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三百九十九話 幾ら上がっても意味無し
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「あの、アラッドさん。その……また学園の方から指名依頼が」
「……断っておいてください」
墓荒しの黒幕を探し続ける中、アラッドは魔法学園の学園長から、何度も臨時教師の指名依頼を出されていた。
既に報酬金額は白金貨一枚を超えているが、それでもアラッドは断り続ける。
「アラッド君、そんなに教師の真似事は嫌か?」
すると、魔法学園での臨時教師経験が豊富なマジットが声を掛けてきた。
数日前と比べてピリピリとした雰囲気は収まっていた。
そのお陰で、ギルド内も重苦しい空気から解放……されてはいるが、アラッドはマジットが苛立ち、怒りをただただ隠しているだけということを見抜いていた。
「嫌というか、俺には合わないんだよ」
「そうなのか? 私にはそうは思えないが」
本人から言われた通り、タメ口で会話を行う。
アラッドも慣れてはきたが、ギルド内という事もあり……マジットに敬意や好意を持つ者たちは反射的に負の視線を向けてしまう。
「合わないよ。というか、絶対に最初からぶつかり合うのは目に見えてる」
「最初はそんなものだ。そこからようやく関係が築けていくもの」
「ん~~~……だとしても、あまり興味がない。そういう依頼はいずれ受けないといけないとは思うが、それは絶対に今じゃない」
魔法学園の校長は、一つ失念していた。
アラッドは侯爵家の令息だから……という訳ではなく、キャバリオンの製作販売の売り上げによって、現時点で使いきれない程の大金を持っている。
つまり……白金貨一枚、数枚……たとえ何十枚と用意しても、アラッドが指名依頼を受けることはない。
少なくとも時期と学園長の眼が届かない一件、その二つが重なってしまったのが、運の尽きとしか言えない。
「そうか……ところで、明日は何か予定があるか?」
「いや、予定というか、いつも通りだ」
朝起きてギルドに向かい、適当に依頼を受けながら、墓荒しの黒幕探しを同時進行。
「それなら、少し付き合って欲しいことがある」
「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」
その言葉に、まだギルド内に残っている多数の冒険者たちが、目を大きく開いて驚く。
(……やっぱり予定がある、なんて言えないな)
さすがに断った方が、今後の身の為と思えなくもない。
しかし、ここで断っても「マジットさんからの頼みを断るとは、なんてふてぶてしい野郎だ!!!!」という同業者からの反感を買ってしまう。
加えて、アラッドは自身に何かを頼もうとするマジットの眼に……確かな覚悟を感じた。
「あぁ、分かった。これぐらいの時間にギルドへ来れば良いか?」
「ありがとう」
そこで二人の会話は終了。
恋バナ大好きな受付嬢たちは小さな声で騒いでいるが、冒険者たちは気が気でない状態。
(あ、あの野郎~~~~っ!!!)
(いったいマジットさんに何をするつもりだ!!)
何もしない。
何かされるとすれば、それはアラッドの方だ。
という鋭いツッコミを入れる者が彼らの近くにいても、決して耳を傾けることはないだろう。
そしてマジット信者たちは……こっそりとアラッドの後を付けようとした。
人の目が届かない場所で教育的指導、を行おうとは考えていない。
マジットの教育により、よっぽど馬鹿な屑でなければ、この街にその様な行為を行う若手の戦闘者たちはいない。
ただ……彼らは、後を付けてアラッドの失態を見つけようとした。
その失態をそれとなく、自然な流れでマジットに伝えようと考えた。
どちらに陰湿な行為に変わりはない……が、信者たちは感じんなことを忘れていた。
「嘘、だろ……いくらなんでも、速過ぎるだろ」
アラッドには、クロという驚異的な速さと持久力を持ち合わせる脚がいる。
その二つに自信を持つ者であっても、両膝を地面に付いて項垂れるほど、その差は圧倒的なものだった。
「……断っておいてください」
墓荒しの黒幕を探し続ける中、アラッドは魔法学園の学園長から、何度も臨時教師の指名依頼を出されていた。
既に報酬金額は白金貨一枚を超えているが、それでもアラッドは断り続ける。
「アラッド君、そんなに教師の真似事は嫌か?」
すると、魔法学園での臨時教師経験が豊富なマジットが声を掛けてきた。
数日前と比べてピリピリとした雰囲気は収まっていた。
そのお陰で、ギルド内も重苦しい空気から解放……されてはいるが、アラッドはマジットが苛立ち、怒りをただただ隠しているだけということを見抜いていた。
「嫌というか、俺には合わないんだよ」
「そうなのか? 私にはそうは思えないが」
本人から言われた通り、タメ口で会話を行う。
アラッドも慣れてはきたが、ギルド内という事もあり……マジットに敬意や好意を持つ者たちは反射的に負の視線を向けてしまう。
「合わないよ。というか、絶対に最初からぶつかり合うのは目に見えてる」
「最初はそんなものだ。そこからようやく関係が築けていくもの」
「ん~~~……だとしても、あまり興味がない。そういう依頼はいずれ受けないといけないとは思うが、それは絶対に今じゃない」
魔法学園の校長は、一つ失念していた。
アラッドは侯爵家の令息だから……という訳ではなく、キャバリオンの製作販売の売り上げによって、現時点で使いきれない程の大金を持っている。
つまり……白金貨一枚、数枚……たとえ何十枚と用意しても、アラッドが指名依頼を受けることはない。
少なくとも時期と学園長の眼が届かない一件、その二つが重なってしまったのが、運の尽きとしか言えない。
「そうか……ところで、明日は何か予定があるか?」
「いや、予定というか、いつも通りだ」
朝起きてギルドに向かい、適当に依頼を受けながら、墓荒しの黒幕探しを同時進行。
「それなら、少し付き合って欲しいことがある」
「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」
その言葉に、まだギルド内に残っている多数の冒険者たちが、目を大きく開いて驚く。
(……やっぱり予定がある、なんて言えないな)
さすがに断った方が、今後の身の為と思えなくもない。
しかし、ここで断っても「マジットさんからの頼みを断るとは、なんてふてぶてしい野郎だ!!!!」という同業者からの反感を買ってしまう。
加えて、アラッドは自身に何かを頼もうとするマジットの眼に……確かな覚悟を感じた。
「あぁ、分かった。これぐらいの時間にギルドへ来れば良いか?」
「ありがとう」
そこで二人の会話は終了。
恋バナ大好きな受付嬢たちは小さな声で騒いでいるが、冒険者たちは気が気でない状態。
(あ、あの野郎~~~~っ!!!)
(いったいマジットさんに何をするつもりだ!!)
何もしない。
何かされるとすれば、それはアラッドの方だ。
という鋭いツッコミを入れる者が彼らの近くにいても、決して耳を傾けることはないだろう。
そしてマジット信者たちは……こっそりとアラッドの後を付けようとした。
人の目が届かない場所で教育的指導、を行おうとは考えていない。
マジットの教育により、よっぽど馬鹿な屑でなければ、この街にその様な行為を行う若手の戦闘者たちはいない。
ただ……彼らは、後を付けてアラッドの失態を見つけようとした。
その失態をそれとなく、自然な流れでマジットに伝えようと考えた。
どちらに陰湿な行為に変わりはない……が、信者たちは感じんなことを忘れていた。
「嘘、だろ……いくらなんでも、速過ぎるだろ」
アラッドには、クロという驚異的な速さと持久力を持ち合わせる脚がいる。
その二つに自信を持つ者であっても、両膝を地面に付いて項垂れるほど、その差は圧倒的なものだった。
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