スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
314 / 1,058

三百十四話 何も変わらないと解っていても

しおりを挟む
レイは現在、最高にベストな状態。
それは自他共に認め……このまま攻めの姿勢を続けることが出来たら、勝てるかもしれない。

そんな希望の光が見える。
ただ……その最高な状態を、フローレンスは見破っていた。

レイからは試合開始直後から変わらず、濃密な戦意や殺気が放たれている。
であれば、次に来る攻撃が読みやすいのでは?

そう思う者が多いだろう。
戦闘者でもそう考える者はいるが、レイの場合はそんな単純な話ではない。

同世代の男子を大きく上回る身体能力を有し、技術を疎かにしないストイックさ。
ベストな状態でも、その技術力が失われることはない。

(ここっ!!!)

しかし、その状態では……周囲の状況を考えるよりも、相手にベストな攻撃を与える。
もしくは、ベストな防御を行う。

「くっ!?」

言ってしまえば、攻撃面では相手の隙に食いつきやすい。

レイを相手にそれを行うのは、一歩間違えれば大剣で真っ二つにされる可能性があるが……戦闘の経験数であれば、フローレンスも負けていない。

相手の実力を引き上げるだけ引き上げ、最後は自分が勝利する……といった戦闘を行えるぐらいには、修羅場を乗り越えている。

自ら生んだ隙を上手く利用出来るだけの力はあり、レイはまんまとその策にハマった。
ハマったと言っても、少し体勢を崩した程度。

しかし、二人のバトルにおいては、その小さな隙が命取りとなる。
フローレンスはレイの体勢を見事に崩し、その間に七連続の突きを繰り出した。

(不味い!!)

ベストな状態であるレイは即座に防御態勢を取ったが、防御できた刺突は三つのみ。
他四つの刺突は食らってしまい、更に体勢が崩れる。

幸いにも、全身に魔力を纏っていたので、著しく身体能力が落ちることはなかった。
だが、ここから一気に形勢が変わる。

(このままでは!?)

大きく形勢が崩れたとなると、勝負に影響し始めるのは……武器の相性。

どうしても細剣は大剣よりも手数が多くなる。
完全に後手になってしまうと、フローレンスの実力も実力なため、形勢をひっくり返すことが難しい。
距離を取ろうにも、絶妙な距離を維持する為、中々脅威の連撃から抜け出せない。

そして遂に……その時が訪れた。

「……参り、ました」

状況を打破するために振りかぶりながら距離を取ろうとしたレイだが、その動きをフローレンスは完全に読み、首元に剣先を突き付けた。

まだ体力的には戦えなくもない。
魔力だって限界を迎えてない。

だが、この状況では自身の負けを認めざるをえない。
これで認めなければ、ただの恥晒しになるだけ。

「勝者、フローレンス・カルロスト!!!!」

大激闘の末、勝利したのは連覇を狙う女王、フローレンス・カルロスト。

「本当に良い戦いが出来ました」

「こちらこそ、貴重な試合を体験出来ました」

試合後に握手を交わす二人に、観客たちは盛大な拍手と歓声を送る。

(……この悔しさを、一生忘れるな)

負けてしまったフローレンスに「次の試合も頑張ってください」や「アラッドは本当に強いですよ」などの言葉を口にすることはなかった。

アラッドと公式戦の場で戦えるのは、おそらく今回が最後のチャンスだった。

アラッドがフローレンスに負ければ、再度その機会が得られる?
その可能性がゼロとは言えないが、友人として……一人の戦闘者として、アラッドがフローレンスに負けるとは思わない。

絶対に勝つ……そう確信しているからこそ、余計に目から零れる涙が止まらなかった。

泣いたところで、試合の結果が変わる訳ではない。
いくら涙を流しても、実力が上がることはない。

そう……無駄な事だと解っていても、しばらくの間涙が止まらなかった。

何度も無意味だと思っても、自分の感情には嘘を付けない。
いきなり降ってきたチャンスに、レイはそれだけ気合を入れていた。

それだけに、相手が格上だと解っていても、負けた事実に悔しさを感じずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...