上 下
374 / 985

三百七十四話 真っ当なプラン

しおりを挟む
「な、なぁ! ちょっと待ってくれ!!!」

アラッドが訓練場から退散しようとすると、一人のルーキーが引き留めた。

「なんだ?」

「その、お前は……なんでそんな強いんだ」

純粋な疑問。
何故、自分と歳が変わらない……寧ろ、若干歳下であるアラッドに、自分たちはここまで無様に負けたのか。
何故ここまで大きな実力差があるのか、今一度本人に尋ねたかった。

「なんでと言われてもな。強くなろうと思って、努力を始めたのが早かった。後、強くなる為の環境が整っていた。その二つに限るな」

血筋による才能の遺伝なども無関係ではないが、冷静に今までの人生を振り返ると、その二つの点が他者と大きな開きをつくった要因に思える。

「ッ……そ、そうか」

結局は貴族の屋敷に生まれた令息だからこそ、強くなるのも早かった。
そう思い……先輩冒険者との約束もあり、その理不尽な差に大声でアラッドを非難することはなかった。

それでも、生まれてきた環境や才能の差に、恨みや妬みといった感情を持つなというのは、無理な話。

「……全員沈んだ表情してるけど、もう少し計画を立てて行動したらどうだ」

訊かれた質問には答えたため、これ以上アラッドが何かを言う必要はない。

だが、何が理由に良心が動いたのか、アラッドは彼らにアドバイスを与えた。

「冒険者の引退時期は、大体四十歳だろ。人族以外の種族は違うかもしれないが、俺と同じ人族は大体それぐらいだろ」

アラッドの言葉に、模擬戦を眺めていた引退してギルド職員になった元冒険者は、同意するように頷いた。

「肉体のピークは、多分……二十代後半ぐらいか。欲を言えば、全盛期を二十代前半までに到達することが出来れば、五年間ぐらいは冒険者として全盛期を謳歌することが出来る」

「「「「「「…………」」」」」」

まだアドバイスの途中ではあるが、殆どのルーキーがいまいちアドバイスの詳細を理解していなかった。

(貴族の令息ってのは、どいつもこいつもアラッドみたいに超優秀なのか?)

(冒険者という職業に就く貴族の令息や令嬢は、対人戦では優れている場合が多いが……ここまで未来を見通している者は、そういないだろうな)

しかし、ルーキーたちに対するアドバイス内容を聞いているベテラン組は、アラッドに対する評価を更に上げていた。

「お前ら、まだ二十にも達してないだろ。だったら、肉体がピークを迎えるまでにどうやって強くなるか、きっちり計画を立てて動いたらどうだ? 普通に考えれば、怪しいデメリットだらけの薬とか禁忌魔法とか使わない限り、一瞬でパワーアップするのなんて不可能なんだからさ」

アラッドは確かに同世代の猛者と比べても、頭三つか四つ抜けた実力を有している。

だが、それは十数年間もの間、絶え間なく鍛錬と実戦を重ね続けて得たもの。
ルーキーたちはそれらを初めて、まだ十年も経っていない。

それにもかかわらず、アラッドの生まれや力に嫉妬するなど、笑止千万と言える。

「そりゃ安全な生活が保障されてる訳じゃないから、辛いとは思うぞ。ただ、本当に強くなりたいなら、年単位の努力をみっちり重ねたら、それなりに結果は出ると思うぞ」

「「「「「「…………」」」」」」

アラッドの言葉に、何人かは「そんな余裕ある訳ねぇだろ! ふざけんな!!!」と言い掛かったが、冷静に伝えられたアドバイス内容を考えれば、無茶過ぎる内容ではない。

非常に真っ当な実力アッププラン。

「まっ、上を目指したくないなら今まで通りの生活を送れば良い。年単位の努力を持続させるのだって、決して楽じゃないだろうからな」

ルーキーたちへのアドバイスを言い終えると、今度こそアラッドはその場から去った。

「言っとくが、アラッドはお前らを煽った訳じゃねぇぞ。寧ろ、お前たちが強くなれる道を示したんだ。これ以上、アホなこと考えるなよ」

それだけ言い終えると、ベテランたちも訓練場から去っていった。

そして残ったルーキーたちは……今回の一件について、じっくり話し合いを始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...