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三百六十九話 そこを否定するのは、良くない
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アラッドは、目の前の所々汚れた白衣を着ている男……ラスターが自分のその点に関して知っていることに、少々驚き固まった。
(俺、この街に来てからその話をしたか? ……してないよな)
ゴルドスに到着してからの日々を思い出すが、キャバリオンに関して誰かと話をした覚えはない。
その記憶は間違っておらず、ラスターの言葉を聞いた多くの冒険者は、頭の上にはてなマークを浮かべていた。
「…………その、俺に凄い感謝してくれているのは、本当にマジで良く解りました、解ったので、できれば頭を上げてください」
「そこまでおっしゃられるのであれば、分かりました」
ラスターにとって、アラッドはまだ二十を超えていない若輩でありながら、錬金術に新たな可能性を示し、実現させた……年齢など関係無く、先輩と感じるほどの人物。
そんな人物が侯爵家の三男ということも知っているため、本人に丁寧な言葉で頭を上げてくれと言われれば、これ以上腰を折り続けるのは失礼だと判断した。
「ですが、今回の一件に関しては本当に感謝してもし足りません」
「そうみたいですね。一応、俺も錬金術を嗜んではいるので、あたなの……レスターさんの気持ちは解らなくもありません」
アラッドも幼い頃から錬金術に関わっていたため、ユニコーンの角という素材には興味があった。
一時、本気で購入しようかと考えてはいたが、値段は見て少なくない衝撃を受けた。
加えて……そもそも自身が製作するキャバリオンには使わない素材だったこともあり、結局購入はしなかった。
「ただ、ユニコーンの角を手に入れられたのは、本当に偶然です。何かしらの策があった訳ではありません」
「えぇ、そちらに関しては既にギルドの方から伝えられました。ただ……その偶然に関して、アラッド様が今まで積まれてきた全てがあってこそ、巡り合えたものだと僕は思っています」
歳上の大人から、嫌味や冗談が含まれていない真剣な眼差しで褒められると、非常にむず痒い。
更に、アラッド様という呼ばれ方に関しても、できれば止めてほしいというのが本音。
ラスターは錬金術として中より上の実力は持っているが、それでも相手が侯爵家の三男ともなれば、様付けで呼ぶのは当然と思っており、抵抗感など一切ない。
それはアラッドも頭では理解しているが、それはそれでこれはこれという話。
「ラスターさん、あの」
「アラッド様、さん付けなどではなく、呼び捨てでお願いします」
ラスターにとっては、その逆もしかりだった。
「……ラスター。その、様付けで呼ぶのは止めてほしい」
「…………」
まさかの言葉に、ラスターは考え過ぎるあまり、完全に固まった。
感謝の内容と同じく、アラッド側にそこまで言われては、対応を変えなければならないという思いはある。
ただ……ラスター自身の認識として、アラッドは身分の話だけではなく、錬金術師としての立場に関しても、自分より上なのだ。
そんな尊敬する人物から「様付けでは呼ばないでほしい」という言葉に、どう対応すべきか……全く良い答えに辿り着かない。
「アラッド、呼び方に関してはそこまで気にしなくても良いんじゃねぇか?」
そこで、一人の先輩冒険者がラスターに助け舟を出した。
「お前がそういう呼び方にむず痒さを感じる、良い奴だってのは解かる。でもな、ラスターにとっては……あれだ、その呼び方が絶対と思ってるほど、お前に敬意を持ってるってことだ」
自分の考えや思いをスパッと代弁してくれた馴染みの冒険者に、ラスターは今度タダでポーションを数本渡してやろうと決めた。
「そこを否定されると、ラスターのお前に対する敬意まで否定することになる……と、俺は思う訳だ」
「な、なるほど」
助け舟を出した先輩冒険者も、キャバリオンというマジックアイテムには聞き覚えがあった。
今までになかった存在を生み出した。
その内容を冒険者……戦闘者に置き換えた時、それがどれだけの功績なのか解らなくもなかった。
(俺、この街に来てからその話をしたか? ……してないよな)
ゴルドスに到着してからの日々を思い出すが、キャバリオンに関して誰かと話をした覚えはない。
その記憶は間違っておらず、ラスターの言葉を聞いた多くの冒険者は、頭の上にはてなマークを浮かべていた。
「…………その、俺に凄い感謝してくれているのは、本当にマジで良く解りました、解ったので、できれば頭を上げてください」
「そこまでおっしゃられるのであれば、分かりました」
ラスターにとって、アラッドはまだ二十を超えていない若輩でありながら、錬金術に新たな可能性を示し、実現させた……年齢など関係無く、先輩と感じるほどの人物。
そんな人物が侯爵家の三男ということも知っているため、本人に丁寧な言葉で頭を上げてくれと言われれば、これ以上腰を折り続けるのは失礼だと判断した。
「ですが、今回の一件に関しては本当に感謝してもし足りません」
「そうみたいですね。一応、俺も錬金術を嗜んではいるので、あたなの……レスターさんの気持ちは解らなくもありません」
アラッドも幼い頃から錬金術に関わっていたため、ユニコーンの角という素材には興味があった。
一時、本気で購入しようかと考えてはいたが、値段は見て少なくない衝撃を受けた。
加えて……そもそも自身が製作するキャバリオンには使わない素材だったこともあり、結局購入はしなかった。
「ただ、ユニコーンの角を手に入れられたのは、本当に偶然です。何かしらの策があった訳ではありません」
「えぇ、そちらに関しては既にギルドの方から伝えられました。ただ……その偶然に関して、アラッド様が今まで積まれてきた全てがあってこそ、巡り合えたものだと僕は思っています」
歳上の大人から、嫌味や冗談が含まれていない真剣な眼差しで褒められると、非常にむず痒い。
更に、アラッド様という呼ばれ方に関しても、できれば止めてほしいというのが本音。
ラスターは錬金術として中より上の実力は持っているが、それでも相手が侯爵家の三男ともなれば、様付けで呼ぶのは当然と思っており、抵抗感など一切ない。
それはアラッドも頭では理解しているが、それはそれでこれはこれという話。
「ラスターさん、あの」
「アラッド様、さん付けなどではなく、呼び捨てでお願いします」
ラスターにとっては、その逆もしかりだった。
「……ラスター。その、様付けで呼ぶのは止めてほしい」
「…………」
まさかの言葉に、ラスターは考え過ぎるあまり、完全に固まった。
感謝の内容と同じく、アラッド側にそこまで言われては、対応を変えなければならないという思いはある。
ただ……ラスター自身の認識として、アラッドは身分の話だけではなく、錬金術師としての立場に関しても、自分より上なのだ。
そんな尊敬する人物から「様付けでは呼ばないでほしい」という言葉に、どう対応すべきか……全く良い答えに辿り着かない。
「アラッド、呼び方に関してはそこまで気にしなくても良いんじゃねぇか?」
そこで、一人の先輩冒険者がラスターに助け舟を出した。
「お前がそういう呼び方にむず痒さを感じる、良い奴だってのは解かる。でもな、ラスターにとっては……あれだ、その呼び方が絶対と思ってるほど、お前に敬意を持ってるってことだ」
自分の考えや思いをスパッと代弁してくれた馴染みの冒険者に、ラスターは今度タダでポーションを数本渡してやろうと決めた。
「そこを否定されると、ラスターのお前に対する敬意まで否定することになる……と、俺は思う訳だ」
「な、なるほど」
助け舟を出した先輩冒険者も、キャバリオンというマジックアイテムには聞き覚えがあった。
今までになかった存在を生み出した。
その内容を冒険者……戦闘者に置き換えた時、それがどれだけの功績なのか解らなくもなかった。
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