スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
418 / 1,051

四百十八話 不運続きから……

しおりを挟む
マリエル護衛をもっと安全に行うため、『マリエルになるべき気がつかれない道具』が完成した。

「よし、ドルトンさんで実験してみよう!」

新しい道具を実戦で使う前には、必ず実験が必須。
事前に設定の準備をして、道具を装着。ドルトンさんを驚かせにいくことにした。

奥のドルトンさんの作業場に移動する。

「ドルトンさん、ちょっといいですか?」
「ん? なんだ、“サラの嬢ちゃん”か? ハルクなら奴の作業場にいるぞ」

「いえ、私はサラでないですよ、ドルトンさん」
「ん? 何かの冗談か? その声も、どこから、どう見てもサラの嬢ちゃんだろ?」

真面目なサラは冗談を言わない。だからドルトンさんは首を傾げながら、不思議そうにこっちを見てくる。

よし、実験は成功だ。
これ以上騙すのは問題ななりそうだから、種明かしをする。
新しい道具の機能を解除だ。

ポワ――――ン

「ん? なっ⁉ ハ、ハルクだと⁉ どうして、サラの嬢ちゃんが、ハルクになったのだ⁉ これはどういうことじゃ……まさか魔族がワシを化かしにきたのか⁉」

まさかの現象にドルトンさんは目を見開き、言葉を失っている。
作業場あった魔戦斧を手にとり、こちらを威嚇してきた。
あっ……これはマズイ状況だ。

「間違いなくボクですよ! ハルクです! この新しい道具で、姿と声を変えていたんです!」

自分が本当にハルクあることを、慌てて証明する。
でも言ってから、ふと気がつく。こんな道具を見せたところで、魔族じゃないことの証明はできないのだ。

「むっ……その道具は⁉ そんな精密な鍛冶仕事をできるのは、ヤツだけだ。ふう……そうか、本物のハルクか。まったく驚かせやがって」

だがドルトンさんは信じてくれた。魔戦斧を置いて、深い息を吐き出す。
よく分からないけど誤解が解けて、本当によかった。

「すみません、驚かせて。まさか、そんなに信じるとは思わないで。ボクの予想では“少しだけ”サラに似ていた予定だったんですが」

「いや、いや。さっきの姿は、どこからどう見ても“サラの嬢ちゃんそのもの”だったぞ。いったい、その道具はなんだ⁉」

ドルトンさんはこちらに近づき、新しい道具をマジマジと見てきた。今度はちゃんと説明をしないと。

「えーと、これは魔道具を応用して作った鍛冶道具です。機能は『使用者の姿を、他人に似せる』です!」

マルキン魔道具店に『風景を一枚の紙に写す魔道具』と『絵を壁に透写する魔道具』が売ってあった。

ボクはその部品を使い、新たな道具を製造。事前に撮影した人物の容姿に、使用者を見せかける道具を作ったのだ。

さっきサラの顔と格好を、こっそりボクは撮影してきた。そのデータを使い、サラの格好に変身したのだ。

ちなみに声も同じように『音を少しだけ録音する魔道具』と『録音した音を再生する魔道具』を組みわせて、ボクの声をサラの声に変質させたのだ。

「……という訳です。機能は全部、市販の魔道具をそのまま応用しました」

今回の製造はそれほど難しい作業はしていない。
売り物の魔道具を分解して、パーツを取り出し少しだけ改造。
ミスリル・マジックミラーで変身できるように改造。あと超小型ミスリルモーターで声も変質にも改造しておいた。

ちなみにミスリル金属の保護のお蔭で、魔法による妨害や探知も受けつけない仕様だ。

他人の姿と声に変身できる道具……

――――その名も《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》だ!

どうですか、ドルトンさん。今の説明で分かってくれましたか?

「――――っ⁉」

説明を聞いて、ドルトンさんは固まっている。いったいどうしたんだろう。

「い、いや、どうしたのだろう、じゃないぞ、小僧⁉ オヌシはとんでもない性能の魔道具を、新たに作りだしたんじゃぞ! 自覚はあるのか?」

「えっ、『とんでもない性能の魔道具』をですか? “少しだけ”他人に変装できるだけの道具ですよ、これは?」

どうしてドルトンさんはここまで興奮しているのだろう。もしかしたら何か問題もあるのだろうか。

「ふう……本人とまったく同じ姿と声に変装でき、魔法による探知も不可能。そんな恐ろしい道具があったら、そんな城やお宝のある場所にも、当人は潜入可能なのじゃぞ!」

「あっ……そうか。でも、安心してください。使うには、特殊な認証取得機能があるので、悪用はできないです!」

買ってきた魔道具の中に『人を認識できる魔道具』があった。
今回はそれを組み込んでいるから、悪用される心配はないのだ。

「なるほど、それならひと安心じゃ。だが、とにかく、とんでもない魔道具を、いや……魔道具を超えた“超魔具”を作り出したモノだな、オヌシは」

ドルトンさんの言う“超魔具”とは魔道具と、鍛冶技術を組み合わせ名称なのであろう。呼び方が格好いいから、ボクも今度から使うことにしよう。

「ところで、その超道具《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》は、どう使うのじゃ?」

「とりあえず、マリエルが王都で行く先に出入りしている人物を、今後は撮影と録音してきます。明日以降は《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》を装備して、何気ない顔でマリエルに近辺にいる予定です!」

マリエルの王都でのスケジュールは把握済み。その利点を最大限に使い、先回りして準備をしていく。
彼女の護衛騎士や侍女。王城の騎士兵。王都の商館の関係者。色んな人物を、撮影していく予定だ。

ちなみに《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》は百人分の姿と声を記録可能。今後は常にマリエルの近くで、密かに護衛ができるのだ。

「ふむ、なるほど、そういう使い方か。気を付けて準備するのだぞ」

「たしかに、そうですね。それじゃ明日の分の準備に、行ってきます!」

ボクは工房を出発。向かう先は王都の“ある場所”だ。
こっそり撮影と録音をして、ついで情報も収集。変装してもバレないように、メモにとって整理しておく。

陽が落ちてから工房に帰宅。
夕食後は《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》を更に改造して、使いやすく調整する。

明日から絶対に失敗はできない。
集中して作業していると、あっとう間に夜はふけていく。



翌朝になる。
今日はマリエルにとって大事な日。
彼女がミカエル城に登城して、現ミカエル国王に謁見する日なのだ。

ボクも朝から気合が入りまくり。
早朝から護衛の準備をして、朝食もしっかり食べておく。

執事セバスチャンさんには『今日は徒歩で外出するので、お構いなく』と伝えて、こっそりと庭の工房に向かう。

「サラ、ドルトンさん。それじゃ、マリエルの後を追いましょう!」

「はい、ハルク君。いよいよ王城に潜入するのですね。また秘密の通路を使うのですか?」

「ん、今日は違うよ。“ボクたち三人”は城の正門から、正々堂々と登城するよ」

「ん? “ボクたち三人”? ハルク、キサマ……まさか。ワシらも正面から行くのか⁉」

「はい、ドルトンさん。二人の分の《怪盗百面相ルパル・チェンジャー》も作って、調整しておきました! さぁ、変装して三人でミカエル城に行きましょう!」

こうして王都でも最大の警備が厳しいミカエル城に、ボクたちは超魔具で潜入に挑むのであった。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...