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二百八十七話 リスクはあるよ?
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「アレク先生、お願いします!!!!」
「ん~~~……」
校内戦が始まってから直ぐ、一人の生徒がアレク・ランディードの元に訪れた。
訪れた生徒の名は……ドラング。
アレクの教え子であり、一年生の中でもトップクラスの戦闘力を持つ実力者。
そんなドラングの頼みとは、大会が始まるまで……自分に個人稽古を付けてほしいというもの。
一人の教師として、その日一日生徒の特訓に付き合うぐらいは構わない。
しかし……長期間、その生徒に付きっきりになるのは、あまりよろしくない。
贔屓、という訳ではない。
それでも、生徒の中にはアレクに個人で師事を受けたい生徒が多い。
そういった事情もあって、ドラングの頼みを聞き入れるのは難しいのだが……目の前のドラングは、綺麗に腰を九十度に折り、自分に師事してほしいと頼み込んでいる。
(あのドラングが、随分素直というか丁寧というか……始めて見る態度、と言えば良いのかな)
普段の生活態度がゴミ……という訳ではない。
確かに誰であっても強気な態度を取ることは多いが、決して礼儀知らずではない。
それでも……ここまで誰かに頭を下げる光景は、今まで見たことがなく……正直、アレクは揺れていた。
「ドラング。君が僕にそんな綺麗に頭を下げて師事してほしいと願うのは……大会で、倒したい相手がいるから。そういうことでいいのかな」
「はい、その通りです」
ドラングの瞳に、僅かな怒気と戦意が宿る。
(アラッドのことになると、本当に空気が一変するね)
パーシブル侯爵家の中でも、ドラングとアラッドはあまり上手くやれていない。
その話を知る者は多く、二人の担任であるアレクもその事については知っている。
(校長から受けている命としては、あまりドラングからの頼みを受けるのは良くなさそうなんだけど……それでも、ここで断るという選択肢は……あり得ないよね)
アレクとしては、是非ともドラングの意を汲みたい。
アラッドのことを嫌ってはいないが……今回のチャンスを逃せば、ドラングがこの先公式の場でアラッドを倒せる機会は、もしかしたら一度も訪れないかもしれない。
この学園に入学してから、ドラングが自分の才能に胡坐をかかず努力を積み重ねてきたことは知っている。
(ただ、問題がある)
ドラングの背中を押してやりたい。
頼みに答えてやりたいという思いは本物。
しかし、問題があった。
「ドラング……君の頼み、応えても良いと思っている」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ、本当だよ。でもね、問題があるんだよ。正直、ちょっとやそっとの訓練ではアラッドの追いつくのは難しい。本気で少しでも差を縮めたいなら、本気で……一歩手前まで追い込む必要がある」
ドラングの才能と努力は知っているが、それでも実際にアラッドの戦いぶりを見て、その一端を知り……両者が全力で戦った場合の結果は、わざわざ見るまでもない。
「つまり、僕との訓練を続けていけば……疲労が翌日に抜けず、校内戦で敗れてそもそも個人の大会に出場できない可能性がある」
短期間とはいえ、アレクとマンツーマンの特訓を続ければ、少なからず成果は出るだろう。
しかし、一日そこらでは結果が出ず、その日の疲れが抜けなければ……翌日の校内戦で負ける可能性は十分にあり得る。
確かに今よりも強くなれる可能性はあれど、リスクがある。
だが……それに関して、ドラングは承知済みだった。
「望むところです。死に物狂いで走らなければ……あいつには、追いつけません」
そんな言葉、正直口にしたくない。
自分がアラッドよりも劣ってるなど、認めたくないが……それを本能的に理解してるからこそ、この機会を絶対に逃したくない。
そう思い、アレクにマンツーマンの指導を頼んだ。
「……良いだろう。大会まで、出来る限り君の力を引き延ばそう。ただし、校内戦で負けることがあっても、僕を恨まないでくれよ」
