上 下
317 / 1,012

三百十七話 野郎たちのファインプレー

しおりを挟む
「勝者、アラッド・パーシバル!!!!」

審判がアラッドの勝利を宣言した瞬間……ジャン・セイバーの女性ファンたちが口を開く前に、野郎たちの称賛が会場に響き渡る。

そのお陰もあったが、ファンとしては不満があるものの、誹謗中傷が飛び交うことはなかった。

「お疲れ様、アラッド」

「おぅ、ありがとな」

大勢の観客たちの声が飛び交う中、何故か友人たちの声援は良く聞こえていた。

野郎たちの声援も嬉しかったが、やはり友人たちからの声援は確実に心の支えとなっていた。

「はっはっは、災難だったなアラッド」

「はは、そうだな。まさかあんな事になるとはな……まっ、仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけどさ」

中々試合を決めなかった自分が悪い。
アラッドは自分にも非があった……と思っているが、レイたち女性陣はあの状況に怒り心頭だった。

「……思ったんだけどさ、なんであっさり決めなかったの」

「いや、決めようとは思ってたぞ。結構重めに打撃をぶち込んだんだけど……ジャン・セイバー先輩も、生半可な鍛え方をしてなかったってことだろ」

実際のところ、内臓をやってしまわない程度の威力で打撃を繰り出していた。

とはいえ、それでもアラッドの一撃一撃で激痛を感じていたのは間違いない。

「俺に恨みとかはなさそうだったから……心の底から、フローレンス・カルロストとの決勝戦を望んでいたんだろうな。その執念が半端じゃなかった」

「何発も良い攻撃を貰っても立ち上がってたもんな」

「俺としてはギブアップしてくれた方が嬉しかったんだけどな」

その方が個人的に有難かった。
だが……ジャン・セイバーの執念を感じ取ってしまえば、自分の口からそれを促すことは出来なかった。

「でも、強かったよ。もっと違う戦い方をされたら、場外に吹き飛ばされてたかもしれないな」

「あり得ないとは言えない強さは持ってたよな……んで、次はもう決勝だけど、どうよ」

現在、アラッドたちの視線の先ではタッグ戦トーナメントの準決勝が行われている。

その二試合が終われば、いよいよアラッドとフローレンスの決勝戦が始まる。

「……とりあえず、あの人何か隠してるだろ」

レイとの準決勝戦を見て、殆ど確信に変わった。

「やはりか」

「気付いていたのか、レイ」

「確信はなかったがな。何となくだが……本当の意味で全力を出している様には思えなかった」

「あれで全力を出してないとか、化け物かよ」

「化け物だろうな」

アラッドはリオの言葉を全肯定した。

最終的にベストな状態だったレイを小細工で倒したが、その小細工は相手の動きを誘導する超難易度の技術。
運良く出来るものではなく、その辺りも含めて化け物であることに変わりはない。

「ただ、それはこっちも一緒だ。隠してる何かが予想を超えないものなら、倒せる……というか、絶対に倒す」

聞き耳を立てていた観客たちは、アラッドの勝利宣言を聞き、目の前の戦闘を忘れてしまう興奮を覚えた。

「ったく、カッコ良いなおい」

「うん、本当にカッコ良いよ!」

「だね。僕も見習わないと」

今のアラッドには、同じ男が憧れる男となっていた。

ただ、リオたちは憧れてるだけじゃ辿り着けないことも理解しており、闘争心に大きな火を灯す。

「自信満々ですわね。私たちも知らない手札を持っている、ということかしら」

「ふふ、そこはご想像にお任せするよ、エリザ嬢」

当たり前だが、それはこの場では口にしない。

とはいえ……アラッドとしては、あまり使いたくない手札もある。
しかし、戦況次第ではそんな我儘を言ってられない。

フローレンスに対してどんな思いを持っているかなど関係無く、次の一戦は絶対に負けられない。
ここまで勝ち上がってきたからこそ、その気持ちは更に大きくなっていた。

(勝たないと、ジャン・セイバー先輩にぶん殴られそうだな)

深い会話をした訳ではない。
それでも剣を、五体をぶつけ合うことで、少なくともアラッドは……ジャン・セイバーの執念を感じ取った。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...