378 / 984
三百七十八話 本人が忘れていた
しおりを挟む
(……どこに、連れていかれるんだ?)
マジットの後に付いて行くアラッドは、自分が何処に連れていかれるのか……少し心配になってきていた。
初めて会った人物だが、ぱっと見悪人には見えない。
ただ、二人で話すのであれば、ギルドの一室でも問題はない。
なのに冒険者ギルドの外を出て、何処かに向かっている。
(まぁ、何が起こっても対処すれば良いだけの話か)
歓迎されてない、とは思わない。
しかし、どんな事態が自身の身に降りかかってきたとしても、対応出来る自信がある。
たとえ……目の前の受付嬢が相手になったとしても。
「すまない、個室を借りたいのだが」
「少々お待ちください」
マジットの後に付いてきた場所は、大通りから少し外れた場所にあるカフェ。
慣れた様子で入り、店員に個室が空いてるか否かを確認。
店員は直ぐに戻り、マジットに個室が空いていることを伝える。
「こちらでございます」
丁寧な対応で案内され、防音や室温が完備された個室へと通された。
「アラッド君、好きなメニューを頼んでくれ。勿論金は私が払う」
「えっ……あぁ、分かった」
奢ってもらえるのであれば、金を持っていても奢ってもらう精神のアラッド。
ひとまず言われた通り、朝食後ではあるが……それでも腹に入りそうなメニューを注文。
そしてメニューが届くまでの間に、アラッドは疑問に思っていたことを尋ねた。
「なぁ、なんでわざわざこんな場所に来たんだ?」
アラッドからの問いを受け、マジットはキョトンとした表情を浮かべた。
彼女がそんな表情を浮かべる、それを見れるのは非常に激レアなのだが……マジリストンに来たばかりのアラッドは、そんな事一切知らない。
「君は現在冒険者ではあるが、同時に侯爵家の三男だ。会話をするにしても、こういった場所で話し合うのがベストだと思ってね」
「あっ、なるほど……そういう考えか」
マジットの対応は決して間違ってはいない。
寧ろ、血筋が気高い貴族と話し合うには、ベストな場所と言える。
とはいえ、本人がそういった自身の血や立場について忘れていたため、少々堅苦しい対応に面食らっていた。
「ふふ、やはり君は良いな。剣士であり、戦士であり……気高さを持つ冒険者でもある」
「お、おぉう。褒められるのは嬉しいんだが、随分と初対面なのに高評価だな」
突然の称賛に驚き、照れるアラッド。
しかし、マジットはアラッドに対して心の底から敬意を持っているからこそ、こういった場所へ話し合いの為に案内した。
相手が貴族の令息や令嬢であっても、全員に対して今回の様な対応を取る訳ではない。
「そうだな。ただ、私は一方的に気をの事を知っているんだ」
「俺の事を一方的に、ですか」
「あぁ、そうだ。アラッド君の戦いぶりは、あの戦いで存分に観させてもらった」
マジットは休暇を利用し、アラッドたちが参加する大会を観に、王都に訪れていた。
光る原石たちは多かった。
彼ら彼女たちが冒険者になることはない。
それで目の前で戦う学生たちが、国を守る一端となる。
そう思うと、アスタル王国の未来は明るいと感じずにはいられなかった。
しかし……そんな宝玉の原石たちの中でも、圧倒的な強さと存在感を放つ特大の宝玉がいた。
マジットの脳内にそんなイメージを与えた存在こそ、当時一応パロスト学園に通う生徒だったアラッド。
「どの試合でも、君の強さ……存在感は群を抜いていた。その中でも、あの決勝戦……眼を閉じれば、今でもでも鮮明に思い浮かぶ。それほどまでに、観ていた私たちに強烈な衝撃、感動を与えた一戦だった」
「……」
敬語は止めてくれと言われ、現在褒めちぎるという表現を超える言葉を受け取っている……と本人は感じ取っており、嬉しさと照れがマックスまで高まっていた。
故に、どう返して良いのか分からず、完全に固まってしまった。
