった動き。
それを……貴族の令息が、正真正銘の強者が褒めてくれた。
その事実に、オルフェンの瞳は確かに揺れた。
「気に入った。剣を交えようか」
言葉通り、本当にオルフェン強さや動きを認めたアラッドは亜空間から愛剣、鋼鉄の剛剣・改を取り出し、抜剣。
『つ、ついに!! ついにアラッドがロングソードを抜剣んんんんんんッ!!!!!!!!』
戦いに詳しくない者たちであっても、これまでの戦いを観ていれば……それが何を意味するのか解る。
アラッドという絶対強者が、オルフェンという挑戦者の実力を認めた。
それを理解した観客たちのテンションは……文字通り大爆発。
対して、これまでアラッドに挑んで一度も抜剣させられなかった九人は、揃って苛立ちの表情を浮かべる。
攻撃方法が素手からロングソードに変わったことで、アラッドのリーチは大きく変化。
開始数十秒ほどはその変化に戸惑うものだが……オルフェンは自身の動きを褒められたことに驚きはしたものの、ロングソードを使い始めて変化した動くに戸惑うことはなかった。
(相手の体勢を崩す、死角を狙う技術に注目しがちだが、身体能力……腕力も中々あるな)
年齢はアラッドより少し上であり、スティームと殆ど変わらない。
年齢と実力を考えれば、十分将来有望な冒険者。
他の挑戦者たちも将来有望と言える若手たちではあるが、そんな中でもオルフェンは頭一つか二つ抜けていた。
(同年代との戦闘が楽しいと感じるのは、ここ最近ではスティームぐらいだったが、やっぱり世の中広いってことだな)
襲い来る斬撃などの攻撃に対してただ反応するのではなく、徐々に襲い来る攻撃に対しての予測が必要になってくる。
糸や攻撃魔法、狂化を使えばまた話は変わるが、アラッドはオルフェンをスティームと同じく、油断すれば恐ろしい存在だと認識。
「クソ、あの野郎……やっぱり、俺より火の扱いが上手ぇ」
オルフェンは途中からロングソードに火を纏い、攻撃力を強化。
ときおり良いタイミングで斬撃刃を放ち、纏う火の形を変えて牽制。
完全に茶髪青年の上位互換。
アラッドも鋼鉄の剛剣・改に風を纏って対抗。
「ッ!!!???」
そして激戦が加速してから数分後、斬撃を受け止めるという選択肢を取らされ、リングの端ギリギリまで飛ばされたオルフェン。
まだ余力はあるものの……そこでオルフェンの眼から闘志が消えた。
179
お気に入りに追加
6,128
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
逆行転生って胎児から!?
章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。
そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。
そう、胎児にまで。
別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。
長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる