上 下
445 / 984

四百四十五話 逃亡は無駄

しおりを挟む
「ギーラス兄さん。クロを貸します」

「えっと……あっ、なるほど」

唐突に弟から伝えられた言葉の意味を、数秒ほど考えて理解。

ギーラスの速さは決して遅くはなく、平均以上の速さを持っている。
しかし、暴風竜ボレアスの息子……ストールは今のところギーラスに嫌がらせをするだけで、誰かが気付いて現場に来る前には逃走。

偶々ギーラスが本当に現場付近に居れば問題無いが、そんな奇跡はそうそう起こらないと考えた結果、アラッドは相棒を兄に貸そうと決めた。

「既にクロには了承を取ってるので大丈夫です!!」

「それはありがたいね。でも、アラッドの方に支障は出たりしないかい?」

兄として、弟の気遣いは非常に嬉しい。
だが、その気遣いで弟の活動に支障が出ることは避けたい。

「大丈夫です。毎回全力で森の中を走ってるわけではないんで。それに、いざとなれば糸を使って素早く移動できるんで」

何か物が多くある場所であれば、脚を使わず駆け回ることが可能。

「はっはっは! そういえばそんな移動手段を持ってたね……解かった。ありがたく借りるよ」

翌日からクロの背中に乗り始めたギーラスは……騎乗していた時間はほんの少しではあるが、そのモフモフ感にやや溺れかけ、アラッドの様に従魔を相棒として手に入れようか……本気で悩んだ。

そして、知る者が知れば「流石クロ!!」と言いたくなる程、クロのお陰であっさりと事が進んだ。

「君が噂の僕に嫌がらせをする為だけに村を潰し回っている風竜、ストールだね」

「ふん、やけに早いな。人間」

流暢な人語を話す光景を見て、更に警戒心を高めるギーラス。

「ここは場所が良くない。もっと自由に動ける場所に移動しようか」

「はっはっは!!! 何故俺がわざわざお前の言うことに同意する必要がある。バカなのかお前は」

「……ふふ、それはこっちのセリフ、と言わせてもらおうかな」

「なにぃ?」

ギーラスの挑発的な笑みにイラつくストール。
そんな圧にビビることなく、淡々と事実を告げるギーラス。

もっと自由に動ける場所に移動しようという提案は、寧ろストールを気遣っての内容。

「君が俺とのタイマン勝負を避けるなら……申し訳ないけど、全力で殺しにいく。僕とこの非常に頼もしい弟の相棒がね」

「ワゥッ!!!!!」

「ッ!!!」

復讐のためとはいえ本当にドラゴン? と思われる様な行動を取っていたスティームだが、それでも危機感知能力などは優れており、出会って直ぐにクロの危険性には気付いていた。

気にせず傲慢で上から目線の態度を取っていたが、それは全て恐れを隠すためのカモフラージュ。

「因みに、今すぐ何処かに逃げようとしても無駄だからね」

「なに……ッ!! 貴様……」

ストールの存在を直ぐに感知し、スティームとファルが少しでも足止めをする為にギーラスの反対側に移動していた。

そしてアラッドはストールとギーラスから少し離れた場所に移動し、上空にフレイムランスを発射。
破壊された村の場所を巡回中の騎士団に知らせ、直ぐにスティームたちと合流予定。

仮に後方以外の場所へ逃げようとしても、本気の競争になれば、ストールはクロに勝てない。

「まぁ、逃げたければそれでも良いよ。ただ……戦闘が狩りに変わるだけだから」

「ッ!!!! ……良いだろう、その挑発に乗ってやろう」

当初の予定通り、開けた場所へと移動。


「なぁ、アラッド。本当にギーラスさん一人にやらせて良いのか?」

更に後方へ移動中のスティームは、今更ながらの質問を仲間に問うた。

「ギーラス兄さんが望んだことだしな」

「けどあの風竜のランクはファルと同じだけど、実力はBランクの中でも最上位だと思う」

「グルルゥ……」

同じBランクのストームファルコン、ファルとしてはストールのようなみみっちいドラゴンに負けたくないという思いが強い……が、それでも現時点の自分では勝てないと認めざるを得なかった。

みみっちくとも、ワイバーンやリザード、ワームなどとは違った本物のドラゴン。
正確がみみっちくて厭らしくとも、その強さが本物であることに変わりはない。

「限りなくAランクに近いBランクってことだよな……それでも、俺はギーラス兄さんが負けるとは思わない。なんて言うか……ギーラス兄さんには、ぱっと見じゃ分からない深い怖さ? があるんだよ」

先日の夜、夕食後に食後の運動という事で、再度対ストールをイメージした模擬戦を行った。

アラッドは更にイメージを重ね、完全に人ならざる動きでギーラスを追い詰めようとしたが……結果、数回攻撃を防御したギーラスを押し飛ばすだけで、決定的なダメージは与えられなかった。

(スキルに制限を掛けての模擬戦だからあれだけど、それでもギーラス兄さんは殆ど俺からの攻撃を適切に対応した……一瞬ではあるけど、マジの本気で寒気を感じた場面も何回かあった)

二回目の模擬戦では終始アラッドのスイッチが入ることはなかったが、それはギーラスも同じ……ではあったが、アラッドは確かに殺意以外の気迫に寒気を感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...