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三百二十七話 これで良い

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「……」

「……」

バッタリ遭遇してしまった二人は、数秒間ほど固まってしまった。

(って、なんで汗かいてるんだ?)

学生による大会が終了し、本日は先程までパーティーが開かれていた。

しかし、何故かドラングが目の前に言える。

(パーティーではチラッと見かけた気がするんだけどな)

記憶が確かであれば、パーティーに参加していた……はず。

「なぁ、パーティーに参加してた、よな?」

「ちっ……あぁ、そうだよ。最初だけな」

そう、アラッドの記憶通り、ドラングは最初の方だけパーティーに参加していた。

「なんでだ? 美味い飯大量にあったのに」

アラッドにとっては、それを食べるだけであの場にいる価値がある。
しかし……ドラングにとっては、あまり居心地が良い空間ではなかった。

その為、用事が済めば速攻で退室。
アイガストたちは引き留めようとしたが、ドラングは友人たちを適当にあしらい、学園の訓練場に訪れた。

そして、ようやく現在訓練を終えたところ。

「今回の結果に納得してねぇ。それでパーティーを途中退室する理由には十分だろ」

大会に参加した生徒たちにとって、あの場は就職活動を行う場。
大会に参加し、それなりの結果を残した者たちにとっては、どんな用事があっても抜け出すことはない。

ドラングとしては、そのパーティーを放り出しても、訓練をしたいと思っていた。
だが……将来のことを考えると、完全に放り出すわけにはいかない。

アラッドに群がっていた騎士、騎士団の関係者たちが解散し……十分ほど経ってから、パーティー会場から抜け出した。

「……ふふ、そうか」

今回の結果に納得してない。
その言葉を聞いただけで、アラッドは途中退室した理由に納得。

「また機会があれば戦ろうな」

「……」

さすがに今すぐは戦りたくないが、また戦っても良い。
そんな気持ちが、自然と溢れた。

「次は、ぶっ潰す」

差し出された手に、応えないという選択肢もあった。
ただ、ここでそんな真似をすれば、何故かアラッドに負けたと感じ、握手に応じた。

応じながらも、そこはドラングらしく、爽やかな言葉は出てこなかった。

「次も俺が勝つよ」

そう返し、二人は自室へと戻った。

仲が良くなったわけではない。
普通に考えれば、まだまだ自分のことを気に入らないと思っている。

仮にも兄弟であるため、それぐらいの本心は解る。

しかし、無理に仲良くなる必要はないと思っているアラッド。
それに関しては、例えフールやリーナに頼まれても、無理だと答える。

(俺とドラングは、これぐらいの関係が丁度良いだろう)

自分からどうにかしようと声を掛けたところで、逆効果になるのは目に見えている。

もう……自分とドラングはそういう関係なのだ。
頑張るだけ無駄。
他人がなんとかしようとするだけ無駄なのだ。

アラッド的に、良い感じに弟との仲を良い意味でバチバチな空気を継続出来たので、それだけでも学園に入学した意味はあったと思えた。

そして大会を終えてから二日後……担任であるアレクから騎士爵を授与される日を伝えられた。

「明日、ですか」

「うん、明日だね」

早い方が良いとは思っていたが、予想よりも早かった。

「その日は、正装で行った方が良いですよね」

「ん~~~、制服も正装といえば正装だから、どちらでも構わないよ」

「そうなんですか? なら、制服で行こうかな」

父と母が選んでくれた新しい正装が嫌い、というわけではない。
寧ろ自分の五のみのデザインなため、これからも重宝しようと思っている。

しかし、正装姿になるのは堅苦しく感じるため、できることなら遠慮したい。

「それで良いと思うよ。それにしても……本当に半年も経たず卒業するとはね」

「俺の実力を疑ってたんですか?」

「そんなことはないよ。ただ、普段の訓練で君の全ての手札を観てた訳じゃないからね」

フローレンスが光の人型女性精霊、ウィリスを召喚した時……そのウィリスと単語ソウルユナイト精霊同化した時は、本気で終わったと思った。

(まさか、あそこまで狂化を長時間、意識を失わずに使用できるとはね……間違いなく、史上最強の学生だ)

この記録が打ち破られることはない。
アレクは、自分の一年間分の給料を賭けても、そう断言出来た。
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