472 / 1,044
四百七十二話 また今度な
しおりを挟む
「てめぇは、全力で叩き潰す」
「そうか……やってみろよ」
アラッドは敢えて事前に強化ポーションを飲んだ五人目の挑戦者……先日絡んで来た五人の内の一人であり、一番実力が高い挑戦者を軽く煽った。
(グレー行為を行ったとしても……いや、試合前に強化ポーションを飲むのは、普通にブラックでアウトなのか?)
基本的にアウトである。
五人目の挑戦者である赤髪ボサボサ青年も、そんな事は解っていた。
しかし、常識を上回るアラッドに対する怒りが……事前に用意していた強化ポーションを服用する要因となった。
「ッ……殺す!!!」
「はは! 全員思いっきり口にし過ぎだっつーの」
試合開始前に、そういった考えを持って行動してはならず、命を奪う攻撃を放った場合……反則負けになることも説明されている。
とはいえ、今回の特別イベントでの試合に限っては、一応説明されているだけであった。
「ったく…………すぅーーー、始めぇええええッ!!!!」
赤髪ボサボサ少年は大戦斧の重さに脚を取られることはなく、重戦士とは思えない速度で斬りかかる。
(良いね、強化ポーションを使っただけあって、悪くないスピードだ)
先程までの戦闘時よりもスピードを上げて対処。
それでも素手で防御し、攻撃するという戦闘スタイルは変わらない。
「ッ!!! いつまで素手だけで戦ってるつもりだっ!!!! さっさとてめぇの得物を抜きやがれ!!!!!」
一回戦目から四回戦目まで、アラッドは一度も素手以外の武器を使うことはなかった。
観客たちからすれば、このまま素手で戦い続けると思う。
実況も……審判も、アラッドは十連戦の間に得物を抜くことはないと思っていた。
それは挑戦者たちも薄々気付いていたが……一人の戦闘者として、ぶち殺したいほどの怒りを持つ標的が、得物を抜かずに自分を倒そうとしている。
この状況に対して……更なる怒りを抱くなと言う方が無理な話。
「……あんまり、こういうことを言う、キャラじゃないんだが……敢えて言おうか。抜かせてみろよ」
「上等だぁぁァアアアアアアアアッ!!!!!」
大戦斧に旋風が纏われ、余波で頑丈なリングが少々削られる。
強化ポーションを飲んだことで、魔力の質も僅かに向上している。
(そこそこ怒りに捉われてはいるが、技術的な部分が完全に消えた訳じゃない。寧ろ、自身の身体能力がどれだけ向上したのか完全に把握し、解ったうえで少し無茶な動きをしてそうだな……はっはっは! 本当に俺を殺す気満々だったってことだな)
その意志は現在進行中で燃え滾っている。
何が何でも自慢の大戦斧で標的を真っ二つにする。
大き過ぎる殺意に……審判は僅かに本能が反応した。
もう止めるべきだと、審判としての本能が叫ぶ。
しかし、既に目の前の現状を理解している理性が本能を抑えた。
現実として……アウト行為であるポーションによる強化を行った状態でリングに上がった赤髪ボサボサ青年を、アラッドは今まで通り……全て素手で対応している。
(おそらく強化系のスキルは使っているだろう。魔力も纏っている……だが、だからといってここまで完封するか……)
これまでの試合を……これからの試合を間近で観れたことに、審判の男性は大半の運を使い果たしてしまったと思った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「息が上がってるな。ブーストは切れてきたか?」
「だま、れ……まだ、こっからに、決まってんだろっ!!!!!」
「そうか。でも、それはまた今度な」
「なっ、ッ!!??」
大戦斧が振り下ろされるよりも速く懐に潜り、左手で持ち手を掴んで強制急ブレーキ。
次の瞬間、赤髪ボサボサ青年が反応するよりも先に……アラッドの指が顎を撫でた。
顎の骨などは折れていないが、頭が意思とは無関係の方向に動かされ、脳が激しく揺れた。
(んだよ、これ)
知っている。
赤髪ボサボサ青年はこの感覚を知っていた。
視界が過ごし揺れるが、それでも見えない事はない。
しかし……次に繰り出されるアラッドの攻撃を防ごうにも……体が言うことを聞かない。
「っと、これで終わりだな」
これまでと同じく、寸止めの正拳が突き出され、その風圧によって後方に倒れ……背中が地面に付く。
(ざっけんな!!! ふざ、けんなよおおおお!!! まだこれからだって、つってんだろ!!!!)
心の中で激しく吼えるものの、まだ脳が激しく揺れた影響は消えておらず、体が思った通りに動かない。
「そこまで!! 勝者、アラッド!!!!」
「ッ!!!!」
ふざけんなと、審判に対して叫ぼうとした。
だが……目の前に突き出されたのは、先程まで手にしていた筈の大戦斧。
「ほら、返すぞ」
「~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!! クソ、が」
試合後の握手もなく、赤髪ボサボサ青年は最後の最後まで恨みに近い殺意を持ち続けた。
そのことに関して……アラッドは最後まで言及することはなく、涼しい顔で受け流した。
そして五試合目が終わり、十連戦も折り返し地点に到着。
一応アラッドが望めば休憩タイムに入るのだが……全く疲れていないため、休憩を挟むことなく六戦目を開始。
当然の様に勝利し、七戦目に八戦目、九戦目も結局得物を抜かずに勝利を収めた。
「そうか……やってみろよ」
アラッドは敢えて事前に強化ポーションを飲んだ五人目の挑戦者……先日絡んで来た五人の内の一人であり、一番実力が高い挑戦者を軽く煽った。
(グレー行為を行ったとしても……いや、試合前に強化ポーションを飲むのは、普通にブラックでアウトなのか?)
