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四百三十一話 遠慮せずにがっつりと

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「ふふ、とても美味しそうだね」

「ですね」

動いて動いてお腹を空かせ、汗を流した二人は当初の予定通り、ラダス一の高級料理店へ来店。

二人が食べた料理の代金は、全てディックスの奢り。
周りの同じ騎士団の者たちもいるが、彼らは当然自腹。

「ッ~~~~、くそ! 好きなだけ食べやがれ」

「遠慮なく食べさせてもらうよ」

「ご馳走になあります」

ちなみに、ディックスは貯金が全くなかった訳ではないのだが……ラダス一の高級料理店での代金に加えて、ラダス一のバーでの吞み代も奢らなければならない。

それを考えれば……当然、現在の貯金額では全く足りない。
そのため、ディックスは騎士団の財産管理などを担当している副団長に頭を下げ、給料を前借した。

(……提案したのは俺だった気がするが、それでもよ……マジで遠慮なしで食うな、この二人は)

気分上々なギーラスは珍しく食べる手が全く止まらない状態。
アラッドもテーブルに次々と置かれる料理に目を輝かせ、テーブルマナーを崩すことなく、次々と胃袋に料理を運んでいく。

「にしても、アラッド君のあの圧はヤバかったな」

「最後のあれだろ。騎士としてあるまじき発現なのは解ってるけど、正直震えたよ」

騎士たちが口にする圧とは、最後の最後にスティームのボルテージをゼロに落とすために放った、狂化発動状態のもの。

仮に敵対する盗賊などが同じ圧を放てば……五割以上の確率で死んでもおかしくないと断言出来る。
それ程までに、騎士たちはアラッドの強さに畏怖を持った。

「アラッドはこの前、色々あってドラゴンゾンビを倒したからね。軽く見てる訳じゃないけど、あれぐらいの圧を放てて当然の領域に足を踏み入れてるんだよ」

「「「「「「「ッ!!!???」」」」」」」

突然の予想外過ぎる発現に、ギーラスとアラッドの二人以外は、完全に食事の手を止めてしまう。

口の中身を吹き出しそうになってしまった者もいたが、なんとか騎士の……貴族のプライド故に、下品な真似をせず堪えた。

「……おい、そんな話聞いてねぇぞ」

「言ってなかったからね。というか、この話を聞いたのはアラッドがラダスに着いてからだったからね」

先にそれを言えよ!!! なんて間違っても口に出来ない。

騎士として、事情を知ったからといって勝負を放棄することなど絶対に出来ない。
なにより……その情報を知ったからといって勝負を放棄すれば、それは弟であるスティームへの侮辱になる。

「いやぁ~~、僕も本当に驚いたよ。まぁ、先を越された感があって、ちょっと悔しいけどね」

あまり常に闘争心を外に出すタイプではないが、ギーラスも父の功績である……ほぼソロでのAランクドラゴンの討伐を自分の成し遂げたいという憧れ、目標がある。

「あれは、俺の切り札がなければ倒すのは無理でしたよ。それに、クロが狂気に飲み込まれそうになった俺に声をかけてくれなければ、大失態を犯してました」

「ん~~……そうだね。確かにクロの功績も大きいとは思う。でも、切り札に関してはアラッドの力の一部だ。だから、限界ギリギリの状態であっても、ソロでAランクのドラゴンを倒したという事実は変わらないよ」

切り札も自身の力の一部。

その言葉に対して、同席している騎士たちから否定の声が上がることはなかった。

切り札が超強力な武器であったとしても、それを十全に使いこなせなければ、Aランクという正真正銘の怪物を倒すことは出来ない。

(Aランクモンスターを、一人で…………仮にファルと一緒でも、同じことが出来るか?)

ストームファルコンのランクはB。
Aランクモンスターには及ばないが、それでも上空から強力な遠距離攻撃を放つことができ、くちばしや爪による近距離攻撃も侮れない。

スティーム自身も相棒とのコンビネーションは言わずもがな、個人の実力も十八歳にしては相当なもの。
それは彼の同業者や、先程の模擬戦を見ていた騎士たちも認めている。

しかし……ストームファルコンと一緒に挑んだとしても、まだ勝てない。
一筋の光があるか否か、それが現実だった。
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