上 下
344 / 1,023

三百三十四話 それぞれの反応

しおりを挟む
「こいつは返すよ」

奪ったロングソードを返し、少年から離れる。

「それでは、こいつの除籍と再登録の不可をお願いします」

「はい!!!」

決闘の光景をしっかりと見ていた受付嬢は、駆け足でカウンター内に入り、書類の作成を始める。

「ほら、これから除籍を行うんだから、お前が持ってるギルドカードは、ちゃんとギルドに返せよ」

「あっ……まっ」

「待たないよ。じゃぁな」

依頼を受ける気分が失せたアラッドは、宿に戻る……ことはなく、とりあえず街に外に出た。

(な、何か面倒な輩に絡まれたのか?)

門兵は普段のアラッドを知っている為、明確に怒りが表情に現れていることに驚いた。

容姿は少々強面だが、それでも普段からイライラしていることはなく、寧ろ優しさを感じる。

今回の一件で、勿論人に当たるような行動はしない。
それでも……表情に全く出さないというのは不可能だった。

(はぁ~~~~……やっちまった。いや、妥当か? 仮に妥当だとしても……イメージダウンには繋がるか)

結果的に、今回アラッドが決闘に勝った時の条件として、若いルーキーの冒険者という身分の剝奪と、追放。
それらを提示し、若いルーキーは飲んだ。

一般的には決闘で賭ける内容としては、殆ど例がない内容。

(横の繋がり、縦との繋がりは重用だけど……それに頼って生活する訳じゃないし、これ以上考えても仕方ないか)

今回の結果で、アラッドに瞬殺されたルーキーは勿論、そのルーキーのパーティーメンバーたちにとって、悲しい結末となった。

関係無いルーキーたちは、今回の一件で絶対に怒らせてはいけない奴という認識を持つことになった。

そんなルーキーたちに対し……ベテランたちは、良くあそこまで若いルーキーからの口撃に耐えた、大人な対応をしたと評価していた。
一般的な冒険者であれば、プライド的な問題で、アラッド程我慢する……もしくは受け流すことが出来ない。

それらの理由から、今回の出来事で特にアラッドを貴族的な意味で恐ろしい奴だとは思っていない。

そして最後にギルド職員たちは……若いルーキーを除籍、永久追放する件に関して、全く抵抗がなかった。

第一に、先日アラッドに上から目線で絡んだ時に、心底ひやひやさせられた。
基本的に冒険者同士に争いに関して、ギルド職員は介入出来ない。
とはいえ、アラッドは侯爵家の三男であり、騎士の爵位を持つ貴族。

あの時点で、ギルド職員たちは後から他の冒険者たちに非難されても、若いルーキーの口を閉じさせるか、本気で迷っていた。

その件に関してはアラッドが大人な対応を取ったため、事なきを得た。

ただ、先程に二度目の衝突。
アラッドの細かい事情については知らないギルド職員達でも、本能的に察した。

若いルーキーは、アラッド・パーシバルの踏んではいけない部分を、思いっきり踏んでしまったと。

もうこの時点で、ギルドとしては若いルーキーに一言も喋らないでほしかった。
最悪の場合、ゴルドスのギルドが、アラッドと……パーシブル侯爵家と敵対するかもしれない。
そう思うと……背筋が凍るどころの話ではない。

今後の未来を考えた時、絶対にアラッドが若いルーキーに提示した条件を実行すべき!!!
結果として若いルーキーが瞬殺されたため、ギルドは直ぐにその準備に取り掛かった。

贔屓だ!!! と思われるかもしれない。
そして、ある意味贔屓ではあるが、それでも若いルーキーがやらかしてしまった罪を考えれば、腕の一歩や二本を斬り落とされていてもおかしくない。

結果として職を失う事にはなったが、戦って行きたければ、傭兵として生きていく道もある。

冒険者の資格を剥奪、追放とはいっても、他国に行けば一応問題はない。
そういった苦労はすれど、生きていける道は残している。

ギルド職員たちはアラッドの優しさに感心半分、本当にこの程度の罰で良いのか不安半分だった。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。 彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

処理中です...