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四百四十七話 哀しいな

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「あっ……あの野郎、逃げやがったな」

「そうだね。あぁなると、ややギーラスさんが不利かな」

ストールは宙に飛び続け、ブレスや風魔法、両翼を使った斬撃を飛ばし、空中からギーラスを攻め続ける。

「……間違ってはいない。確実に、絶対にギーラス兄さんに勝ちたいなら、その戦略は間違っていない」

貴族の中でも魔法職と変わりない魔力量を有するギーラスだが、魔力量に関してはドラゴンという種族であるストールが勝っている。

(ギーラス兄さんは魔力量を回復する手段があるけど……それを入れても、魔力量の差は大きい。というか、ポーションを飲む隙をストールが見逃すか微妙なところだな)

生物として、勝つために……生き残るためという理由であれば、ストールの戦略は正しい。
ただ……その行動で、アラッドはストールという存在の底を知った。

「でも、こんなものか……ふっ」

アラッドにしては珍しく、誰かを小さく嗤った。

それは、オーアルドラゴンという本物を知っているからこそ零れた本音。

(ゾンビとなった、ドラゴンゾンビにすらドラゴンとしての矜持を感じたってのに、あのドラゴンは……今更嘘だったとは思いたくないが、本当に父さんと激闘を繰り広げた暴風竜ボレアスの息子なのか?)

目の前の戦いっぷりを観て、そうは思えなくなる討伐者の息子。
しかし、残念ながらストールが暴風竜ボレアスの息子というのは事実。

「アラッド……一応、お兄さんが押されてるけど、本当に助けなくて大丈夫なのかい?」

「大丈夫だ。なぁ、スティーム……属性魔力に黒色が付く理由、知ってるか」

「えっと、確か…………あっ! なるほど。ふふ、だから安心して観てるんだね」

「まぁ、それだけが理由じゃないけどな」

弟の言う通り、決着の時は刻々と近づいていた。


(クソ、クソ、クソがッ!!!! いったいいつまでちょこまかと避け続けやがる!! いい加減、くたばれりやがれぇええええええッ!!!!!)

上空からいい塩梅に魔力を消費したブレスを放つが、ギーラスはその攻撃を予想していたかのような速さで回避。

(いくら強力な攻撃でも、当てるまでのプロセスがなければ意味がないというのに……哀れだな)

標的の表情に何かを察したストールは……一層攻撃が荒々しくなる。
それらの攻撃には、明確な殺気が、確実に敵を殺すというドス黒い感情が込められている。

そこら辺の冒険者であれば漏らして失神してもおかしくない。
ただ……攻撃の荒々しさが増そうとも、ギーラスは先程までなんら変わらない表情でそれらの攻撃を対処する。

どれだけ地形が変わろうが、足元の変化に気を取られてミスを起こすことはない。

(とはいえ、これ以上地面の形が変わるのは良くないね……まっ、直ぐに降りてくるだろう)

策と言えるほど上等なものではない。
しかし、絶対に乗ってくる自信しかなかった。

「はぁ~~……この程度か」

「なにッ!!??」

「父さんが戦った暴風竜ボレアスは、父さんの攻撃に一切臆することなく牙を……爪を振り抜いた。多くの人を殺したとはいえ、その戦いぶりはまさしくドラゴンそのものだった聞いた」

聞きたくない、という思いがストールの頭を駆け巡る。
だが、何故か今、この瞬間に攻撃を放とうという気が起きない。

「俺は……父さんの様になりたいと思っていてな。だからこそ、少し不謹慎ではあるが、お前という存在が現れたことに……嬉しさを感じた」

その言葉とは裏腹に、ギーラスの表情に嬉しさは一切ない。

「でも、これじゃあ……父さんに近づいたとは言えない。お前程度の……ドラゴンを騙る偽物を倒したところで、あの英雄に近づいたとは、到底口に出来ない」

「ッ~~~~~~~~~~!!!!!」

「本当に、残念だよ。それと、暴風竜ボレアスもこんなドラゴンの皮を被った臆病者のゴブリンが息子だったなんて……色々と浮かばれないよね」

「き、貴様ァァアアアアアアアアアッ!!!!!!」

それ以上の言葉は言わせない、聞きたくない。
ストールは何がなんでも、それ以上ギーラスの口を開かせたくない。
その一心で急加速で急落下し、旋風を纏った爪撃をぶちかまそうとする。

「…………本当に、哀しいな」

構える形は猛火双覇断。
頭上に放つという形ではあるが、遠目から観ていたアラッドは直ぐに一撃必刀が繰り出されると解かった。

(いや、違う……黒炎を纏うあれは、もうギーラス兄さんだけの必殺の一撃だ)

黒炎を纏った必殺の斬撃は……必死の爪撃にぶち当てることはなく、的確にカウンターとして胴体に叩きこまれた。

「ッ!!!!! ガ、ァ!!!!????」

(最後の最後まで……命を懸ける一撃を放たなかったな。はぁ~~、これでは父さんに近づけたどころではなく、ドラゴンスレイヤーとすら名乗れないね)

今度は本物のドラゴンと戦い、倒したいと思うギーラスだが……今回の戦い、どの一撃もまともに食らえば大ダメージは免れず、体には幾つもの薄い切傷があり、血も流れている。

それでも今回の戦闘で自分は一歩も憧れであるフールに近づけていないと思うパーシブル家の長男は……間違いなく三男と同じく、普通とはかけ離れた存在であった。
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