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三百八十三話 消えた予想像

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オーガファイターとの戦闘に割って入ったことに関して、特に問題にはならず、協力して解体。

「……本当に、魔石だけで良いのか?」

「あぁ、勿論。持ち物が壊れたりしてないからな」

「そうか」

オーガはオークやリザードマンと同じく、肉が食えて骨も悪くない値段で売れる。

当然、素材の中で一番高く売れる部分は魔石だが、その他全てを売るのであれば、余裕で魔石の買取値段を超える。
今回の一戦で前衛の青年が使用していた武器は破損一歩手前。

予備の武器は持っているが、使用していた武器よりもランクは下がる。

「それにしても、オーガファイターは三人が遭遇した時からあの状態だったのか?」

「そうだな。依頼の素材を集め終えたから帰ろうとしていたんだが、いきなり暴走したオーガファイターが襲い掛かってきた」

「普通のオーガなら倒せる自信があったんだけどね」

三人はまだDランクの冒険者ではあるが、実力的にはCランクに足を踏み入れてるといっても過言ではない実力を有していた。

そのため、一体だけであれば通常種のオーガや、Bランク以上ではないオーガであれば討伐出来る可能性は十分にある。

「ところで、君は例の事件に関して動いてるのか?」

「あぁ、一応な。黒幕の奴がどこかの街中か、もしくは街の外にいるのかは分からないけど、街の外であればクロの利点を活かせるからな」

「……正直、羨ましいと感じるな」

三人のリーダーである青年は、クロを見た時……暴走状態だったオーガファイター以上の脅威を感じ取った。

モンスターが人よりもスタミナに優れているのは周知の事実であり、体格からして自分たちの最高速度よりも速い速度で動けると解かってしまう。

「さっき、クロが何かしらに気付いたみたいだったんだが、俺が気付くのが遅れてな……ちっ」

アラッドの失態、と言うには大げさなのだが、本人は自身の警戒心や思考不足を嘆いた。

「その、もしかして先程の個体は、誰かが人為的に暴走させた……ということですか?」

「俺はその可能性が高いと思っている」

魔法が盛んな都市で冒険者として活動している事もあり、三人とも考える頭は持っている。

そのため「そんな事出来る訳ないだろ!!」と叫び散らかすことはなかった。

「……くそっ!!!! いったい、何を考えてるんだ!!」

非道な行いに対し叫ぶ青年に、アラッドは「叫んだところで現状は変わらないぞ」と冷静過ぎる言葉を掛ける気にはならない。

(クロや俺が気付いた内容が正しければ、今回の黒幕の目的は、ある程度絞れてくるな)

アラッドの予想から、一つの黒幕像が消えた。

「単純に考えるなら、復讐者による行動だろ」

「黒魔術、死霊魔法といった類の禁忌に近い魔法を研究している者が黒幕、ということでしょうか」

「俺はその可能性が一番高いと思う」

アラッドが可能性について明言し、三人は一旦深く考え込み……同じく、それしか考えられないという思考に至った。

(とりあえず、伝えた方が良さそうだな)

冒険者ギルドに入る前に、洋紙に今日の一件について記入。

(おっ、丁度良かった)

買い取り所にマジットが運良くおり、手に入れた素材と共にその洋紙を渡した。

「……ありがとう」

周囲には聞こえない小さな声で、アラッドに感謝を告げた。

(…………あの笑顔に、何人の人がやられたんだろうな)

感謝の言葉と同じく、周囲にバレるか否か。
それぐらい短い時間ではあったが、浮かべた笑顔の殺傷力がえぐいと感じたアラッド。

そんなマジットのギャップに多少やられながらも、買取が終了。

「……呑むか」

泊っている宿の食堂で夕食を食べ終えた後、アラッドはぽつりと呟き、宿の従業員にお勧めしてもらったバーに向かい、珍しくそれなりに酒を呑んだ。

勿論、許容範囲を超えるほどは吞んでおらず、翌日には再び事件の手掛かりを見つける為に動いた。
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