スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
468 / 1,043

四百六十八話 揺れに気付かない

しおりを挟む
「アラッド、準備はバッチリかい?」

「あぁ、問題無い。今すぐ戦っても良いぐらいだ」

コロシアムでのイベント当日、アラッドは快眠から覚め、朝食を食べ終えてから数時間……一応、森の外で軽く体を動かし続けていた。

自身が同世代の中でも桁外れに強いことは、もう十分自覚している。
しかし、世の中は広い。
貴族界隈を少しでも知ろうとしなければ、レイやフローレンスといったずば抜けた強者と出会うことはなかった。

それらの経験から、冒険者の中にもそういった存在がいてもおかしくない。
実に冷静的な判断を持ちながら、万が一にも後れを取らないようするため、ウォームアップは十分に行う。

「スティーム……俺の全勝にしっかり賭けといてくれよ」

「勿論、がっつり賭けさせてもらうよ」

コロシアムのイベントらしく、賭けが行われる。
普段のイベントとは形が違う為、今回はアラッドという名の冒険者が、チャレンジャーたちを相手に、何連勝出来るかというのが基準。

当然のごとく、スティームが賭けるのは全勝。
これから挑む同業者たちには申し訳ないという気持ちはある。
それでも……連戦とはいえ、友人が……仲間が負ける光景が、一切イメージ出来ない。

そしてイベントが行われるコロシアムに到着するまで、アラッドは通行人たちから応援の言葉を何度もかけられた。

「頑張れよ、兄ちゃん!」

「全勝、期待してるぜ!!!」

歓迎している者たちが多い状況に少し戸惑うも、手を振って彼らの声援に応える。

挑戦者たちの態度が悪いことによる相対効果……と言う訳ではなく、ここ数日でアラッドがどういった人間なのか、ある程度住民たちに伝わりつつある。

貴族の令息である割には気さくな態度であり、金払いも良い。
絡んで来たまだ幼い子供たちには、しっかりとお兄さんらしい対応をする。
今回の形式からして一人でチャレンジャーたちを相手にすることもあり、住民たちは比較的アラッドを応援する者が多い。

「アラッドさんですね。控室へご案内します」

「うっす。それじゃ、スティーム。クロを頼んだ」

「任せてくれ」

スティームたちはコロシアムの特別室に案内され、そこではクロやファルたちも体を縮こませることなく、のびのびと観戦出来る。

(……特に、誰かが何を仕掛けてるって訳じゃなさそうだな)

貴族出身であるため、自然とこの密室で自分を襲ってくる者が何処かに潜んでいるのではないかと疑うも、控室にはアラッド以外誰もいない。
ちなみに、霧状の毒を噴出するマジックアイテムなども設置されていない。

時間になるまで座禅を組みながら過ごしていると、コロシアムの従業員がそろそろ試合が始まると告げに来た。

「分かりました、今行きます」

入り口まで案内されたが、勝手に入場してはならない。

今回の連続タイマン勝負は、一種のショーイベント。
観客たちのテンションを上げる為、今は一番初めの挑戦者を司会者が盛り上げながら解説。

「…………アラッドさん、入場をお願いします」

「了解」

事前に言われた通り、ゆったりとした足取りでリングに上がる。

『来た来た来た来た来た来たーーーーーーーーーーーーッ!!!!!! 貴族界隈で強い強い怪物の卵がいると言われ続け、十年が過ぎた!!! その怪物は騎士の爵位を取る……それだけの為に学園に入学!!!!!』

間違ってはいないが、中々ヘイトが集まる説明。
しかし、司会者の言葉はまだ終わらない。

『そしてなんとなんとなんとっ!!!!! 入学してから三か月で、マジで有言実行を果たした!!!!! 同級生、上級生たちを蹴散らし、一気に決勝戦へ進出!!!!! そしてぇええええ、決勝戦では前大会の覇者であろう女王、フローレンス・カルロストと激闘を繰り広げ……見事死闘を制したぁぁああああああああああッ!!!!!!!!』

司会者のテンションに同調するかのごとく、観客たちのテンションも爆上がり。

そして、まだまだアラッドの紹介はまだまだ続く。

『そしてそしてぇええええ!!!! 見事騎士の爵位を獲得し……ようやく冒険者としての人生をスタートッ!!!!!! そこからベテラン、強豪たちもビックリの速さでBランクモンスターを討伐!!! しかも一体だけじゃなく複数体だ!! もうこの時点でやべぇえええええええええッ!!!!!!!!』

説明だけ聞くと、飲み物を吹き出して椅子からひっくり落ちるのも無理はない。

『しかもしかもしかもだッ!!! それが前哨戦だったか、半年も経たねぇうちに超強敵と激突ぅうううう!!!!! 今度はなんとなんとんなぁあああああんと!!! Aランクモンスターにソロで挑みやがったあああああああああああッ!!!!!!』

本当なのか? と疑うよりも先にボルテージが上がる。
あまりの騒ぎ様に耳がやられそうに感じ、耳を塞ぎたくなる。

『そしてぇぇ…………そんな化け物を、本当に一人で倒しちまいやがったぁあああああああ!!!! 今日このリングに立つのは、そんな最高過ぎるイカれたビックバンルーキーだああああああっ!!!!!!!!!!!』

クライマックスのタイミング……コロシアムが僅かに揺れるほど観客たちは良い意味で騒ぐ。
しかし、騒いでいる本人たちがその揺れに気付くことは一切なかった。   
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...