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四百十五話 楽に死ねると思うな

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「っ、はぁぁあああああああああああああああっ!!!!!」

軽く何かに背を押された瞬間、心に勇気の炎が灯った。

幻覚ではなく、実際に胸の奥が急激に熱くなった。
自分にどういった力が宿り、いつまで続くのか解らない。

ただ……誰が自分の背を押してくれたのかだけは解った。

「マジット!?」

一人の男が驚きの声を上げる。

黒幕の男は、確実にパワーアップした。
今はどう考えても立て直して戦闘が終わった戦闘者たちと合流し、数の力で攻めるべき。

そうしなければならい状況であることが解からない程、愚かではない。
普段のマジットであれば、男と同じ考えを共有していた。

「一人で突貫とは、嘗められたものだなぁああああッ!!!!!」

嘗めてはいない。
ただただ、心の底から……体中から黒幕の男を倒せるという確信が湧いてくる。

「ッ!!?? ふざけるな!!!!!」

黒幕男が十数本の強力な闇槍を放つが、マジットは一撃で……たった一撃で十数本の闇槍を破壊した。

(これなら……やれる!!!!!)

アラッドがスレッドチェンジでマジットの体を纏わせた糸の性質は……オリハルコン。

ヒヒイロカネと同等の世界でトップクラスの金属。
金にものを言わせて一度手に入れた事があり、その堅さは身をもって知っていた。

だからこそスレッドチェンジで生み出すことが出来た。
ただ、当然鉄製の糸の様に長時間使うことは出来ず、一定時間で消えてしまう。

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな、ふざけるなぁああああああああああああああッ!!!!!!!」

声を子供のように荒げ、無詠唱で発動できる限りの攻撃魔法を放つ。
その攻撃も通常のマジットであれば、丁寧に捌く必要がある……ただ、今は違う。

最強の衣はマジット自身を最強の矛へと変えた。

「貴様は、楽に死ねると思うのよ」

どれだけ魔力量があり、同時にいくつもの魔法を発動出来ても……懐に入られてしまえば、魔法使いが武道家の攻撃に対応する術はない。

少し前の男であれば、僅かに残っていた冷静さが働き、マジットが十数本のダークランスを破壊した時点で、頭をフル回転させて逃げる算段を立てようとした。

だが……もう既に時遅し。

「いけぇええええええええええッ!!!!!!」

アラッドがもう一度マジットの背中を押す。

「やっちまえ、マジット!!!!」

「ぶちのめせぇええええ!!!!!」

「あんたなら殺れる、殺っちまえええええええっ!!!!」

「いけぇえええ、マジットおおおおおおおっ!!!!」

同僚が、後輩が、名も知らない騎士や傭兵が更に背中を押した。

その場にいる全員が、一人の勇敢な女性に願いを込めた。

「うぉぉおおおおおぁぁああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」

一声で、喉が枯れるほど吼えた。

人生でこれが一番と思える雄叫びを上げた。
その声が切れるまで拳を、蹴りや肘を、膝を叩きこむ。

敵に対する感情は、怒りが支配していた。
現在の攻撃力を考慮すれば……一撃で勝負が終わってもおかしくない。

ただ……心は、脳は本人の言葉を忠実に実行した。


楽に死ねると思うな。


この言葉通り、たった一撃では終わらせなかった。
黒幕男が自身の寿命を犠牲にして魔力だけではなく耐久力まで向上させたことで、有難いことに数十撃程度で終わらない。

約十秒間、数百発以上の打撃が放たれた。

物理攻撃に抵抗する為のマジックアイテムを装備していたが、直ぐに許容範囲のダメージを突破。
一度だけ瀕死と同等の攻撃を食らった時に反応する貴重なマジックアイテムも装備していたが、元冒険者としての勘が途中で致命打を与え、強制的に発動させた。

「ごっ、ぁ……ぎ」

「悔いなくて良い、謝罪も必要ない。永遠に地獄から出てくるな」

最後に暴風一閃が喉に叩きこまれ、首から上は全て弾け飛んだ。
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