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二百三十二話 昼食が出来上がるまで

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孤児院の子供たちの中には、当然……アラッドの様に将来的には冒険者になりたいという者がそれなりにいる。

年長者であればアラッドと同い歳、もしくは一つ上なのだが……侯爵家の令息で、自分たちを拾ってくれたアラッドには当たり前のように様付けで呼んでいる。

アラッドはその感覚が少しもどかしいと感じたが、立場的にはその呼び方が当然で当たり前なので、変更を申し出ることはなかった。

「……ふぅーーー。仕方ないな、ちょっと待ってろ」

その場から離れ、年少組と遊んでいる孤児院の院長……マザーであるアルリアの元にやってきた。

「アルリアさん、これ使って昼食の準備をお願いしても良いですか」

「あらあら、分かりました。少しの間待っていてくださいね、アラッド様」

「うっす」

当然、アルリアにとってもアラッドは孤児院がもはや孤児院と呼べない程の環境を整えてくれた大恩人。
アラッドが様呼びに対して少々もじもじしていたとしても、その呼び方を止めることは出来ない。

「それじゃ、お願いします」

厨房で亜空間に入れていたモンスターの肉を大量に取り出し、孤児院専属の料理人たちは気合を入れてマザーやシスターたちと昼食の準備を始めた。

「待たせたな。人数的に……昼食まで、一人一回だ。直ぐに終わらせたりはしないから、じっくり色々試してこい」

「「「「「「「はい!!!」」」」」」」

既にアラッドに挑む順番は決めており、金髪マッシュの少年が一歩前に出た。

「よろしくお願いします!!」

「おう」

少年が使う得物は木剣。
アラッドも同じくなるべくマッシュ少年が怪我をしないように木剣を使用。

アラッドは反撃などをする際に、なるべく少年少女たちに怪我をさせないようにと気を付けながら動かなければならないが、逆に少年少女たちは周囲に影響を及ぼさない程度に……全力でアラッドを倒しに行く。

本気で冒険者になりたいと思っている子供たちはアラッドに習い、毎日絶えず訓練を続けている。
その為の教師もアラッドが用意しているので、成長率も貴族の令息や令嬢と比べても劣らない。

とはいえ、ガルシアやリーシア、リンと模擬戦を行っているアラッドの戦いぶりを見れば……自分たちと殆ど年齢は変わらずとも、圧倒的に強いことなど身に染みて解る。

故に子供たちは全力で……力の限り無理だと解っていても、諦めずに全力で倒しに行く。

「よし、次だ」

しかしアラッドも上手く防御と回避、攻撃を上手く繰り返しながら子供たちの全力を受け止め……サラッと急所に木剣の先を当てて、約一分ほどで模擬戦を終わらせていく。

「良い連撃だったぞ。次」

「避けるのが前より上手くなったな。次」

「前より防御力が上がったんじゃないか? その調子で頑張れ。次」

流れ作業のように並んでいる子供たちとの模擬戦を繰り返し……終わる頃には、丁度料理人やアルリアたちが全員分の昼食を作り終えていた。

「これで全員終わったな……多分準備が出来たっぽいし、昼飯を食べに行くぞ」

「は、はい」

「うっす」

一分間という時間の中で、全員が本気を出して挑んだが……誰一人として攻撃をアラッドに掠らせることも出来ず、終了した。

「はぁ~~~、今日も無理だったか」

「そりゃアラッド様だからな。いや、ガルシアさんやレオナさん、シーリアさんに先生たちが相手じゃ、今の俺たちじゃ全く敵わないけどよ……でも、負けてらんないよな!!」

「だな。もっともっと頑張らないと」

今まで貴族という存在に対して良いイメージを持っていなかった子供たちだが、アラッドたちと出会ってからかなりそのイメージが変わった。

しかし、いずれ孤児院から旅立つ子供たちの考えを心配したアラッドは、こんな面倒な野郎もいるんだよという話をキッチリ教え、初対面の相手は誰であろうとそう簡単に信用してはならないぞと伝えた。
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