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二百四十話 良く見えて、良く動ける

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「よろしくお願いします!」

「あぁ、よろしく頼むぜ」

エリナの次はレオナが相手。

両者の武器は……素手。
お互いの五体のみで戦う。

審判はおらず……二人とも構えて呼吸を整え、今回もアラッドが先に飛び出した。
拳、肘、手刀をメインに使い、序盤は蹴りを使わない。

一撃の威力は蹴りの方が上だが、今のアラッドを相手に蹴りで状況をひっくり返そうとするのは難しい。
レオナは冷静な判断を下し、腕の動きを見逃さずに一つ一つ丁寧に対処。

そして隙あらば自分もという意思を見せ、徐々に攻撃を加えていく。

(いや、今日は本当に……動きが良く見えるな)

まだ攻撃は一度もクリーンヒットしていない。
レオナも相変わらず素手での戦い方は上手い。

その凄さは感じているが……いつもの様にその壁に対し、焦りは感じない。
寧ろ……やれる気しかない。

二人の攻撃して躱して捌いての流れが数分ほど続き……未だ決着は着かず。

(良い距離を、保たれてる!)

距離を離したり詰めたり、相手との空間が変わるだけで戦いやすさは変わっていく。
何度かそろそろ蹴りを解禁しようと思い、少しだけ距離を取ろうとするが、離れようとした瞬間に……アラッドがほぼ同時に動き、離した距離を潰される。

つまり、どう動こうともアラッドとの距離が変わらない。
アラッドが断然有利な距離間という訳でもないので、お互いに戦いやすさはそこまで変化なし。

ただ……ここまで距離を縮めることも、離すことも出来ないとなると……まるで操られている様な錯覚を感じる。

(結構マックスまでギア上げてきてるんだけど、それでもまだ躱して捌くか……いや、レオナのポテンシャルを考えれば当然か)

まだまだクリーンヒットなしという状況に対し、驚きはしない。
ただ、自然と負ける気もしなかった。

そんな自信に満ち溢れていると……やけにレオナの動きがゆっくりしている様に感じた。

(あっ、今いける)

本日のアラッドは若干極限の集中状態、ゾーンに入っているのか……それともランナーズハイ状態なのか。
ぶっちゃけ本人もいまいち分かっていない。

ただ、今日は相手の動きが良く見えて、体も良く動く。

アラッドはレオナの体重が乗った右ストレートを少し後ろに下がりながら左手で手首を掴み、内側に巻き込むように捻った。

「おわっ!?」

レオナの体はそのままぐるっと回転し、気付けば体は地面に倒れていた。

「ふっ!! ……俺の勝ちで良いか?」

「は、はい。参りました」

倒れたレオナの顔面に拳が突き付けられ、模擬戦は終了。

「アラッド様、今のはどうやったんですか!!!!」

「ん? えっと、今のはな……なんて言えば良いんだろうな」

元の世界で生活していた時、合気道なんて完全なやらせだと、アラッドは思っていた。

ただ、この世界の基準だと……相手の力を了利用することは出来る。
しかし今日……どう考えても綺麗にレオナの力を利用して投げることが出来たアラッドだが、個人的には技術だけで出来るものではなく、ある程度の力は必要だと感じた。

(そもそも爺さんやひょろいおっさんが、あんな軽々人を投げられる訳ないしな。それに、体の体重移動? が、全力で一つの方向に向いてないと厳しい)

レオナの最後の右ストレートが、右半身ごと動かすものでなければ、絶対にあそこまで綺麗に投げられなかった。

色々条件は難しいなと感じた……しかし、ある程度どんな状況で仕えるのかは理解した。

「自分で言うのはちょっと恥ずかしいんだけど、相手の体重の動き? みたいなのが一つの方向に思いっきり動いてたら、その力を利用して投げることが出来た……ってな感じかな」

「た、体重の動き、ですか?」

「いや、そういう反応になるよな……よし、ちょっと全力で殴り掛かって来い」

「えっと……分かりました!!!」

自分が全力で殴ってもアラッドにダメージを負わせることが出来ないと解っているので、孤児院の冒険者志望の少年は言われた通り、全力でアラッドに殴り掛かった。

「……えっ? いでっ!?」

「どうだ、解ったか」

「は、はい。何となくですけど、解りました」

言葉だけでは解らなかったが、少年はアラッドに投げられ、その言葉の意味を何となくではあるが感じ取った。

だが、実際にやれるかと訊かれたら、絶対に無理だと答える。
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