上 下
418 / 1,034

四百十八話 不運続きから……

しおりを挟む
「……頭痛ぇ」

遺伝的にアルコール耐性はそれなりに高いアラッドだが、注文された酒類を殆ど呑んでいき……吐く一歩寸前まで追い込まれた。

これは不味いと思い、一旦適当な理由を告げて宴会場から出て夜風に当たりに行った。

(自力で……まぁ、そうだな。自力と言っても良いか。不安は残るが、自力でドラゴンを倒せたんだよな)

アラッドとクロの二人だけの状態で遭遇したわけではなく、あの場には多くの証人がいた。

ドラゴンゾンビという超難敵であるAランクモンスターを、アラッドは本当に一人で倒してしまった。

(クロの声がなかったら危なかったけど、これで少しは父さんに近づけたと思っても良いのかもな)

通常では考えられない功績を打ち立てたアラッド。
そんな漢気溢れる超新星に、ベテラン冒険者たちや戦場にいた騎士、魔術師たちはアラッドの二つ名について考え始めている。

冒険者になって半年も経っていないルーキーに二つ名を付けることは、まずあり得ない。
ベテランが酔っ払ってルーキーの特徴をふざけて二つ名で呼ぶことはあるが、それは本当におふざけと言える呼び名。

冒険者歴はまだ半年も経っていないが、その間にアラッドは自身の力だけで特殊なオークシャーマン、闇属性の武器を持ったミノタウロスの二体……既にBランクモンスターを二体も倒している。
クロの功績も入れると、Bランクの黒い角を持つケルピーが合算され、合計Bランクモンスターを三体。

そして今回の討伐で運悪くではあれど、Aランクモンスターのドラゴンゾンビと限界ギリギリのバトルを行い、見事勝利。

「二つ名、か……」

チラッと耳に入っていたため、彼らがどんな二つ名を話していたか、少々気になる。
転生者としては恥ずかしい呼び名と感じてしまう部分はあるが、それなりにこの世界に染まりつつあるため、未来の二つ名がいったいどんな名なのか……楽しみな部分もあった。

「……っ」

「おや、アラッド君じゃない、か」

非常に……非常にタイミングが悪かった。

ギリギリ、表面張力のように抑え込んでいた吐き気が、一気に爆発。
呑みに吞んだ酒の量を考えれば、その日の内に吐いてしまうのも仕方ない。

そしてマジットは、アラッドと同じく少々酔いを感じ、夜風に当たりに来た。
ただそれだけなのだが……アラッドからすれば、非常に悪いタイミング。

「おいおい、大丈夫か」

とはいえ、長年冒険者として活動し、ギルドの職員として活動するようになってからも、ギルドに併設されている酒場で酔っ払い、その場で吐いてしまう輩は何人も見てきた。
そのため、開放する様子は非常に手慣れたもの。

「す、すまん」

「気にするな。全く、まだ十五の若者に呑ませ過ぎるからだ。祝いの席で英雄に酒を呑ませたがるのは解らなくもないが」

マジットにも過去に潰れた経験、逆にテンションが上がってしまし、グラスに注ぎに注いで潰してしまった両帆の経験がある。

「英雄って……あんまりそう呼ばれるのは、慣れないな」

「そうか。しかし、君は紛れもなく英雄だ。多くの者たちをサポートし、ドラゴンゾンビを単独で倒して……私に力を貸してくれた」

「…………どうも」

真正面から「決して自分の力だけではない」と返されてしまっているので、今更同じ真似は繰り返さない。

「君のお陰で……友に罪を背負わせずに済んだ。改めて、感謝する。ありがとう、アラッド」

酒を呑んでいることもあり、その頬は少し赤らんでいた。
だからか……アラッドは、今まで見てきた笑顔の中で、一番美しいと感じた。

(……っ!! まずい!!!!!)

次の瞬間、アラッドは自身のムスコが元気になったのを察知。

「ん? どうし……た」

一瞬、ほんの一瞬身をマジットとは逆の方に向けるのが遅れた。

言葉が詰まったのを察知し、アラッドは猛烈に死にたい……穴があったら入りたい感情に駆られる。
だが……マジットはそっとアラッドの手を握り、パーティー会場とは違う方向を指さした。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

学校がダンジョンに転移してしまいました

竹桜
ファンタジー
 異世界に召喚され、帰還した主人公はまた非日常に巻き込まれたのだ。  通っていた高校がダンジョンの中に転移し、街を作れるなスキルを得た。  そのスキルを使用し、唯一の後輩を守る。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...