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四百二十五話 報酬もその場で

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「ところでギーラス兄さん、何用で俺をラダスに呼んだんですか」

「……あれ、手紙に書いてなかったか?」

「えぇ、書いてませんでした」

まさかの弟が、自分が何用で呼んだのかを知らない。

(そういえば、あの手紙を書いたときは……うん、確実に酔ってたな)

全ては思い出せないが、だからこそ酔っていた事だけは解る。

「そうか、すまん。恥ずかしいことに、あの手紙を書いていた時は酔っていた」

「なんか……珍しいですね」

「ふふ、俺だってそれなりに呑むぞ。騎士団で活動していれば、当然疲れることもある」

騎士団内でも優秀な存在であるため、上の者たちからは現場で隊長補佐を任されるだけではなく、任務の度合いによっては隊長を任されることもある。

加えて、他の騎士たちと比べて頭脳も優れているため……本人にとっては有難くないが、書類仕事を手伝わされることがある。

「っと、お前を呼んだ内容だったな…………あれだな、これまた酔ってたからこそ同僚と論争? になったんだよ」

「論争?」

簡潔に説明すると……ギーラスは同僚の騎士と、自分たちの弟……どっちが凄いのか論争を行い、どうせなら本人たちを呼んでどちらが上か、証明しようじゃないか!!! という結論に至り、両者とも弟へ即座に手紙を送った。

「ホットル王国って、そんな簡単に来れるんですか?」

隣国のホットル王国から交換騎士として現在ギーラスが所属する騎士団に配属されたディックス・バリアスティ―の弟は、アラッドと同じ冒険者。

ただ……隣国とはいえ、そう簡単にほいほい来れる距離ではない。

「普通は無理だと思うが……まぁ、あいつの弟はどうやらお前に似てるっぽくてな」

「俺に似てる……もしかして、ウルフ系の従魔がいるんですか」

背中に乗れて速度が速い、ウルフ系の従魔を連れているという自分との共通点がある……というアラッドの回答は、ニアピンだった。

「違うよ。ディックスの弟が連れている従魔は、鳥獣類だよ」

「鳥獣類、ですか」

頭の中に多数の翼を持つモンスターが思い浮かぶ。

「それにしても、本当にラダスに来るまで早かったな」

「クロですからね。普通に歩けば何日もかかる道でも、クロならあっという間ですよ」

「それもそうか。弟をいつも助けてくれてありがとな、クロ」

地面に寝転がるクロの頭を撫で、これまでの苦労を労う。

「……ワフ」

主人と似た匂い、同じ優しさを持つギーラスに友愛を表すように、もふもふの毛を擦り付ける。

「ん~~、良いフワフワだ」

「毎日ブラッシングしてますからね……えっと、とりあえずそのディックスさんの弟が来たら、戦えば良いんですね」

「安心してくれ。勝てば、ラダス一の高級料理店の食べ放題と、美味い酒を出してくれるバーで吞み放題だ!!」

「それは……良いですね、やる気が出ます」

ギーラスの弟であるアラッド、ディックスの弟であるスティーム。
二人とも冒険者なので、指名依頼を出せば良いのではと思わなくもないが、勝利報酬も酔った勢いで決めてしまった。

口約束だけなので、今から変更することも可能ではあるが……お互いに自分の弟の方が強い!!! という思いを譲らないため、却下。

「にしても、アラッド……お前、もしかして」

「ん? 何か顔に付いてる?」

「いや、そうじゃなくてもしかして……男になったのか」

好青年に見えるギーラス。
実際に好青年であるのだが、性別はやはり男であるため、そういった話題は嫌いではない。

「っ!!」

そしてまさかの質問に、思わず言葉が詰まってしまう。

兄からすれば、それだけで弟が男になったのだと解ってしまう。

「まぁ、その……色々あって」

やらかしてしまったと思った時には、既に時遅し。

アラッドは素直に男になったと認めた。

「そうかそうか。よっと、これで良し」

外部に音を伝えない風の結界を即座に展開。

兄としては、やはり弟のそういった話は気になって当然だった。
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