上 下
351 / 1,012

三百五十一話 まだイメージが湧かない

しおりを挟む
(しまった、依頼主の元に行って、リネア嬢の匂いをクロに覚えさせれば良かったな)

現在、アラッドはクロの背中に乗ってリネア・ハルークスと護衛数人を捜索中。

既にゴルドスからそれなりに離れて行動している為、一旦戻るのが面倒に感じた。

(まっ、クロの脚なら今日中に見つかるよな)

Aランクの狼系モンスターであるクロの脚力は、同じAランクの冒険者よりも速い。
スタミナに関しては言うまでもないため、それらに頼って探しても問題無い。

(それにしても、本当に誰に襲われて帰ってこないんだ? 何かに襲われて、体力や時間的に街へ戻ってこれなかった……とは思えないな)

ゴルドス周辺は高低差はあれど、森林と比べれば木々の量は遥かに少ない。
そのため、あまり隠れることには適しておらず、モンスターも標的を鼻で追えなくなることは殆どない。

先日の夜に雨が降った訳でもないので、仮にリネアたちがモンスターに襲われていたのであれば……既に生きていない可能性の方が高い。

(仮にモンスターに襲われたのであれば、十以上のCランクモンスター……もしくは、Bランクのモンスターに襲われたのかのどちらかだな)

騎士の地位を得るほどの護衛であれば、Cランク一体に後れを取ることはない。
五体まで数が増えたとしても、騎士が二人とそこそこの腕を持つ魔法使い一人がいれば、モンスターの種類にもよるが、倒せない戦力ではない。

しかし、数がそれ以上増えてしまうと……完全に数の暴力の方が勝る。
上手くいったとしても、護衛対象であるリネアを逃がすのが精一杯。

(……俺の見方が正しければ、Cランクモンスターが十体程、もしくはBランクモンスターに襲われたとしても、リネア嬢一人だけを逃がすことなら出来そうな戦力だが……もしかして、Aランクモンスターにでも襲われたのか?)

仮にAランクモンスターが原因となれば、非常に不味い事態。

まず、ゴルドスに滞在している冒険者たちや、コラスタ・ハルークスが所有する私兵を投入しても、勝てるかかなり怪しい。

ぶつかった結果勝利したとしても、多くの犠牲が出てしまう。

(本当にAランクモンスターが原因なら……情けないが、全力でクロの力に頼ることになるな)

十五歳にしてはあり得ない戦闘力を身に付けているアラッドだが、ソロでAランクモンスターを倒すには、まだ戦力が足りない。

狂化を最大限まで使用し、烈風双覇断を使用しても……確実に勝てる保証はない。
Aランクモンスターの強攻撃でもぶつけられては、半分以上は相殺されてしまう可能性がある。

(烈風双覇断に関しては、まだまだ父さんの猛火双覇断には及ばないしな……まっ、まだまだ訓練と実践あるのみってところか)

己の全てを賭したとしても、身近なAランクモンスターであるクロや、オーアルドラゴンに勝てるイメージが湧かない。

「……ワゥ!」

「ん、どうした? 何か気になる匂いでも感じたか?」

「ワゥ」

「マジか、こりゃラッキーだな」

ゴルドス周辺……といっても、どこまで周辺となるか曖昧なところ。

クロの脚やスタミナは半端ないが、それでももう少し時間が掛かると思っていたアラッドにとって、吉報だった。

「ん? あれは……オーク、じゃないな。オークナイトか」

一定の距離でクロはストップ。
アラッドは背中から降り、オークナイトに見つからないように岩陰に隠れた。

(数は二体。それだけなら俺だけでも問題はない……でも、なんで直立不動で立ってるんだ?)

二体のオークナイトは、まるで何かを守るために見張りをしている様に見える。

(この一からじゃ、ちゃんと見えないけど……もしかして、盗賊のアジト的な巣があるのか?)

だとすれば、まだリネアやその護衛たちが生きている可能性はある。

可能性はある、が……どちらにしろ、彼女たちにどんな運命が待っているのか、想像出来てしまったアラッドは表情を歪めるも、クロとの突撃を決めた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

言祝ぎの聖女

しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。 『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。 だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。 誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。 恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...