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二百三十一話 慣れるしか方法はない

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「あの時のアラッド様はまさに鬼神といっても過言ではありませんでした!!」

エリナが大袈裟にその凄さを表現すると、孤児院のまだ幼い子供たちは一斉に歓声を上げる。

子供たちはまだ十二歳のアラッドが、如何に強くて凄いのか……アラッドたちの模擬戦を観ることは許可されているので、十分に解っている。

「……なぁ、エリナの奴……ちょっと大袈裟に言い過ぎじゃないか?」

「そ、そうでしょうか。私はその場にいなかったので何とも言えませんが……エリナ姉さんは、子供が相手でも嘘を言うことはありません」

ちょっとした冗談を言うことぐらいはあるが、エリナがアラッドの武勇伝について嘘の内容を子供たちに伝えることは、まずない。

「それはそうだけどさ……俺がちょっと恥ずかしいんだよ」

自分の武勇伝について、一切語るなとは言わない。
ただ、孤児院の子供たちにせがまれることは多く、自分で伝えるのはやや恥ずかしさがあり、そこら辺はエリナたちに任せている。

とはいえ……あれだけ大袈裟に伝えられると、どちらにしろ恥ずかしさはある。

しかし、トロル亜種と戦うアラッドはまさに鬼神といっても過言ではない。
それは同じくあの場で激闘を見ていたガルシアや兵士たちも同じ感想だった。

「ふふ、私もアラッド様の立場なら恥ずかしいと思うかもしれません。ですが……あそこまでエリナ姉さんが楽しそうに語るのを見ると、やはりアラッド様とトロル亜種の戦い……間近で観てみたかったと思ってしまいますね」

「シーリアも物好きだな。言っておくけど、あの時俺……意識飛びかけてたんだからな」

初めて無意識に狂化を使い、普段以上の身体能力を手に入れてなんとかトロル亜種を倒したアラッドだったが、戦闘中……殆どアラッドの意識はなかった。

戦闘中は今まで蓄積してきた戦闘経験が脳を動かし、体に伝えて戦っていた。

ある意味考えることを捨て、尚且つ適切に動けていた……一種の無我の境地、と言っても過言ではない。
普通は狂化を使えば身体能力は上がれど動きが大雑把になってしまうものだが、アラッドは元々武器や体技、魔法に糸など複数の手札を使って戦うスタイルだったこともあり、動きが単純にならなかった。

ただ……それでも初めて狂化を使い、その狂暴性までは完璧にコントロール出来ておらず……クロの声が耳に入らなければ、魔力が切れるまで戻れなかったかもしれなかった。

「それだけクロが愛されていた、ということですね」

「良い方向にもっていこうとするな、ったく」

あの時のことは今でも反省しなければと思っている。
まさに我を忘れ、怒りに身を任せてしまった状態。

狂化というそれなりに珍しいスキルをゲットできたことは嬉しいが、怒りに感情を飲まれてしまっては話にならない。

トロル亜種を倒した日、屋敷に戻ってからアラッドは狂化についてこっそりとフールに相談した。

「なるほど。なんか一皮むけたなって雰囲気が出てたのはそういう事があったんだね。それで狂化についてだったよね。そうだな…………実は騎士団の中にも何人か狂化のスキルを持っている人がいるんだけど。使いこなすには何度も実戦で使い続けて、慣れるしかない……って皆言ってたね」

そう、明確なコツというものはなく、使って使って使い続けて慣れるしかない。

そんな当たり前すぎるアドバイスを貰い、アラッドは翌日から森の中でモンスターと戦う日は、絶対に一度は狂化を使って戦う様に決めた。

そこで自分の限界を知り、ギリギリのラインを見極め……更に限界を徐々に伸ばしていく。
糸をメインに使った戦い方についても実戦で磨いていったが、そこからは本当に慣れるまで狂化のスキルを意識して戦うことが多くなった。

「アラッド様、俺たちと模擬戦してくれませんか!!!!」

アラッドがシーリアと芝生に腰を下ろして息抜きしていると、孤児院の中でも年長の者たちがアラッドに声を掛けてきた。
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