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三百四十九話 他者への風評被害

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ギルのパーティーメンバーだったルーキーたちに何発も正論パンチを浴びせた翌日、そのルーキーたちや、冒険者ギルドから追放されたギルに、背後から襲われることはなかった。

「よう、アラッド。一緒に晩飯食べねぇか」

「……奢りなら良いですよ」

「ったく、しょうがねぇな!」

その日の夜、本日も軽く討伐依頼をこなし、ギルドを出ようとすると……一人の先輩冒険者から夕食を誘われた。

ぶっちゃけな話、面識がない先輩。
ただ、現段階で横の繋がりが限りなく薄い……どころか、無いに等しいため、縦の繋がりぐらいはと思い、奢ってくれるならという条件付きで乗った。

「んで、どうよ」

「何がですか?」

「依頼をこなしてる最中に、あいつらに襲われたりしなかったか?」

「いえ、特にそんなことはありませんでしたよ」

何かを隠している訳ではなく、本当に何もなかった。

仮にギルが逆恨みで襲って来れば、さすがのアラッドも殺している。
元パーティーメンバーのルーキーたちが襲ってきた場合は、腕か脚を一本はバラバラに切断し、燃やし尽くしす。

仏ではないため、そう何度も見逃すことはない。

「そうか。そりゃ良かったな」

「昨日、エリアスさんとレストランから出た後に、文句をぶつけられましたけどね」

「っ!?」

先輩冒険者はまだ口にある料理が料理を吹き出しそうになったが、なんとか堪えて飲み込んだ。

「はぁ~。あいつら、マジか」

「マジですよ。色々正論をぶつけたら黙りましたけど、まだまだ俺に恨みは持ってそうですね」

「あの件でこりてねぇのかよ……悪いな。後輩たちが迷惑かけて」

「先輩が謝ることではないと思いますよ…………冒険者は性格上、相手に嘗められないのが重要ですからね」

同業者であろうがた職業の物であろうが、貴族や商人が相手でも、嘗められてはならない。
勿論その線引きに限度はあるが、そういう気持ちが重要なのは間違いではない。

「それは間違ってないんだけどよ。つか……アラッドは、何であいつらからあんなに遠慮なしに言われて、冷静に対応出来るんだ?」

アラッドを夕食に誘った先輩冒険者も、Cランク冒険者として、ある程度のプライドを持っている。

貴族であれば、自分以上のプライドを持っているというのが正直な感想。
どころか、先輩冒険者は今までの冒険者人生から、そうとしか思えなかった。

なので、アラッドほど特別な存在ではないルーキーにダル絡みされたにも関わらず、冷静に良い意味で大人な対応をする貴族の令息は非常に珍しい。

「俺とあいつらでは、色々と違う。その色々を正確に認識出来ているから。それと……あんまり俺が横暴な態度を取ってると、他の冒険者をやってる令息や令嬢、真面目に仕事に取り組んでいる領主や騎士に迷惑が掛かると思ってるんで」

「…………お前、本当に大人だな」

思わず、目の前で夕食を食べている少年は、善神かと思ってしまった先輩冒険者。

精神年齢に体が追い付いたので、ぶっちゃけまだ子供ではある。
ただ、一度転生したことで、俯瞰の視点は一般的な大人並み。

先輩冒険者がそう思ってしまうのは、当然といえば当然だった。

「そんなことありませんよ。俺はギルドの一件……あの状況を面白いなと思ってましたから」

「うん、それは俺らも同じ気持ちだったよ」

「そう言ってもらえると気が楽になります……ギルの目標、夢を奪ったことは、少々やり過ぎたかと思ってますけど」

元が一般庶民なので、心苦しい部分はあった。
しかし、その点に関してはエリアスと同じく、先輩冒険者はその後悔を否定した。

「あれで良いんだよ。正直、あそこまで馬鹿だと、いつか何処かで身を亡ぼすのは確実だったしな。遅かれ早かれの話だ」

自分の決断は間違ってないと肯定され、またほんの少し心が軽くなった。

先輩冒険者の奢りだったという事もあり、更にたらふく食って帰った……その日の翌日、冒険者ギルドに到着したアラッドの耳に、中々大きな話題が入った。
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