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二百三十九話 初越え

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「ま、参ったっす」

広い広い庭で模擬戦していたアラッド。

何度も何度も行ってきた模擬戦だが……今回、初めてリンに勝利した。
アラッドの勝ちが決まり、自然と周囲の者たちは湧いた。

何故なら……単純にまだ、アラッドがリンやエリナたちに勝てたことがなかったからだ。
孤児院の子供たちなど、自分のことの様に喜び、大はしゃぎ状態。

「はしゃぎ過ぎだっての……まぁ、俺も嬉しいけどさ」

嘘ではなく、本当に心の底から嬉しいと感じていた。

普段は鍛冶師ごとに勤しむリンだが、訓練の時は真面目に集中して取り組んでいた。

偶に同じ奴隷の面子を誘ってモンスターを狩ったりもしているので、実戦の勘が鈍ったりしてもいない。

「いや~~、強くなったっすね。アラッド様」

「リンたちと出会って……四年ぐらいか? ようやくって感じだな」

「いや、そうかもしれないっすけど…………いやはや、完璧にやられたっす」

コテンパンに、圧倒的に負けたという訳ではない。
寧ろ戦闘内容だけ見れば接戦だったが、一瞬の小さな隙を突き、アラッドが勝利した。

(技術は着実に身に着けている……まっ、この段階で勝てたってことは、身体能力がリンたちに近づいてきたってことが大きな要因ってのもあるだろうな)

四年前と比べてアラッドはレベルだけではなく、体も大きく成長した。
レベルアップによる身体能力向上に加えて、体格の成長。

それらが重なり、四年前と比べてアラッドの身体能力は激的に伸びたと言っても過言ではない。

「俺も成長したってことだな」

「そうっすね。色々と成長したと思うっす」

アラッドが目標だったキャバリオンを完成させたことはリンも知っている。

戦闘だけではなく、錬金術の腕も確実に成長していた。
そんな主人を見ていると、自分ももっと成長しなければと思いながらも……とりあえず負けたので、少し休憩タイムに入った。

「……エリナ。次、相手してくれるか」

「は、はい。勿論です! ただ、休憩を挟まなくてもよろしいのですか?」

「あぁ、構わない。今日はなんだか調子が良いからな」

「かしこまりました」

確かにエリナの眼から視ても、今日のアラッドはいつも以上に動きにキレがある様に思えた。

(気を抜いては駄目。相手になるのではなく……倒す気で挑まなければ)

鬼気迫る表情、という訳ではないが……それでも本日のアラッドはいつもと違った圧がある……ように感じた。

その圧を感じ取ったのはエリナだけではない。

「いくぞ」

木製の双剣を構え、攻める攻める攻める。
息もつかせぬ連撃で一気に主導権を握る。

(このままでは、いけない!!!!)

アラッドのことは心の底から慕っている。
しかし、模擬戦の相手になるということは……アラッドの糧となれる存在でなければならない。

と、エリナは勝手に解釈している。

故に……ここで簡単に勝ちを奪い取られてはならない。
エリナらしくない足癖でアラッドとの距離を取り、同じ様に木製の双剣で……これまたらしくない、苛烈な攻めで攻守を逆転。

「す、すげぇ」

孤児院の子供たちは自分の訓練に集中するのも忘れ、二人の模擬戦に釘付けになっていた。

元々アラッドだけではなく、エルフのエリナも凄いというのは解っていた。
それでも……本日の模擬戦にはいつも以上の激しさ、強さを本能的に感じ取っていた。

「くっ!?」

しかし、今日のアラッドは本当にノリに乗っていた。
相手の動きを良く見えていると言っても良い。

先程のリンとの模擬戦のように、戦闘内容としては接戦だった。
観客たちから見ても、とても良い勝負だと言える。
本人としても悪くないと感じていたが……隙と呼ぶに小さい穴を一瞬で突かれ、形勢逆転。

双剣の片方は蹴り飛ばされ、アラッドの剣先が喉元に突きつけられる形で終了。

「参りました」

再度、雨の様に拍手が降り注いだ。

(今日は……良い感じだな)

今の自分は絶好調だと確信し、休まずに次の対戦相手を呼んだ。
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