「それは、自分の力で乗り越えます」
力強い瞳を見て、アレクは生徒の成長を確かに感じ取った。
「ん~~~……」
校内戦が始まってから直ぐ、一人の生徒がアレク・ランディードの元に訪れた。
訪れた生徒の名は……ドラング。
アレクの教え子であり、一年生の中でもトップクラスの戦闘力を持つ実力者。
そんなドラングの頼みとは、大会が始まるまで……自分に個人稽古を付けてほしいというもの。
一人の教師として、その日一日生徒の特訓に付き合うぐらいは構わない。
しかし……長期間、その生徒に付きっきりになるのは、あまりよろしくない。
贔屓、という訳ではない。
それでも、生徒の中にはアレクに個人で師事を受けたい生徒が多い。
そういった事情もあって、ドラングの頼みを聞き入れるのは難しいのだが……目の前のドラングは、綺麗に腰を九十度に折り、自分に師事してほしいと頼み込んでいる。
(あのドラングが、随分素直というか丁寧というか……始めて見る態度、と言えば良いのかな)
普段の生活態度がゴミ……という訳ではない。
確かに誰であっても強気な態度を取ることは多いが、決して礼儀知らずではない。
それでも……ここまで誰かに頭を下げる光景は、今まで見たことがなく……正直、アレクは揺れていた。
「ドラング。君が僕にそんな綺麗に頭を下げて師事してほしいと願うのは……大会で、倒したい相手がいるから。そういうことでいいのかな」
「はい、その通りです」
ドラングの瞳に、僅かな怒気と戦意が宿る。
(アラッドのことになると、本当に空気が一変するね)
パーシブル侯爵家の中でも、ドラングとアラッドはあまり上手くやれていない。
その話を知る者は多く、二人の担任であるアレクもその事については知っている。
(校長から受けている命としては、あまりドラングからの頼みを受けるのは良くなさそうなんだけど……それでも、ここで断るという選択肢は……あり得ないよね)
アレクとしては、是非ともドラングの意を汲みたい。
アラッドのことを嫌ってはいないが……今回のチャンスを逃せば、ドラングがこの先公式の場でアラッドを倒せる機会は、もしかしたら一度も訪れないかもしれない。
この学園に入学してから、ドラングが自分の才能に胡坐をかかず努力を積み重ねてきたことは知っている。
(ただ、問題がある)
ドラングの背中を押してやりたい。
頼みに答えてやりたいという思いは本物。
しかし、問題があった。
「ドラング……君の頼み、応えても良いと思っている」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ、本当だよ。でもね、問題があるんだよ。正直、ちょっとやそっとの訓練ではアラッドの追いつくのは難しい。本気で少しでも差を縮めたいなら、本気で……一歩手前まで追い込む必要がある」
ドラングの才能と努力は知っているが、それでも実際にアラッドの戦いぶりを見て、その一端を知り……両者が全力で戦った場合の結果は、わざわざ見るまでもない。
「つまり、僕との訓練を続けていけば……疲労が翌日に抜けず、校内戦で敗れてそもそも個人の大会に出場できない可能性がある」
短期間とはいえ、アレクとマンツーマンの特訓を続ければ、少なからず成果は出るだろう。
しかし、一日そこらでは結果が出ず、その日の疲れが抜けなければ……翌日の校内戦で負ける可能性は十分にあり得る。
確かに今よりも強くなれる可能性はあれど、リスクがある。
だが……それに関して、ドラングは承知済みだった。
「望むところです。死に物狂いで走らなければ……あいつには、追いつけません」
そんな言葉、正直口にしたくない。
自分がアラッドよりも劣ってるなど、認めたくないが……それを本能的に理解してるからこそ、この機会を絶対に逃したくない。
そう思い、アレクにマンツーマンの指導を頼んだ。
「……良いだろう。大会まで、出来る限り君の力を引き延ばそう。ただし、校内戦で負けることがあっても、僕を恨まないでくれよ」
「それは、自分の力で乗り越えます」
力強い瞳を見て、アレクは生徒の成長を確かに感じ取った。
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