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三百七十九話 今回は特例

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「ん? もしや、褒められることに慣れてないのか」

「ま、まぁ……そうだな。面と向かってそんなに褒められると、少し恥ずかしい」

相手の見た目が整っているということもあり、恥ずかしさが倍増。

「ふふ、おかしな人だな。侯爵家の三男ともなれば、人から褒められる機会はいくらでもあっただろうに」

普通に考えれば、マジットの言葉通り、その機会はいくらでもある。

しかし、パーシブル家に仕える騎士や魔法使いたちは、アラッドにとって従者というよりも、家族の一人に近い。
レイたちは当然友人という関係であるため、褒められることに対してそこまで恥ずかしさなどは感じなかった。

そしてアラッドは……最低限社交界には出席していたが、本当に最低限の話。
そのため、殆ど関りがない者から褒められる機会はぁ多くなかった。

「とりあえず、アラッド君には伝えておいた方が良いと思う情報を伝えるよ」

「……対応は嬉しいが、ギルド職員が特定の冒険者を特別扱いするのは、不味いんじゃないか?」

「普通はそうだな。ただ、今回に限ってはギルドもそれを認めている。マジリストンの冒険者ギルドだけじゃなく、他の街でもランク的に基準を満たしていない冒険者であっても、特別に情報を教えてもらっている者たちがいる」

非常に数は少ないが、マジットの言う通り、アラッドの様なルーキーであっても戦力になりえる力を持っていれば、特例として一般公開されていない情報を教えてもらえる。

「アラッドは、その特別に十分当て嵌まっている」

「まぁ、元々その件に関して探りに来たから、お咎めなしであるなら別に構わないが」

事情を聞き終え、軽く食事を取った後……早速マジットはアラッドに盗まれた死体の詳細や、冒険者や兵士が不審な場所で殺された点についてなどの情報を伝えた。

(……死体の中には、Bランク冒険者のものもあるのか。他の死体もそこら辺の死体じゃないというか……明らかに量と質が異常だ。絶対に何かやらかすつもりだな)

墓荒しされた件数や、盗まれた死体の詳細から、アラッドの中で黒幕が変態貴族という線は消えた。

(というか、普通に警備とかされてる墓地から盗み出してるケースもある……黒幕自身が行ってるかどうかは知らないが、斥候技術も中々だな)

マジックアイテムを利用して突破している可能性もあるが、どちらにしろ死体弄りが得意なだけの屑ではないと解かる。

「現在ギルドが得られている情報は、こんなところだ。また新し情報が入れば教えるよ」

「助かるよ……しかし、まだアジトらしき場所も解ってないんだよな……厳しい状況だな」

黒幕がどこまで何を進めているのかは解らない。

しかし、盗んだ死体の情報を考えるに、余裕でそこら辺の村は破壊出来てしまう。
大きな都市でなければ、街を破壊することも不可能ではない。

「ギルドや、その件にあたっている冒険者も尽力を尽くしてるのだがな……あまりルーキーに頼り過ぎるのは組織としていかがなものかと解っている。だが、それでもアラッドたちの力を借りたい」

「元から貸すつもりだ。安心してくれ」

「そうか。感謝する」

「…………」

不意に見せられた笑顔に、アラッドはギリギリ表情にこそ出さなかったが、思わず目を逸らしそうになった。

(ギャップ、か? ちょっと心臓に悪かったな)

何はともあれ、いきなり情報を得られたこともあり、アラッドはその日の内にクロと共にアジトを探し始めた。

冒険者が不審死、もしくは行方不明になった場所なども含めて探す。

「どうだ、クロ」

「……ワフ」

「そうか、残ってなかったか」

気にするなと頭を撫でるアラッドだが、有効な手札を使えないのは少々痛かった。

(確かに、ここ数週間で雨は降った。今までの日数も考えれば、匂いが完全に消えていてもおかしくないか)

雨や失踪、不審死してからの日数。
もしくは……匂いが消された可能性も否定出来ない。

日が沈み始めるまで懸命に探し続けたが、その日は何も手掛かりを得ることが出来ずに終わった。
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