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三百八十九話 いや、本当に感謝しかないよ

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「好きな酒を呑んでくれ。勿論、料理も好きな物を頼んで」

「は、ははは……ご馳走になるよ」

アラッドは自分にリンチ(仮)を仕掛けてきた冒険者、学生たちのことに関しては、適当に濁して済ませようとした。

しかし、マジリストンを訪れてからアラッドが他の冒険者と冒険したという情報を、マジットは一回も耳にしていない。
そんなアラッドが急に、歳がそれ程離れていない者たち一緒に行動する?

普通に考えてあり得ない。
どう考えても一緒にいた者たちがアラッドに無理を言ったという結論に至り、マジットは詫びとしてアラッドを個室がある洒落たバーへ案内。

当然、代金はマジット持ち。

(こういう場所でマジットさんと呑めたら楽しそうだな~とは思ってたけど、まさか直ぐに実現するとはな)

リンチ(仮)を仕掛けてきた同業者、学生たちには感謝しかない。

本人達からすれば「ふざけるな!!!」と叫びたいところだが、金貨二十枚以上を苦労せずに貰い、マジットと洒落たバーで食事が出来る。
アラッドからすれば、礼の一言や二言伝えたくなるのも無理はない。

「本当に、後輩や教え子たちが申し訳ない」

「あ、頭を上げてくれ。別に迷惑を掛けられたわけじゃないから」

寧ろ儲けさせてもらったから! とは言えないが、それでもアラッド自身は本当に迷惑を掛けられたとは思っていない。

ただ、マジットからすれば後輩や、学園の教え子たちがいったいアラッドにどんな態度で、どんな事を仕掛けたのかまでは解らないが、一般的な視点から迷惑を掛けたことは解る。

「そういう訳にはいかない」

アラッドの言葉に嘘がないことは解っている。

とはいえ、それはアラッドが他者と比べて頭三つか四つも飛び抜けた実力を持ち、大人びた精神を持つ故に迷惑だと感じていないだけ。

彼ら彼女たちが行ったことは一応リンチ(仮)であるため、世間一般的に見てアラッドに迷惑を掛けたという見解は間違っていない。

「私の、教育不足だ」

「あぁ~~~……あれだよ、マジットの教育不足とかは関係無い部分だと俺は思う。憧れからくる、つい起こしてしまう衝動というか行動というか……うん、こればかりは憧れであるマジット本人から言われても、直るものじゃない」

ファン、信者が外部の人間にとっては厄介な存在に見える。
そういった事を前世で実際に体験しているため、ある意味治らない病気だと認識している部分がある。

「それに、冒険者登録をした街で絡まれた同じルーキーの態度と比べれば、よっぽど礼儀正しいよ」

「やはりと言うか、他の街でも苦労しているんだな」

実態としては、特に苦労はしていない。
人生二週目だからこそ、そういう反応になるも無理はないよな、と些細なことで乱れない精神がある。

「そんな大した話じゃないよ」

結果的に一人の冒険者を追放することになあったので、大した話ではある。

「……君は、本当に余裕がある大人だな」

「これでも侯爵家の三男だからな」

間接的に先日リンチ(仮)に加わっていた学生二人を貶しているが、本人は全く気付いておらず、マジットとしても当然ツッコむ気はない。

何はともあれ、頼んだカクテルと料理が届き、楽しい夕食の時間がスタート。

互いの職業的に紆余曲折あって、墓荒しの件について話し合うことになった。
そこでマジットは、アラッドとの会話から確証はないが、とあることに気付いた。

(アラッド君は……もしや、一人で黒幕を倒したいのか?)

顔に心情は浮かんでいない。
それでも、会話により読み合いに関しては、マジットの方が数手上である。

(アラッド君が強いのは解かる。クロという圧倒的な力を持つ従魔もいる。それらの戦力を考えれば不可能ではないと思えるが……)

万が一の独断行動を心配に思うマジット。

しかし、アラッドはまだ殆どの者に知られていない力を有している。
その力があるからこそ、どうせなら自分たちだけで倒したいなと考えていた。
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