上 下
405 / 1,012

四百五話 悟られず、慎重に

しおりを挟む
墓荒しの黒幕が拠点としているであろう場所が判明した翌日……表面上、いつもと変わりはない日常が送られていた。

というものの、拠点らしき場所が分かったのは良い。
アラッドが即席で書いた地図も、意外と分かりやすいため、マジリストン以外の街からも冒険者を送りやすい。

ただ……着々と準備を進めていれば、もしかしたら潜んでいるかもしれない敵側の人物から、情報が洩れるかもしれない。

(出動は、少なくとも一週間後か)

墓荒しの討伐に参加確定であるアラッドは、その詳細をギルド職員から報告されており、なるべくいつも通り動いていた。

仕事のし過ぎで宿の従業員が少々心配になるほど動き、まだアジトが解っていない体で探し続けるふりをする。

「アラッド君、明日も頼んで良いか?」

「あぁ、構わない」

加えて、そこに討伐参加が確定しているマジットとの訓練が追加された。

アラッドとしてもレベルが高い人物との模擬戦は大歓迎なため、断る理由はない。

(……若干ではあるが、減ってきたな)

アラッドがマジットと共に訓練場に入ると、そこには変わらずまだ卵のルーキーから、ケツに殻が付いたルーキー……そして、ようやくケツの殻が取れたルーキーたちが居た。

当然、先日と同じくアラッドを見張るという名目で訓練場に訪れているが……中には、アラッドの動きを少しでも盗もう、と考えるルーキーも増えてきている。

(まだ俺にギラついた負の感情を向けてくる人はいるが……襲って来ないだけまともか)

延々とそういった視線を向ける人物たちは、一般的に考えてもまともではないが、やや感覚が狂ってきているアラッドは、それぐらいまだまともな方だと認識していた。

「マジットは……恐怖とか、ないのか?」

「それはどういう意味の恐怖だ?」

「……相手は、おそらく死体を操る。その中には、マジットの友人もいるだろ」

友の死体を相手を前にして、その拳を……脚を全力で震えるのか。

経験はないが、アラッドは一瞬躊躇してしまうのではないかと思えてならない。

「アラッドは優しいな」

「俺だけじゃなくて、他の連中も同じ心配をしてるはずだ」

俺だけが心配してるわけではないと伝える。

それらの心配を嬉しく思うマジットだが、既に決意は固まっている。

「操られてしまうであろう友は、望んで操られている訳ではない。寧ろ、今回の黒幕に操られ、誰かを傷つけるなんて……生涯の恥と思うような奴だ」

死んでしまった友に、罪を負わせたくない。
故に……その瞳に恐れは一切ない。

「だからこそ、真っ先に私が倒さなければならない」

「……強いな」

「ふふ、これでも年齢は君より上だ。精神面では、まだ負けないさ」

アラッドの実力を評価するような言葉ではあるが、評価された本人としては、まだマジットの底が見えず、ある意味恐ろしさを感じていた。

(狂化がある、烈風双覇断がある……糸もあるが、それでも本気になったマジットさんに勝てるか否か……この人、本当に引退してるんだよな)

特殊なスキル、父親譲りの必殺技。
手綱を握るのに苦労するスキル。
それらの並外れた力を持つアラッドだが、もしマジットが本気になれば……と想像すると、明確な勝利が浮かばない。

(潜在能力? 的なあれはフローレンス・カルロストが上な気がするが……引退してもここまで強いって、十分反則的な人だよな)

同僚、同じ戦闘者からすればアラッドも十分反則的な存在。
しかし……マジットの冒険者時代や、受付嬢になってからの経歴を詳しく知る者であれば、決して今でもアラッドやフローレンス・カルロストといった今を代表する若い世代のトップたちにも負けないと断言出来する。

「よし、それじゃあ、そろそろ始めようか」

「あぁ、そうだな……まずは魔法、魔力をメインで戦うからな」

アラッド自身が周囲に被害が及ばない様に風の結界を張り、まずはマジットが先制。
魔法、魔力をメインで戦うも結果は先日と同じく引分け……になると思われたが、今回は明確に決着が着き、マジットが勝利を収めた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...