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四百五十四話 本人が認めてしまっている

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「あの、今アラッドはその……どうなってますか!!!」

何を言いたいのかをよく解らない質問をギーラスに尋ねるレイたち。

しかし、ギーラスは彼女たちが何を聞きたいのかある程度解る。
休み時間ということもあり、ギーラスはじっくり……数十秒ほど考え込み、レイたちが気になる内容に答えた。

「俺はアラッドがトーナメントの決勝戦で戦った光景を知らない。だから、君たちと別れてから更に大幅なパワーアップしたりはしてないと思う。ただ……個人的に、存在感が増していたという印象が強い」

「存在感が、増した……ですか」

「うん、そうだね。人によってはオーラだったり別の言葉を使うけど、戦闘者として一つ上の次元に登ったなって肌で感じた。本人はAランクモンスター、ドラゴンゾンビを倒したことに対して色々と不満を持ってるみたいだけど、それでもソロで倒したことには変わりない」

完璧なブーメラン発言だが、ギーラスはそれに気付かず続けて喋る。

「Aランクモンスターという怪物を一人で倒した……本人は認めずとも、それは間違いなく偉業だ。本人は気付かない……気付いても認めないかもしれないけど、その他大勢とは違う存在たちより、更に上の存在。それを一目で解らせる雰囲気を持ってたよ」

現役騎士の口から、Aランクモンスターをソロで倒したという言葉が出た。

アラッドがドラゴンゾンビ、正真正銘のAランクモンスターを倒したという話は、学園の方にも伝わっていたため、当然レイたちも知っていた。

レイたちいつもの七人組はアラッドの偉業に関して顎が外れるほど口を開けて驚きはしたが、さすがに誇張が過ぎる。
クロという従魔と一緒に倒した筈だ!!!! とは思わなかった。

そう思っていたのは、ドラングを含むあまりアラッドとは仲が良くなく、妬み嫉んでいる生徒たち。
アラッドが強いというのはトーナメントでの戦いっぷりを観ていたため、それは認めるしかない。

しかし、Aランクという……容易に街を破壊する存在を一人で倒す……そんなバカげた話は、いくらなんでも噂に尾ひれ背びれが付き過ぎだと思っていた。

「ぎ、ギーラス、さんは……その話を、しし、信じてるん、ですか?」

「あぁ、勿論。目撃者を多いようだし、なにより最近手合わせして基礎能力が上がってると感じた、まぁ……Aランクモンスターと比べて、アラッドの技術や能力、ステータスが全て勝ってる訳じゃないよ」

弟の強さは褒めて自慢するのが好きではあるが、どうやってドラゴンゾンビを倒したのか。
そして手合わせして肌で感じ取った実力から、全ての要素がAランクモンスターに勝っているとは断言しない。

「一応それなりの魔剣を使って倒したみたいだけど、そういう武器も本人の実力の内ではある。アラッドとしてはその辺りと……若干狂化に頼ったらしいね。そこら辺が個人的に納得がいってないみたいだけどね」

アラッドのアンチとしては、そういった強力な魔剣やスキルの使用を指摘したい。

しかし、既に本人がそれらの部分を自身の実力として認めていないのでは……外野がとやかく言える部分はなくなってしまう。

「それでも、アラッドの刃は……確実にAランクモンスターの命に届く、ということですよね」

「そうだね。まだまだこれから強くなるだろうし、いつか……命を懸けずとも、死ぬ気ではなくとも怪物を平然と倒すかもしれない」

身内故の買い被り? そんなことはないと百パーセント断言出来る。

「そうですか……ありがとうございます」

「どういたしまして」

解ってはいた、解ってはいた事だが……同年代の巨星は遥か先に行っている。
その詳細を猛者から聞き……レイは俯くどころか、武者震いしながら口端をやや吊り上げ……笑っていた。

(うん、この子は本当に強くなるね。冒険者で言えば、確実にAランクに届く力と意思を持っている。それに、他の子たちも良い眼をしてるね)

レイ……ヴェーラ以外の五人は、やや二人に劣っている。
だが、彼らの中には「アラッドの隣に立っても恥ずかしくない大人になりたい」という強い信念が宿っている。

その信念は外野が何を叫び、誹謗中傷しようとも……不死鳥の炎の如く消えることはない、最終目標。

(ドラングに関しては……相変わらずアラッドのことが嫌いなみたいだけど、良い方向に怒りを向けられてるね。ふっふっふ……本当に将来が楽しみな子たちだ。まっ、先輩としてそう簡単に追い抜かれないけどね)

一限目以降もギーラスを中心とした戦闘授業は続き、放課後……ドラングと二人で先日とは違うレストランで夕食を食べていた。

「ぎ……ギーラス兄さん」

「なんだい?」

他愛もない会話を続けていたが、急に真剣な表情になるドラング。

兄はそんな弟の変化を何となく察していたため、兄らしくゆっくりと話し始めるのを待つ。

「っ、お…………っ、いや。ごめん、なんでもない」

「そうか。ところでドラング、学園内で好きな子ができたりしたかい?」

「えっ!? ま、まぁ……気になる奴はいる、かな」

兄としての直感が、今から弟が自分に何を尋ねたいのか、解っていた。

(それを俺に聞かなかった。それもまた一つの成長であり、ドラングの意思がどれほど強く、妥協してないかを示した……やっぱり、弟が成長する姿を見るのは嬉しいね)


俺はどうやったら、アラッドの奴に勝てる?


ドラングはそんな自分の弱さを、意志の弱さに繋がりかねない言葉を飲み潰した。

人によって考えは違う。
だが、ギーラスはそういった思いを信頼出来る者に相談してしまう者は、結局大成出来ず……その目標も叶えられない派。

故に、ドラングが自分にそれを相談せず、ギリギリで飲み潰したことが嬉しかった。
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