マジットの後に付いて行くアラッドは、自分が何処に連れていかれるのか……少し心配になってきていた。
初めて会った人物だが、ぱっと見悪人には見えない。
ただ、二人で話すのであれば、ギルドの一室でも問題はない。
なのに冒険者ギルドの外を出て、何処かに向かっている。
(まぁ、何が起こっても対処すれば良いだけの話か)
歓迎されてない、とは思わない。
しかし、どんな事態が自身の身に降りかかってきたとしても、対応出来る自信がある。
たとえ……目の前の受付嬢が相手になったとしても。
「すまない、個室を借りたいのだが」
「少々お待ちください」
マジットの後に付いてきた場所は、大通りから少し外れた場所にあるカフェ。
慣れた様子で入り、店員に個室が空いてるか否かを確認。
店員は直ぐに戻り、マジットに個室が空いていることを伝える。
「こちらでございます」
丁寧な対応で案内され、防音や室温が完備された個室へと通された。
「アラッド君、好きなメニューを頼んでくれ。勿論金は私が払う」
「えっ……あぁ、分かった」
奢ってもらえるのであれば、金を持っていても奢ってもらう精神のアラッド。
ひとまず言われた通り、朝食後ではあるが……それでも腹に入りそうなメニューを注文。
そしてメニューが届くまでの間に、アラッドは疑問に思っていたことを尋ねた。
「なぁ、なんでわざわざこんな場所に来たんだ?」
アラッドからの問いを受け、マジットはキョトンとした表情を浮かべた。
彼女がそんな表情を浮かべる、それを見れるのは非常に激レアなのだが……マジリストンに来たばかりのアラッドは、そんな事一切知らない。
「君は現在冒険者ではあるが、同時に侯爵家の三男だ。会話をするにしても、こういった場所で話し合うのがベストだと思ってね」
「あっ、なるほど……そういう考えか」
マジットの対応は決して間違ってはいない。
寧ろ、血筋が気高い貴族と話し合うには、ベストな場所と言える。
とはいえ、本人がそういった自身の血や立場について忘れていたため、少々堅苦しい対応に面食らっていた。
「ふふ、やはり君は良いな。剣士であり、戦士であり……気高さを持つ冒険者でもある」
「お、おぉう。褒められるのは嬉しいんだが、随分と初対面なのに高評価だな」
突然の称賛に驚き、照れるアラッド。
しかし、マジットはアラッドに対して心の底から敬意を持っているからこそ、こういった場所へ話し合いの為に案内した。
相手が貴族の令息や令嬢であっても、全員に対して今回の様な対応を取る訳ではない。
「そうだな。ただ、私は一方的に気をの事を知っているんだ」
「俺の事を一方的に、ですか」
「あぁ、そうだ。アラッド君の戦いぶりは、あの戦いで存分に観させてもらった」
マジットは休暇を利用し、アラッドたちが参加する大会を観に、王都に訪れていた。
光る原石たちは多かった。
彼ら彼女たちが冒険者になることはない。
それで目の前で戦う学生たちが、国を守る一端となる。
そう思うと、アスタル王国の未来は明るいと感じずにはいられなかった。
しかし……そんな宝玉の原石たちの中でも、圧倒的な強さと存在感を放つ特大の宝玉がいた。
マジットの脳内にそんなイメージを与えた存在こそ、当時一応パロスト学園に通う生徒だったアラッド。
「どの試合でも、君の強さ……存在感は群を抜いていた。その中でも、あの決勝戦……眼を閉じれば、今でもでも鮮明に思い浮かぶ。それほどまでに、観ていた私たちに強烈な衝撃、感動を与えた一戦だった」
「……」
敬語は止めてくれと言われ、現在褒めちぎるという表現を超える言葉を受け取っている……と本人は感じ取っており、嬉しさと照れがマックスまで高まっていた。
故に、どう返して良いのか分からず、完全に固まってしまった。
197
お気に入りに追加
6,083
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる