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二百七十五話 譲れないチャンス
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錬金術を学ぶ学生たちに囲まれたアラッドは、学生たちにいくつか質問された。
ただ、その中にどういった手順でキャバリオンを制作しているのか。
そういった技術を盗もうとする質問をする者はいなかった。
学生たちも一人の技術者として、オリジナルのマジックアイテムという存在がどれだけ価値があるものなのかを知っている為、不躾な質問を行わず……常識の範囲内でアラッドに質問し続けた。
そして数十分後、ようやくアラッドは生徒たちからの質問攻めから解放された。
疲れた……そういった思いがなかった訳ではないが、ちょっとした議論みたいな状態になったので、割と楽しんでいた。
さすがにもう寝ようと思っていると、寮に入る前に一人の鉢合わせた。
「よう」
「……」
その人物とは、弟であるドラング。
訓練を終わり……それが一目で解るほど、ドラングは汗を流していた。
「……アラッド、もう一度聞く。なぜ学園に入学した」
先日の質問時と比べて、今は冷静さがあった。
冷静な状態……ではあるが、その中には静かな怒りが含まれている。
「騎士という爵位を持っていれば、冒険者になった時に色々と動きやすい。他にも色々と理由はあるが、それが一番大きい理由かもな」
父やバイアードが期待していたから……とは口にしなかった。
さすがにそれは、ドラングの前で言ってはならない。
実際のところ、アラッドが取った行動は騎士になる、というのとは違う。
しかし、アラッドが取った行動にフールとバイアードは少なからず、嬉しさがあった。
「…………やっぱり、ふざけてんな」
アラッドが言いたいことは解らなくもない。
だが、本当に騎士の爵位を取れば、ささっと特例で学園を去る……そういった行動も、ドラングにとっては怒りを増幅させる内容でしかない。
「お前からすれば、そう思って当然かもな。でも、お前がふざけんなって思ってるからって理由で、止める訳にはいかない。この件に関しては、俺一人の問題じゃないからな」
アラッドからの要望に応えた学園長としては、是非ともフローレンス・カルロストの二連覇を絶対に止めてほしい。
そう思っているからこそ、普通に考えて無茶苦茶だと思える要望を飲んだ。
「そんなの関係ねぇよ……お前、大会に出るんだろ」
「あぁ、そうだな。そこでフローレンス・カルロストを倒して優勝する。それが騎士の爵位を貰い、特別に卒業できる条件だからな」
「……じゃあ、今から他方面に頭を下げる時の言葉を考えてろ……俺が、絶対にお前を潰す」
弟から、面と向かっての宣戦布告。
今まで自分に絡んできた過去の弟はいない。
目の前にいる弟は……戦士の、戦闘者の顔をしていた。
放つ圧も成長し、アラッドは弟の成長を素直に喜んだ。
(あの頃とは、全く違うな!!)
自分に向けられる圧、戦意、怒り……それらを総じて、アラッドは心地良いと思った。
そして口端を上げ、好戦的な笑みで応えた。
「はは……本当に変わったな、ドラング。いや、ある意味変わっていないとも言えるか……良いぞ、俺もお前を潰す気で戦う。でも、俺と戦うまでにこけるなよ」
「お前こそ、せいぜい普段して足元掬われる様な馬鹿な真似だけはするなよ」
大会に参加する……まず、そこまで学生たちは乗り越えなければならない試練がある。
そして、それを乗り越えたとしても、大会では同じ試練を乗り越えた猛者たちが参加する。
故に……大会に参加したからといって、絶対にドラングがアラッドと戦えるわけではない。
そんなことはドラングも理解している。
理解しているからこそ、このチャンスを絶対に逃すわけにはいかないと、翌日も空いている時間は全て訓練に費やし……打倒兄という目標に邁進する。
一方、アラッドもキャバリオンの制作依頼に追われながらも、日々の訓練を一度たりとも欠かすことはなく続けていた。
ただ、その中にどういった手順でキャバリオンを制作しているのか。
そういった技術を盗もうとする質問をする者はいなかった。
学生たちも一人の技術者として、オリジナルのマジックアイテムという存在がどれだけ価値があるものなのかを知っている為、不躾な質問を行わず……常識の範囲内でアラッドに質問し続けた。
そして数十分後、ようやくアラッドは生徒たちからの質問攻めから解放された。
疲れた……そういった思いがなかった訳ではないが、ちょっとした議論みたいな状態になったので、割と楽しんでいた。
さすがにもう寝ようと思っていると、寮に入る前に一人の鉢合わせた。
「よう」
「……」
その人物とは、弟であるドラング。
訓練を終わり……それが一目で解るほど、ドラングは汗を流していた。
「……アラッド、もう一度聞く。なぜ学園に入学した」
先日の質問時と比べて、今は冷静さがあった。
冷静な状態……ではあるが、その中には静かな怒りが含まれている。
「騎士という爵位を持っていれば、冒険者になった時に色々と動きやすい。他にも色々と理由はあるが、それが一番大きい理由かもな」
父やバイアードが期待していたから……とは口にしなかった。
さすがにそれは、ドラングの前で言ってはならない。
実際のところ、アラッドが取った行動は騎士になる、というのとは違う。
しかし、アラッドが取った行動にフールとバイアードは少なからず、嬉しさがあった。
「…………やっぱり、ふざけてんな」
アラッドが言いたいことは解らなくもない。
だが、本当に騎士の爵位を取れば、ささっと特例で学園を去る……そういった行動も、ドラングにとっては怒りを増幅させる内容でしかない。
「お前からすれば、そう思って当然かもな。でも、お前がふざけんなって思ってるからって理由で、止める訳にはいかない。この件に関しては、俺一人の問題じゃないからな」
アラッドからの要望に応えた学園長としては、是非ともフローレンス・カルロストの二連覇を絶対に止めてほしい。
そう思っているからこそ、普通に考えて無茶苦茶だと思える要望を飲んだ。
「そんなの関係ねぇよ……お前、大会に出るんだろ」
「あぁ、そうだな。そこでフローレンス・カルロストを倒して優勝する。それが騎士の爵位を貰い、特別に卒業できる条件だからな」
「……じゃあ、今から他方面に頭を下げる時の言葉を考えてろ……俺が、絶対にお前を潰す」
弟から、面と向かっての宣戦布告。
今まで自分に絡んできた過去の弟はいない。
目の前にいる弟は……戦士の、戦闘者の顔をしていた。
放つ圧も成長し、アラッドは弟の成長を素直に喜んだ。
(あの頃とは、全く違うな!!)
自分に向けられる圧、戦意、怒り……それらを総じて、アラッドは心地良いと思った。
そして口端を上げ、好戦的な笑みで応えた。
「はは……本当に変わったな、ドラング。いや、ある意味変わっていないとも言えるか……良いぞ、俺もお前を潰す気で戦う。でも、俺と戦うまでにこけるなよ」
「お前こそ、せいぜい普段して足元掬われる様な馬鹿な真似だけはするなよ」
大会に参加する……まず、そこまで学生たちは乗り越えなければならない試練がある。
そして、それを乗り越えたとしても、大会では同じ試練を乗り越えた猛者たちが参加する。
故に……大会に参加したからといって、絶対にドラングがアラッドと戦えるわけではない。
そんなことはドラングも理解している。
理解しているからこそ、このチャンスを絶対に逃すわけにはいかないと、翌日も空いている時間は全て訓練に費やし……打倒兄という目標に邁進する。
一方、アラッドもキャバリオンの制作依頼に追われながらも、日々の訓練を一度たりとも欠かすことはなく続けていた。
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