上 下
283 / 1,012

二百八十三話 木箱?

しおりを挟む
「アラッド、君に手紙が来ている」

「手紙、ですか」

「あぁ、そうだ。しっかりと読むんだぞ」

教師から渡されたのは封筒……が、入った箱だった。

「……箱、だよな?」

「箱だな」

「箱ね」

全員、教師から渡された物に関して、手紙ではなく箱という認識は同じだった。

(何故に普通の手紙ではないんだ? もしかして、恐ろしいデザインの封筒? …………駄目だ、ぱっと出てこないな)

いったい何故箱を渡されたのか、直ぐに答えは出てこなかった。
とりあえず木箱をテーブルの上に置き、まずは夕食を済ませる。

そして木箱は亜空間の中に入れ、入浴後に自室で教師から渡された木箱を開けた。

すると、中には教師に言われた通り、手紙が入っていた。

「っ……なるほどな。そりゃ木箱に入れて渡される訳だ」

アラッドは手紙の封の部分を見て、直ぐに手紙が木箱に入っている理由を納得した。

封には王印が記されていた。

(国王陛下からか? でも、既にキャバリオンに関してはきっちり送ったんだけどな)

キャバリオンの存在は、既に国王陛下の耳にも入っており、アラッドには特別依頼が届いた。

素材などは全て国王が持つので、とびっきりの一品を造って欲しいと。
その為に用意されたモンスターの素材や鉱石はどれも、思わず涎が出そうなほどの超高級品ばかり。

国王からは余った素材は好きに使ってくれ、という優しさが手紙に記されていたが、アラッドは国王陛下専用のキャバリオン制作に用意された素材を全てつぎ込んだ。

結果、ランク九のフール専用である赤龍帝を超える一品が完成した。

そんな今でも最高傑作として君臨し続けるキャバリオンを送られた国王は、アラッドに大金……加えて、錬金術の素材として使えそうな宝石や鉱石などを大量に報酬として送った。

「フィリアス様からか」

しかし、手紙の主は予想していた国王陛下ではなく、その娘である王女のフィリアスだった。

偶々街中で出会った時以降、数回だけアラッドはフィリアスと会い、互いの近況について紅茶を飲みながら語り合ったことがある。

「……………………その日は、空いてそうだな」

学園に入学するまでの近況と、入学してからの日々についての感想。
そして最後に、指定の日にまたお茶しながら話せないかと記されていた。

(この日は確かに、なにも予定が入っていなかったな。というか、予定が入っていたとしても、こちらの約束を優先しないとって話だ)

フィリアスとしては、指定した日ではない別の日付でも構わないが……基本的に周囲の大人がそれを許さない。

「忘れる前に返事を書かないとな」

ベッドから腰を上げ、椅子に座って早速手紙の返事を書き始める。

フィリアスと同じく学園に入学する前の近況に加えて、学園に入学してからの出来事……に関しては、言葉をマイルドにして記す。
そして最後に二人でのお茶を了承する言葉を知るし、就寝前に既にしっかりと面識がある教師に手紙の送付を頼む。

後日、無事に手紙がフィリアスの元に届いた。
そして当日、フィリアスの手紙に記されていた場所まで赴くアラッド。

「……これ、絶対に普通の木じゃないだろ」

とある喫茶店の前に到着したアラッドは、喫茶店の素材として使用されている木に興味を惹かれる。

(トレント系の木か……それとも、一般的には手に入らない系統の木材か?)

少々恐ろしい雰囲気が漂っており、アラッドとしてはおいそれと魔眼の鑑定効果を使えなかった。

「アラッド様ですね。中へどうぞ」

「あ、どうも」

店の前に到着したアラッドの前に店の店員が現れ、中へと案内。
中へ入ったアラッドはそのまま個室へと通された。

「あの人、絶対に強いよな……勝てるか?」

店の店員と戦うような事態に発展するとは思っていないが、アラッドは店員の隠れた強者のオーラをギリギリ感知し、その強さに驚きを隠せなかった。

色々な事情がある店なのだろうと考えていると、約束の十分前にフィリアスが喫茶店に到着した。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

処理中です...