スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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四百六十八話 揺れに気付かない

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「アラッド、準備はバッチリかい?」

「あぁ、問題無い。今すぐ戦っても良いぐらいだ」

コロシアムでのイベント当日、アラッドは快眠から覚め、朝食を食べ終えてから数時間……一応、森の外で軽く体を動かし続けていた。

自身が同世代の中でも桁外れに強いことは、もう十分自覚している。
しかし、世の中は広い。
貴族界隈を少しでも知ろうとしなければ、レイやフローレンスといったずば抜けた強者と出会うことはなかった。

それらの経験から、冒険者の中にもそういった存在がいてもおかしくない。
実に冷静的な判断を持ちながら、万が一にも後れを取らないようするため、ウォームアップは十分に行う。

「スティーム……俺の全勝にしっかり賭けといてくれよ」

「勿論、がっつり賭けさせてもらうよ」

コロシアムのイベントらしく、賭けが行われる。
普段のイベントとは形が違う為、今回はアラッドという名の冒険者が、チャレンジャーたちを相手に、何連勝出来るかというのが基準。

当然のごとく、スティームが賭けるのは全勝。
これから挑む同業者たちには申し訳ないという気持ちはある。
それでも……連戦とはいえ、友人が……仲間が負ける光景が、一切イメージ出来ない。

そしてイベントが行われるコロシアムに到着するまで、アラッドは通行人たちから応援の言葉を何度もかけられた。

「頑張れよ、兄ちゃん!」

「全勝、期待してるぜ!!!」

歓迎している者たちが多い状況に少し戸惑うも、手を振って彼らの声援に応える。

挑戦者たちの態度が悪いことによる相対効果……と言う訳ではなく、ここ数日でアラッドがどういった人間なのか、ある程度住民たちに伝わりつつある。

貴族の令息である割には気さくな態度であり、金払いも良い。
絡んで来たまだ幼い子供たちには、しっかりとお兄さんらしい対応をする。
今回の形式からして一人でチャレンジャーたちを相手にすることもあり、住民たちは比較的アラッドを応援する者が多い。

「アラッドさんですね。控室へご案内します」

「うっす。それじゃ、スティーム。クロを頼んだ」

「任せてくれ」

スティームたちはコロシアムの特別室に案内され、そこではクロやファルたちも体を縮こませることなく、のびのびと観戦出来る。

(……特に、誰かが何を仕掛けてるって訳じゃなさそうだな)

貴族出身であるため、自然とこの密室で自分を襲ってくる者が何処かに潜んでいるのではないかと疑うも、控室にはアラッド以外誰もいない。
ちなみに、霧状の毒を噴出するマジックアイテムなども設置されていない。

時間になるまで座禅を組みながら過ごしていると、コロシアムの従業員がそろそろ試合が始まると告げに来た。

「分かりました、今行きます」

入り口まで案内されたが、勝手に入場してはならない。

今回の連続タイマン勝負は、一種のショーイベント。
観客たちのテンションを上げる為、今は一番初めの挑戦者を司会者が盛り上げながら解説。

「…………アラッドさん、入場をお願いします」

「了解」

事前に言われた通り、ゆったりとした足取りでリングに上がる。

『来た来た来た来た来た来たーーーーーーーーーーーーッ!!!!!! 貴族界隈で強い強い怪物の卵がいると言われ続け、十年が過ぎた!!! その怪物は騎士の爵位を取る……それだけの為に学園に入学!!!!!』

間違ってはいないが、中々ヘイトが集まる説明。
しかし、司会者の言葉はまだ終わらない。

『そしてなんとなんとなんとっ!!!!! 入学してから三か月で、マジで有言実行を果たした!!!!! 同級生、上級生たちを蹴散らし、一気に決勝戦へ進出!!!!! そしてぇええええ、決勝戦では前大会の覇者であろう女王、フローレンス・カルロストと激闘を繰り広げ……見事死闘を制したぁぁああああああああああッ!!!!!!!!』

司会者のテンションに同調するかのごとく、観客たちのテンションも爆上がり。

そして、まだまだアラッドの紹介はまだまだ続く。

『そしてそしてぇええええ!!!! 見事騎士の爵位を獲得し……ようやく冒険者としての人生をスタートッ!!!!!! そこからベテラン、強豪たちもビックリの速さでBランクモンスターを討伐!!! しかも一体だけじゃなく複数体だ!! もうこの時点でやべぇえええええええええッ!!!!!!!!』

説明だけ聞くと、飲み物を吹き出して椅子からひっくり落ちるのも無理はない。

『しかもしかもしかもだッ!!! それが前哨戦だったか、半年も経たねぇうちに超強敵と激突ぅうううう!!!!! 今度はなんとなんとんなぁあああああんと!!! Aランクモンスターにソロで挑みやがったあああああああああああッ!!!!!!』

本当なのか? と疑うよりも先にボルテージが上がる。
あまりの騒ぎ様に耳がやられそうに感じ、耳を塞ぎたくなる。

『そしてぇぇ…………そんな化け物を、本当に一人で倒しちまいやがったぁあああああああ!!!! 今日このリングに立つのは、そんな最高過ぎるイカれたビックバンルーキーだああああああっ!!!!!!!!!!!』

クライマックスのタイミング……コロシアムが僅かに揺れるほど観客たちは良い意味で騒ぐ。
しかし、騒いでいる本人たちがその揺れに気付くことは一切なかった。   
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