基本的にアウトである。
五人目の挑戦者である赤髪ボサボサ青年も、そんな事は解っていた。
しかし、常識を上回るアラッドに対する怒りが……事前に用意していた強化ポーションを服用する要因となった。
「ッ……殺す!!!」
「はは! 全員思いっきり口にし過ぎだっつーの」
試合開始前に、そういった考えを持って行動してはならず、命を奪う攻撃を放った場合……反則負けになることも説明されている。
とはいえ、今回の特別イベントでの試合に限っては、一応説明されているだけであった。
「ったく…………すぅーーー、始めぇええええッ!!!!」
赤髪ボサボサ少年は大戦斧の重さに脚を取られることはなく、重戦士とは思えない速度で斬りかかる。
(良いね、強化ポーションを使っただけあって、悪くないスピードだ)
先程までの戦闘時よりもスピードを上げて対処。
それでも素手で防御し、攻撃するという戦闘スタイルは変わらない。
「ッ!!! いつまで素手だけで戦ってるつもりだっ!!!! さっさとてめぇの得物を抜きやがれ!!!!!」
一回戦目から四回戦目まで、アラッドは一度も素手以外の武器を使うことはなかった。
観客たちからすれば、このまま素手で戦い続けると思う。
実況も……審判も、アラッドは十連戦の間に得物を抜くことはないと思っていた。
それは挑戦者たちも薄々気付いていたが……一人の戦闘者として、ぶち殺したいほどの怒りを持つ標的が、得物を抜かずに自分を倒そうとしている。
この状況に対して……更なる怒りを抱くなと言う方が無理な話。
「……あんまり、こういうことを言う、キャラじゃないんだが……敢えて言おうか。抜かせてみろよ」
「上等だぁぁァアアアアアアアアッ!!!!!」
大戦斧に旋風が纏われ、余波で頑丈なリングが少々削られる。
強化ポーションを飲んだことで、魔力の質も僅かに向上している。
(そこそこ怒りに捉われてはいるが、技術的な部分が完全に消えた訳じゃない。寧ろ、自身の身体能力がどれだけ向上したのか完全に把握し、解ったうえで少し無茶な動きをしてそうだな……はっはっは! 本当に俺を殺す気満々だったってことだな)
その意志は現在進行中で燃え滾っている。
何が何でも自慢の大戦斧で標的を真っ二つにする。
大き過ぎる殺意に……審判は僅かに本能が反応した。
もう止めるべきだと、審判としての本能が叫ぶ。
しかし、既に目の前の現状を理解している理性が本能を抑えた。
現実として……アウト行為であるポーションによる強化を行った状態でリングに上がった赤髪ボサボサ青年を、アラッドは今まで通り……全て素手で対応している。
(おそらく強化系のスキルは使っているだろう。魔力も纏っている……だが、だからといってここまで完封するか……)
これまでの試合を……これからの試合を間近で観れたことに、審判の男性は大半の運を使い果たしてしまったと思った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「息が上がってるな。ブーストは切れてきたか?」
「だま、れ……まだ、こっからに、決まってんだろっ!!!!!」
「そうか。でも、それはまた今度な」
「なっ、ッ!!??」
大戦斧が振り下ろされるよりも速く懐に潜り、左手で持ち手を掴んで強制急ブレーキ。
次の瞬間、赤髪ボサボサ青年が反応するよりも先に……アラッドの指が顎を撫でた。
顎の骨などは折れていないが、頭が意思とは無関係の方向に動かされ、脳が激しく揺れた。
(んだよ、これ)
知っている。
赤髪ボサボサ青年はこの感覚を知っていた。
視界が過ごし揺れるが、それでも見えない事はない。
しかし……次に繰り出されるアラッドの攻撃を防ごうにも……体が言うことを聞かない。
「っと、これで終わりだな」
これまでと同じく、寸止めの正拳が突き出され、その風圧によって後方に倒れ……背中が地面に付く。
(ざっけんな!!! ふざ、けんなよおおおお!!! まだこれからだって、つってんだろ!!!!)
心の中で激しく吼えるものの、まだ脳が激しく揺れた影響は消えておらず、体が思った通りに動かない。
「そこまで!! 勝者、アラッド!!!!」
「ッ!!!!」
ふざけんなと、審判に対して叫ぼうとした。
だが……目の前に突き出されたのは、先程まで手にしていた筈の大戦斧。
「ほら、返すぞ」
「~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!! クソ、が」
試合後の握手もなく、赤髪ボサボサ青年は最後の最後まで恨みに近い殺意を持ち続けた。
そのことに関して……アラッドは最後まで言及することはなく、涼しい顔で受け流した。
そして五試合目が終わり、十連戦も折り返し地点に到着。
一応アラッドが望めば休憩タイムに入るのだが……全く疲れていないため、休憩を挟むことなく六戦目を開始。
当然の様に勝利し、七戦目に八戦目、九戦目も結局得物を抜かずに勝利を収めた。
179
お気に入りに追加
6,129
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる