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三百六十三話 欲は人もモンスターも変わらない

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「ワゥ!!」

「おう、おはよう。クロ」

テントから出てきた主人に、早速先日の夜に何があったのかを伝えるクロ。

念話というレアスキルを習得していないため、クロからアラッドに正確な情報を伝えるのは難しい。
そこでクロは地面に絵を描き、先日の夜に何があったのかを伝えた。

「……クロが警戒するほどの何かが、俺が寝てる間にぶつかり合ってたってことか?」

「ワゥ!」

「そうか……教えてくれてありがとな」

なんでその時に起こしてくれなかったんだ、とは言わなかった。

ぶつかり合う二つの存在のうち、片方がユニコーンだった可能性はある。
しかし、自分を気を使ったため、自分が起きてきたこのタイミングで伝えてくれたのだと、直ぐに理解した。

伊達に長い間一緒に生活しておらず、それぐらいのコミュニケーションは朝飯前だった。

(にしても、クロが警戒するほどの何か、か……やっぱり、片方はユニコーンか? そうであるなら、個人的に嬉しい情報だ)

現地点周辺の森を探索すれば、巡り合える可能性がゼロではない。
それが解かっただけでも、アラッドにとっては大きな収穫。

ただ、仮に夜中にぶつかり合っていた片方の存在が、ユニコーンだとして、そのもう片方の存在はいったい何なのか……そこが気がかりなとなる。

「同業者……って可能性は捨てきれないけど、同じ人間であるなら、裏の人間の方が可能性は高いよな」

裏の人間であれば、夜という視界が悪い環境で普段通り動ける、というアラッドの見解は間違っていない。

「だとすれば、夜中の間に決着が着いたか?」

チラッと焼き肉を食べるクロの方に顔を向けると、主人の言葉を理解しており、首を横に振って答えた。

昨夜、戦闘音などが消えるまで、完全に意識が目覚めていたクロ。
最終的に戦闘音などは消えたが……消えるまでに、断末魔のような声は一つも聞こえなかった。

「なら、一安心ではあるな」

しかし、自分以外にもユニコーンを狙う者がいるかもしれないという情報に、少し心に焦りが生まれる。

(よっぽど馬鹿じゃない限り、ユニコーンが逃げ足が速いだけじゃなくて、戦闘能力が高いってことも理解してる筈。であれば、腕が低い人が狙うことはまずない……って、人じゃない可能性もあるか)

当然といえば当然だが、人ではなく同じモンスターもユニコーンを狙うことある。

ユニコーンの肉には滋養強壮や、寿命を延ばす効果がある……と言われている。
実際に食べた人が少ないので、確かな確証はないのだが、そういった効果を狙う者たちもいる。

そういった効果を欲する欲まみれなのは人間だけではなく、モンスターも同じ。

一度ユニコーンを倒し、その肉を食らえば……もう一度その効果を欲し、狙い続けるモンスターも存在する。

一度人の肉を食べ、その味を覚え……意識的に人を襲い、肉を食べようとするモンスターも存在するため、アラッドのライバルが同じ人だけとは限らない。

「……でも、むやみやたらに走って探せば、それはそれで警戒されるよな……」

もりもり朝食を食べながら、結局は今まで通り探すしかないという結論に至った。

探索中、中々ユニコーンは見つからないものの、その他のモンスターは好戦的な個体が多く、実戦の相手には困らない。

「ゴブリンまで躊躇なくクロに襲い掛かる、か……元気が有り余ってるのか?」

死体から魔石を取り出し、再び探索へ戻る。

そのまま時間が過ぎ、アラッドは適当な場所で昼食の準備を始めた。

(モンスターの肉や魔石、素材は探索してるだけで集まる……それは悪くないんだが……)

そろそろ何か一つ、刺激が欲しい。

そう思い始め、食べ終えた食器を片付けようとした瞬間、地面が砕ける音がアラッドとクロの耳に入った。

「っ!? ようやくチャンスが巡ってきたか!」

自分の眼で見るまで分からないと思いながらも、アラッドの鼓動は高鳴り始めていた。
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